ジャヤ(47)

ドンチャン騒ぎとはこのことを言うのだろう。小屋の外まで響く笑い声。

「いや今日はなんて酒のうめェ日だ!」

「さァ食え食え!まだまだ続くぞサンマのフルコースは!」

叫び声や笑い声、一味の食卓はいつも賑やかだ。ルフィはでフミの横に座りサンマを貪っている。

「フミー?もっと食えよ!うめェぞ」

「ルフィ、あとで話がある」

「ん、なんだ?」

「終わってからでいいよ。あ、私もそれ食べたい!」

「おう、わかった!…サンマか?ほら。」

フミが怒っていたのは覚えている為、なんとなくルフィは勘づいていた。ずっとモヤモヤしていた為、フミから話してくれるようでルフィは安堵する。さっきも恐る恐る話しかけたのだが、今は普通に笑顔で話してくれるのでルフィも自然と笑顔になった。

そんな酒の席から離れ、静かにお酒を飲む1人。

「オウ!ねーちゃんこっち来い!ここ座れ!」

クリケットが声をかけるも、ロビンの耳には入っていない。ロビンはノーランドの航海日誌を読んでいたからだ。あるページで手が止まっているのを見てクリケットはロビンに近づき、航海日誌に目線を向けた。

「髑髏の右目に黄金を見た」

「!!!」

突然目の前に現れたクリケットにロビンはビクッと肩が弾んだ。黄金という言葉に反応したナミは目を輝かせる。

「涙でにじんだその文がノーランドが書いた最期の文章。その日ノーランドは処刑された」

クリケットはそう話しながら、酒をぐいっと飲み干した。

「このジャヤに来てもその言葉の意味は全くわからねェ。髑髏の右目だァ!?コイツが示すのはかつてあった都市の名か、それとも己の死への暗示か…後に続く空白のページは何も語らねェ。」

興奮気味のクリケットにルフィは満面の笑みを見せた。夢を語る男がルフィは好きだからである。

「だからおれ達ァ潜るのさ!夢を見るのさ海底に!!」

「そうだぜウキキィ!」

「おれ達ァ飛ぶぞー!!」

「空へ飛ぶぞー!」

おおー!と気合を入れる男たち。ロビンは笑みを浮かべ、酒の席へと移動した。

「ジャヤ到着の日!1122年5月21日の日記!」

クリケットはすでに航海日誌の内容を暗記しているらしい。それほど読み込んだのだろう。ノーランドがジャヤに到着した日の出来事を話し始めた。

ーーーーその島につき我々が耳にしたのは、森の中から聞こえる奇妙な鳥の鳴き声と大きな、それは大きな鐘の音だ。巨大な黄金からなるその鐘の音はどこまでもどこまでも鳴り響き、あたかも過去の都市の繁栄を誇示するかのようでもあった。広い海の長い時間に咲く文明の儚さによせて、たかだか数十年生きて全てを知る風な我らにはそれはあまりにも重く言葉をつまらせる。我々はしばしその鐘の音に立ち尽くしたーーーー

ノーランドは何とも楽しそうに日記の一部を述べた。

「あー!イカすぜノーランド!」

「素敵!巨大な黄金の鐘だって!」

「おっさん何だよ!やっぱノーランド好きなんじゃねェかっ!」

ノーランドが楽しそうに語るので、他のみんなの表情も柔らかくなり笑顔になった。気分が高まったのか、ノーランドは何か白い布に包まれたものを取り出してくる。
白い布を剥いだ瞬間、ナミの目が輝いた。

