ジャヤ(49) 「3時間よ!ルフィ!それ以上出航時間をのばしたら、空島へのチャンスをあんたが逃す事になるのよ!」 ナミの言葉を思い出し、ルフィは全速力で走る。息は上がるが、脳裏に映るのはボロボロのクリケットたちと連れ去られたフミの顔だった。 これはベラミーがフミを連れ去った時に遡る。 「すまん…ほんとにすまん…おれ達が付いていながら情けねェ…!お嬢ちゃんを沢山傷つけちまった…」 血塗れのクリケットの言葉を思い出す。フミが心配でたまらない。 「あんにゃろォォォオー!!!!」 ルフィは全速力で走って、走ってー… ーーーーーーーーー 「顔見せろ、フミ」 「やだ、や、だ……む、り」 その後、一発でベラミーを倒したルフィはフミに歩み寄る。 泣きじゃくるフミにルフィは優しく抱きしめることしかできない。震える体にベラミーへの怒りがまた込み上げてくる。 フミの手首を掴み、力を少しこめて顔から除ける。 「殴られたのか。」 「…ごめん、ルフィっ、」 「なんで、フミが謝るんだよ」 「弱くて…守れなくて…頼りなくて…」 殴られた頬を優しく撫でて、口元の血を服の袖で拭う。泣きながら謝り続けるフミにルフィは、やっと気がついた。 「おれは、やっぱりフミが特別なんだ。だから、フミを頼ってねェんじゃなくて、どうしても守りたかった」 フミの涙を指で拭いながら、ルフィはフミに伝えた。フミは頼られたかったのだと、気が付いたからだ。 「私だって、海賊になった…んだよ…ルフィに頼られたい」 「うん」 「弱い自分が嫌なの」 「…おれのワガママでフミを海に連れてきたから、怖い思いさせたくねェし、痛い思いもさせたくなかった。けど、違ェんだな。」 「うんっ、私も海賊として麦わらの一味になりたい。弱くても、必死に海賊になりたい」 「ししっ!もうおれの仲間だけどな。フミ、おっさんの金塊を守ってくれて助かった!ありがとう」 フミの頭をルフィが優しく撫でると、また泣き出してしまった。頼られたかったフミが今1番欲しかった言葉を、ルフィが言ったからだ。 「ルフィっ、避けちゃってごめんね」 「おう!辛かった!」 「助けてくれて、ありがとう」 「いつでも助けてやる!だからフミはおれの見えるところで、戦ってくれ!フミは弱ェから、それは約束だ。」 「うん、わかった!」 自分が弱いのだからそれは仕方がないが、戦っていいという許可が出たのでフミは納得した。 ルフィもフミを特別に扱いすぎたことを後悔した。それでフミを悩ませてしまったし、海賊として一緒に海に出たことを考えていなかった。 「恋人もいいけど、仲間としてよろしくねルフィ」 「いや。フミはおれの女で仲間だ!」 「合ってるよ!?伝わってるならいいんだけど…」 「あ!早く船に戻って傷の手当てしねェと。他に怪我ねェか?」 「怪我はないけど、首舐められた」 ルフィに嫉妬して欲しくて、フミは言わなくて良かったが首を舐められた事実を伝えた。すると、ルフィの眉間に一気に皺がより、フミの手首を掴んで酒場へと連れ込んだ。 「今すぐ洗い落とす!!!」 「ちょ、ルフィっ」 酒場の水を首にかけられ、ゴシゴシとルフィの手で洗われる。思っていたのと違うが、嫉妬してくれたのは変わらないため、フミは結局嬉しかった。 首筋を撫でながら、ルフィは何度もフミにキスをする。それくらい、心配だったのだろう。何度も何度も角度を変え、フミが無事で良かったと証明するかのように激しいものだった。 「ちょ、ルフィっ」 「ん、?」 「人が来た、ら…んっ」 「心配だったんだぞ、フミがいなくなったって。」 「うん、ごめんね、でも」 「キスくらいさせろよ」 ルフィの言葉にフミはキスを止めることができず、逆にドキドキしてしまいキスに応えるしかない。 舌が侵入してきて、思わずフミの声が漏れるがルフィは気にせず続けた。この続きを、2人はまだ知らない。が、あることは知っている。 「なんかダメだ、止まんねェ。嫉妬で狂いそうになるんだ」 「他は何もされてないよ、それにルフィしか見てない」 「でも、触られたアイツに。」 濡れた首筋を舐められ、ゾクゾクと背筋が変な感覚に陥りフミはこれ以上ダメだと判断した。 「ルフィ、だめ。船に戻ろう。」 「…………んー……わかった。けど、この続きってどうやるんだ…?フミともっとくっ付きたい」 「…恥ずかしいけど、ナミに聞いてみる?」 「そうだな。