ジャヤ(044)

ブクブク

水面に泡が何個も出来る。ルフィとフミはその光景を、ナミの話す絵本の内容を聞きながら見ていた。
すると、当然大きな栗が水面から顔を出す。驚きの声をあげる前に、何かがルフィを掴んだ。

「ルッ!!」

「ぎゃぁあああ!!!」

水面からにゅいっと手が現れ、ルフィの腕を掴み海の中へと引きずり込んだ。フミが手を伸ばしても間に合わず、愛しのルフィでは無く知らない男が水面から顔を出した。

「てめェら誰だ!」

フミは思わず後退ると、サンジに腕を掴まれその背中へと回される。能力者のルフィの安否がフミは心配で堪らない。

「人の家で勝手におくつろぎとはいい度胸。」

「おいウソップ、ルフィを拾っとけ!」

サンジの命令でウソップは慌てて海に飛び込む。
目の前に現れたのは、後頭部だけ金髪で上半身裸の男だった。その髪はまるで栗のようで、フミは先程水面に出てきたのはこの栗だと気が付く。

「ここらの海はおれのナワバリだ。狙いは“金”だな。死ぬがいい」

この男が、海賊“猿山連合軍”最終園長のモンブラン・クリケットであった。
クリケットは早速、サンジに蹴りを仕掛けるがそれを軽々と避け、サンジはフミを遠ざける。が、その間にサンジの腹へクリケットの蹴りが直撃した。と、思われたが自慢の長い脚でそれを防ぐ。クリケットはそれを見越していたのか、銃を取り出し発砲した。

「サンジ〜〜〜〜!ああああ」

「サンジ君!」

ナミの隣に逃げたフミはサンジを心配そうに見つめる。

「ご心配なくっ。当たってねェよ。だがちょっと待てェ!!!」

「バカが。ナメてかかるからだ」

サンジが話すのなんてお構いなし、クリケットは発砲を続けた。そんなサンジにゾロは悪態をつきながら、クチケットに斬りかかろうとした時、自然と彼はその場に倒れた。誰も何もしていない。

「ん?」

「オイ…オッサン!?」

全員が駆け寄り、クリケットをベニア板で出来た小さな城に運ぶ。海ではウソップがルフィを引き上げていた。

「ルフィ!!!」

フミは慌てて海に近づき、ルフィとウソップを見る。ルフィはニカッと笑ってフミに大丈夫だと伝えた。フミの安堵した顔を見て、やっぱり大好きで仕方がないんだなとウソップは感じた。






「タオルをもっと冷やしてきて、窓は全開に!」

船医のチョッパーは的確に指示を出す。クリケットをベッドに寝かせ全員でそれを囲んだ。フミは慌ててタオルを絞り、チョッパーに手渡す。

「潜水病?」

「このおっさん病人なのか」

「うん。ダイバーがたまにかかる病気さ。本当は持病になったりする様なものじゃないんだけど。」

海底から海上へと上がる時、減圧が原因で体の中のある元素が溶解状態を保てずにその場で気泡になる。気泡は血管や血管外で膨張する為、血流や筋肉・関節に障害を与える。ルフィ曰く、怪奇現象である。

「この人はきっとその気泡が体から消える間もないくらい、毎日毎日無茶な潜り方を続けてきたんだ。」

一体、何のために病気になるまで海に潜り続けているのか。一味は同じ疑問を抱えた。

「わからないけど…危険だよ。場合によっては潜水病は死に至る病気だ」

“死に至る病気”という言葉にフミは思わず下を向いた。クリケットは潜り続けなければ死ぬことは無い。だが、フミはどうすることも出来ないのだ。命を粗末にするクリケットに少し、フミは怒りを覚えた。
そこに、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「「おやっさァん!大丈夫かァ!?」」

扉から顔を出したのは先ほど海で出会ったマシラとショウジョウである。

「うわ〜〜〜おれ達を殺しに来やがったァ!」

「ギャ〜〜〜〜!!!」

ナミ、チョッパー、フミ、ウソップは扉から離れ恐怖を感じた。

「おめェらここで何してんだァ!」

「おやっさんに何をしたァ!」

「何だお前ら。今このおっさんを看病してんだからどっか行けよ」

「バカ!まともに話なんて聞いてくれるか!相手は野生なんだぞ!窓から全員避難せよ」

扉から離れていた4人はバタバタと慌てて窓から飛び出ようとする。フミも椅子に座らせていたぬいぐるみを手に持った。

「「いい〜〜〜奴らだなあ!!!」」

「聞いてるよっ!!」

耳を貸してくれると思っていなかった4人は窓から出るのを止めた。
このベニア板で城に見せていた家が“猿山連合軍”の本拠地であるようだ。ルフィとマイラ、ショウジョウは家から出て3人で仲良く話している。
誰とでも仲良くなる能力者ではないか、と人見知りのフミはいつも感心するのだ。

「フミちゃんは、怪我しなかった?さっきは強く引いてごめんね」

水面にクリケットが現れた時、サンジは強くフミの手首を掴んで引き寄せたことを後悔していた。あの時は守る事に必死で力加減が出来ていなかった。

「うん、大丈夫だよ。ルフィの方が強く握ってくるから」

「あいつには注意しておくよ。か弱いレディは優しく握れって。」

フミを引き寄せるのが趣味なのではないか、と思うほどルフィはフミを横に置かせたがるのを一味の皆は知っていた。そして、二人が喧嘩中だと言う事も皆見ていればわかった。

「フミちゃん…ルフィはあの時心配して帰れって言ったんだと思うよ。」

「わかってる。嬉しいんだけど、こういう場面が増えていくのかと思ったら弱い自分が悔しいの」

これからもっと強い海賊や海軍に出会う。その時に、自分が隣にいて良いのだろうか。居させてくれるのだろうか。居るせいでルフィに危険が及ばないか。

「ウソップ君に武器を作ってもらったけど、あれも自分の身を守る為の力」

2分何でも弾き返すバリアが出せるブローチを作り、それをクマのぬいぐるみに取り付けてある。海楼石の力がある為、能力も弾くが2分使い切ると15分経たないと使えないデメリット付であった。

「守られてて良いんじゃないかな。ルフィはそれが原動力になってる。」

「でも…」

「フミちゃんの存在が、あいつの生きる意味なんだ。」

楽しそうに笑うルフィを見つめ、フミは複雑な気持ちになる。生きる意味だと言ってくれるのは嬉しいが、フミはいつかこの世界から居なくなる身だ。それから黙ってしまったフミにサンジは何も言えなかった。

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