「これを見ろ!」

「うわっ!黄金の鐘っ!」

「…で、どの辺が巨大なんだ?」

見る限り、手のひらサイズしかない黄金の鐘にウソップは首を傾げる。

「別にこれがその鐘というわけじゃねェ。鐘形のインゴットだ。これを3つ海底で見つけた!」

「何だよ、あるじゃん黄金都市」

「そーいう証拠にはならねェだろ。この量の金ならなんでもねー遺跡からでも出てくる。」

「インゴットって何だ?」

「だけど、この辺りに文明が合った証拠にはなるわね。インゴットは金をグラム分けするために加工されたもの。それで取り引きがなされてた事になるわ。」

ロビンの答えにチョッパーとフミは深く頷くが、本当に理解をしているのかは分からない。

「そう、それに前文にあった奇妙な鳥の鳴き声…おいマシラ。」

「オウ」

クリケットに呼ばれたマサラはもう一つ、布を被せていた黄金を取り出してきた。それは、奇妙な鳥の形をしている。

「わ!まだあんのか!」

「こっちはデケェな!」

子供サイズくらいあるそれにナミの目の輝きは止まらない。

「これで全部だ!ハハハ、10年潜ってこれだけじゃ割りに合わんが…」

「うわあっ…綺麗…!!」

「何だこれペンギンか?」

「黄金の鐘に鳥…それが昔のジャヤの象徴だったのかねェ」

「わからんがこれは、何かの造形物の一部だと思うんだ」

クリケットはタバコを吸いながら答える。その煙にフミは少し咳き込んでしまったが誰も気に留めなかった。

「こいつはサウスバードって言ってちゃんとこの島に現存する鳥だ。」

「鳴き声が変なのか?」

「ああ。日誌にある通りさ………」

「サウスバードと言やあ、昔から船乗りの間じゃ…」

クリケット、マサラ、チョウチョウは一度停止し、そして大きく目を見開いた。

「「しまったァ!!!!」」

突然大声をあげた3人に、一味は驚く。大慌ての3人は口をパクパクと動かし、思考停止していた。

「こりゃまずい!おいお前ら森へ行け!南の森へ!」

「は!?何言ってんだおっさんアホか?」

「この鳥を捕まえてくるんだ!今すぐ!」

「何で!?何が!?」

「鳥が何だよ!?」

先程まで楽しく宴をしていたと言うのに、何故森へ行かなければならないのか。疑問しか浮かばず、一味はクリケットを質問攻めにする。

「いいか!?よく聞け!お前らが明日向かう"突き上げる海流"(ノックアップストリーム)この岬から真っ直ぐ南に位置している。そこへどうやって行く!?」

「船で真っ直ぐ進めばいいだろ」

「ここはグランドラインだぞ!?一度外海へ出ちまえば方角なんて分かりゃしねェ!」

何も分かっていない麦わらの一味船長ルフィにクリケットは怒鳴った。

「…そうか!目指す対象が島じゃなくて海だから頼る指針が無いんだわ!じゃ…どうすれば真っ直ぐ南へ進めるの!?」

ピンときた航海士のナミだが、真っ直ぐ南へ行く方法はナミにも分からない。

「そのために鳥の習性を利用する!」

ある種の動物は体内に正確な磁力を持ち、それによって己の位置を知るという。
その話はナミも聞いたことがあった。ハトとかサケはそんな能力があるらしい。

「じゃあゾロ!お前は動物以下だな!」

「てめェが人の事言えんのかよ!」

ルフィにだけは言われたくないゾロはツッコむが、どっちもどっちだとウソップは心の中だけで呟いた。

「サウスバードはその最たるものだ。どんなに広大な土地や海に放り出されようともその体に正確な方角を示し続ける!とにかく!この鳥がいなきゃ何も始まらねェ!空島どころかそこへ行くチャンスに立ち会うこともできんぞ!」

「何で今ごろそんなこと言うんだよ!」

「もう真夜中だぞ!今から森へ入れって!?」

「ガタガタ言うな時間が無ェんだ!おれ達はこれからお前らのボロ船の強化にあたる!考えてみりゃ宴会やってる場合じゃなかったぜ!」

「だから今頃言うなって!」

一味は大慌てで森に行く準備をする。気持ち程度の網をクリケットに渡された。
チョッパーは隙を見て、フミに近づきその耳に口を寄せる。

「フミはダメだ。こんな夜中に無理しちゃいけないぞ」

「でも、チョッパーくん。私だって力に」

「医者として、許すわけにはいかない。フミが悩んでるのも知ってるけど、おれは無理してほしくないんだ」

チョッパーにじっと見つめられ、フミはまた自分の不甲斐なさに涙が出そうになる。

「フミ!準備できた?」

「ナミ!フミは体調が悪いみたいで、ここで安静にしてもらうよ!」

「そうなの?大丈夫?確かに、少し顔色が悪いわね……ルフィ!」

「ん?」

ナミに呼ばれたルフィは近づいてくる。フミは涙が溢れそうになり、下を向いた。

「フミ体調が悪いみたい。チョッパーが安静にしてた方がいいって」

「そうなんだ、ルフィ!たぶん疲れが出たんだと思う」

「そうか……フミ。」

ルフィは下を向くフミの頭を掴み、上を向かせる。涙目の彼女を見つめ、すぐに頷いた。

「わかった。おれ達だけで行こう。あとで、話しようなフミ!無理すんなよ!」

ルフィの優しさにフミの瞳から涙が溢れた。今、優しい言葉をかけないで、と言いたかったが言葉が出ない。
チョッパーはいつもの薬をフミに渡して、クリケットにベッドを使わせてくれと許可をとった。

「フミちゃん、帰ったらジンジャーティーを淹れるからね」

「フミ!安静にな!」

皆がフミに声をかけ、森へと向かって行った。
フミは薬を飲み、ベッドに横になる。涙が止まらなくなり、誰もいなくなった部屋で静かに泣いた。


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