ナミなら知ってそうだ」 ナミへの絶対的信頼がある2人だが、ナミは全力で面白がるだろう。 2人は酒場にあったクリケットの金塊を持って、手を繋ぎながら酒場を出た。 そこには、気絶したままのベラミーと逃げたはずの一部の仲間たちが戻ってきている。 「オイ…オイてめェ!!待てよ、まだおれがいるだろう!?」 「やめろ!サーキース!」 「さァかかってこい!おれ達が夢追いのバカに負けるわけねェ!どうした!おい麦わら!どこ行くんだ!」 サーキースという男が、ルフィの肩を掴もうとするが、ルフィが振り返っただけで腰を抜かしてしまった。 「どこって……空!」 ルフィは空を指差しながら、真顔で言った後また船の方へ歩き出した。サーキースはただ震えることしかできなかったという。 ーーーーーーーーーー 船への道中、なかなか進めずにいた。なぜなら。 「ルフィっ、早く行こうよ」 「フミ!!見ろ!!ヘラクレス!!」 「もう朝になるから!出航が遅れちゃうっっ」 「ちぇっ、あ、川がある!」 「ルフィ!!」 「フミの傷!洗わねェと!」 そう言われるとフミも何も言えず、大人しく川へと着いていった。 川は透き通るほど美しく、魚も数匹泳いでいる。朝方なので少し冷えている水で顔と、転んだ時の傷にかける。ルフィもゴシゴシと顔を洗っていた。 「この水うめェっっ!!」 「ほんとだ……なんか小さい頃を思い出すね」 「フミはまだ小さいぞ」 「違うよ!幼い頃ってこと!」 「あー…川の水飲んだな!エースと!サボと!」 幼い頃も、4人でよく川で遊び水を飲んだり掛け合ったり、流れたりとよく遊んでいた。その時を懐かしみながら、フミは成長したルフィを見る。正直、助けに来た時のルフィはカッコ良すぎるほどカッコよかったとフミは赤面した。 「ん、どうした?」 「ルフィ、カッコ良かったなぁって」 「フミ、おれ言ったよなキス止められねェって」 「え、ちょ、わっ!!冷た!」 ルフィも顔を赤くしながらフミに覆い被さり、フミは川に尻餅をついた。ルフィもびしょ濡れになりながら、フミを鼻が当たるほどの近さで見つめる。 「これ以上したら、おれは止められない。なんかわかんねェけど、興奮してフミが欲しくなる」 ストレートに想いを伝えられ、フミはどんどん身体が熱くなる。 「私だって、興奮はするよ…?」 「無理無理無理!!それ無理だフミ!」 「え、なに!?」 「かわいんだよ、いちいち!!」 我慢できず、真っ赤な顔でルフィはフミにキスをした。何度も何度も、水でびしょ濡れになろうが関係なく求め合うように。 太陽が登り始め、辺りがどんどん明るくなっていく。ルフィはフミの足を撫でたり、首を撫でたり、頭を撫でたり、手が動いていた。 「ルフィ、だめ……なんか、」 「フミ、かわいい。気持ちいいのか?」 「ん、わからない…変な感じ」 太ももを撫でた時のフミの頬を赤らめて歪む表情がルフィを刺激する。ここからの進み方がわからないため、撫でててキスしたの繰り返し。頭がぼーっとしてフミは何も考えられなかった。 「…んっ、あっ」 「なんだその声、興奮する」 「わかんない、どうしようっルフィっ」 「もっと聞きてェ」 「だ、めっ……恥ずかしい」 ルフィはフミの胸に手を伸ばした。ずっと触れてみたかったが、こんなに柔らかいものだとは知らなかった。 「フミ、ここ柔らかい」 「…うん、…んっ、…ルフィ…」 「どうしよ、フミ、止まんねェ」 キスがしたくて仕方なくなり、そしてどんどんキスでは足りなくなっていく。 お互いが、同時にこれ以上はダメだと感じた。この続きを何も知らないからだ。 「ルフィ、早く行かないと」 「そうだな、空行かねェと」 最後に、長くキスをして立ち上がる。お互いの服はびしょ濡れだが、気にせずに手を繋いでまた船の方へと歩き出した。そこからは他愛もない話をしながら、2人の心臓はバクバクと波打っていたという。 太陽が登る。メリー号が見えたのでルフィとフミは走り出した。約束の時刻より46分オーバーかつフミが心配なナミはイライラした様子である。 「遅い!!!」 案の定、ナミは鬼の形相で2人を出迎えたがフミの姿をみた途端に顔が青ざめてしまった。 「フミ!頬は赤いし、びしょ濡れよ。ルフィ!ちゃんとアイツ殺したんでしょうね!?」 「殴った!」 「フミがこんなことされて…!殺しなさいよ!」 「いや、怖ェよ!」 ナミの鬼のような顔にウソップが怯えながら言った。 「フミ今すぐ冷やさねェと!こっち来てくれ!」 「ありがとう、ナミちゃんチョッパーくん」 「もし傷が残るようなことがあったら…アイツは私が殺すわ」 「いんや、それはおれが殺す!」 「アイツが誰だか知らんがおれも止めねェ!」 ナミ、ルフィはベラミーの顔を思い出し、ウソップは見た事はなかったがフミの為に参戦するそうだ。 皆の心配が嬉しいフミは頬を緩ませながら、チョッパーに治療される。 「うわ!すっげェな!」 「ゴーイングメリー号フライングモデルだ!」 羽のような板と船首のメリーにはトサカが付いていて、まるでニワトリのようだ。ルフィがメリー号を見上げて興奮している。 「飛べそー!!!!」 「だろう!?」 「私あれ見ると不安になるわけよ…」 「まァ、そうだなニワトリよりハトの方がまだ飛べそうな…」 「それ以前の問題でしょ!バカね!」 男性陣は船に納得いっているようだが、女性陣は不安が募る。フミはニワトリのようで可愛いため、気に入っている様子だった。 チョッパーから朝の分の薬を渡され隠れて飲んだあと、フミはルフィと共にクリケットの前に歩いていく。取り返した金塊を目の前に差し出した。ベラミーにやられ、怪我をしたので包帯でぐるぐる巻きの様子にフミは胸が痛んだ。 「さっさと船に乗れ。時間がねェ。空へ行くチャンスを棒に振る気か!バカ野郎が!」 「うん、ありがとう船」 灰皿には山ほど吸い殻が溜まっている。心配で煙草がやめられなかったのだろう。 フミもルフィに習い、小さく礼を述べた。 「礼ならあいつらに言え。」 「ああ!ありがとう!おめェら!!」 すでに自分たちの船に乗っているマシラとショウジョウに大きく手を振るルフィにフミも続いて手を振った。 「とにかく急ごう!船に乗れ!間に合わねェぞ!」 「おれたちが先導するから付いてこい!」 ルフィは大慌てでメリー号へと走っていく。フミも続こうとしたが、クリケットを振り返り頭を下げた。 「嬢ちゃん、おれたちの夢を守ってくれてありがとよ。あいつには照れ臭くて言えねェがな」 「私は守れたんでしょうか?」 「おれ達の誇りは守ってくれたさ。傷が残らねェといいが…」 クリケットと同じく包帯でぐるぐる巻きのフミを見つめ、顔を歪める。 「海賊に傷は付き物でしょ?」 「ハッ、お前さんも何か吹っ切れたみてぇだな」 「クリケットさん!空島行ってくる!」 満面の笑みでフミはクリケットに手を振る。するとタイミングよくルフィの腕が伸びてきてフミの腰に巻きつき、同時にメリー号の方へ飛んでいった。その様子にクリケットは思わず声を上げて笑う。 「フミ!何話してたんだ?」 メリー号へと引き寄せられたフミはクラクラする頭を落ち着かせる。ゴムの力で引き寄せられる時、視界がぐるぐると切り替わる為、目眩を起こすのだ。ルフィがじっと見つめてくるので、フミはすぐに口を開く。 「行ってきますしてきた!」 「ししっなんだそれ!」 「猿山連合軍!!!!!」 クリケットの声が聞こえ、マシラとショウジョウが「ウォォォォ」と元気よく応えた。 「ヘマやらかすんじゃねェぞ!たとえ何が起きようと!こいつらの為に全力を尽くせ!」 金塊を取り返して、誇りを守ってくれたルフィとフミへ恩を返すように。クリケットはマサラとショウジョウ達に向けて伝えた。 その声にルフィはニヤリと笑う。 「よし!行こう!」 「みんな出すわよ」 「よっしゃあ!」 「アーーーイ!ナミさん!」 みな船を出す準備に取り掛かろうとした時、クリケットがメリー号に近づいてくる。 「小僧!おれァここでお別れだ!一つだけこれだけは間違いねェ事だ!」 「!?」 「黄金郷も空島も過去誰1人“無い“と証明できた奴ァいねェ!」 「うん!!」 「バカげた理屈だと人は笑うだろうが、結構じゃねェか!それでこそ!“ロマン“だ!!」 「ロマンか!そうだ!」 「金を…ありがとよ…!おめェら空から落ちてくんじゃねェぞ!」 「ししし!」 さっきは照れ臭いと言っていたがルフィにお礼を言えたクリケットにフミは小さく笑った。 「じゃあなおっさん!」 「クリケットさん!ありがとう!」 「おやっさん黄金郷はきっとあるぜ!」 「おっさん無茶すんなァ!」 「余計なお世話だァ!!」 メリー号からそれぞれクリケットに声をかける。クリケットは笑顔で遠ざかるメリー号に手を振り続けた。 メリー号はノップアップストリームに向けて、マサラとショウジョウの船を後から追いかけていく。 prev next 戻る |