ジャヤ(037)

「…あり得ねェ…」

「…ハァハァ」

「ああ…あのデカさはあり得ねェ」

クークーとカモメの鳴く音が、平和だということを証明するかのようだった。全速力で逃げて来た一味は甲板に座り込み荒い息を整える。

「今日は何かがおかしいぜ…」

「巨大ガレオンが降ってきたと思ったら」

「指針を空に奪われて」

「妙なサルが現れて」

「船を引き上げようとして」

「でも船ごと食っちゃうデッケーカメに遭って」

「夜が来て…」

「最後は巨人の何十倍もある"大怪物"」

「…さすがにあれにはビビったねどーも」

サンジ、ゾロ、ナミ、ウソップ、フミ、チョッパー、ロビン、ルフィが順に呟いたのはわかったが、一人だけ声が多い。最後の一人は一体誰なのか、少しの間の後ルフィゾロサンジは立ち上がった。

「「「出て行けー!!!」」」

メリー号に乗り込んでいたマシラを三人で蹴飛ばし、船からいなくなってしまった。そしてマシラが乗っていたことさえも忘れるかのように誰も何も言わなかった。
甲板にはルフィ達が海に潜って盗って来た宝があるが、それを見てナミは怒る。かつては宝だったかもしれないソレは錆びてすぐに崩れそうだ。

「だいたいねーあんた達…何のために海底へ潜ったの?こんなガラクタばっかり持ってきて空への手掛かりなんて一つもないじゃない!」

「だからなかったんだ何も!」

「ああ。それがホントなんだよナミさん。あの船は明らかにすでに何者か荒らされた後だった。でなけりゃ何かしらの理由で内乱が起き殺し合ったかだ。」

「だったら尚更情報が必要じゃない!いい!?これからもし私達が空へ行くというのなら、あの船に起こった事はもしかして私達の身にふりかかるかも知れないって事なの!情報が命を左右するのに何このサビた剣!食器!生タコ!必要なのは"日誌"とか"海図"とか!そういうの!」

怒りに身を任せガンガンとガラクタを蹴るナミにサンジとゾロは慌てる。

「見ろフミ!おれかっこいいか!?」

「………可愛くない」

ヨロイに身を包んだルフィはくるくる回ってフミに見せびらかすが、可愛くない為気に入らなかったらしい。そのヨロイは宝の中にあった一部で、ナミでいう"ガラクタ"だった

「なっ、ヨロイに可愛さはいらねェって!」

「汚いし、あっち行って」

「えっ、」

フミに振られて落ち込んでいるルフィにナミが口を開く。

「それなにルフィ」

「ヨロイ」

「うおっ!ヨロイがくだけた!」

ナミの鉄拳でガラクタのヨロイが崩れてしまい、ルフィはもっと肩を落とすことになった。

「大変そうね」

「大変なのはこれからよ。ホントばかばっかりこれで完全に行先を失ったわ」

「……はい。」

離れていたところで様子を見ていたロビンは、足音を大きく立てて怒るナミに近づく。「ハァ」と大きなため息を零すナミにロビンは何かを手渡した。

「えっ!永久指針(エターナルポース)!これ……」

「さっきのおサルさん達の船から盗っといたの一応」

「………うっ、私の味方はあなただけっ」

「相当苦労してるのね…」

今まで誰かが今後に役立つ何かを取って来たことがあったろうか。いや、ない。ナミは真剣にロビンの行動に涙を流した。最初こそ疑ってはいたものの、その疑いは晴れてはいないがここまで頼れるなら居てくれた方がいいとナミは思う。
記録指針には"JAYA"と掘られていた。ジャヤという場所への方角を指している指針のようだ。

「"ジャヤ"きっと彼らの本拠地ね」

「ジャヤ?お!そこいくのか」

「アンタが決めるんでしょ!?」

航海士は海を乗り越える為に必要だが、行先を決めるわけではない。行先は一味の船長であるルフィが決めることだ。ルフィは少し考えた後、笑顔になる。

「オ〜〜〜シ!ジャヤ舵いっぱい!」

「………」

「ナミどっちだ」

「面舵」

「チョッパー手伝え」

「うん」

「ジャヤ速前進!」

全員が船長の言葉に頷き、ゾロとチョッパーは船の進路を変えた。

「はっ!おいちょっと待てよ…このままそのジャヤって場所へ行くとしたらそこでまた"記録"(ログ)は書き換えられちまうんじゃねェか?つまり空島へは行けなくなる」

「ええ!?」

「ジャヤ舵やめだ〜〜!」

ウソップが気づいて言うが、ナミは元からわかっていたのかそこまで驚いていないようだった。

「おいナミ!こりゃどういう事だ」

「何よジャヤへ行くってあんたが決めたのよ?」

「あっ…ホントだ……でもこうなるとは思わねェじゃねェか!」

「思わない方が悪いんじゃない。"記録指針"(ログポース)って始めからっずっとこういうものよね」

「あっホントだ」

ルフィとナミの言い合いはよくあることだが、ルフィが勝てたことはない。今回も押され気味だ。ルフィが口で勝てるのはフミくらいだろうか。ただフミが優しいからルフィの言う事を渋々聞くだけなのだが。

「よーし!よく聞けよ。おれは船長だからおれが進路を決めるぞ。おれは"空島"へ行きてェんだ!」

「ええ、いいわ。どうやって?」

「そりゃ人に聞くのが一番だ」

「そうだなジャヤで聞いてみよう」

「……だったらジャヤへ」

「よーしジャヤ舵いっぱーい!」

「まて一緒じゃねェかァ!」

ウソップがベシッとルフィの頭を叩く。結局ジャヤに行かなければ空島への手掛かりは見つからない。

「行ってすぐ"記録"(ログ)が貯まるわけじゃないわ。ジャヤへ行って次の"指針"が貯まるま前に島を出たら?」

「「「うん、じゃあそんな感じで」」」

ロビンのナイスな提案にルフィ、ウソップ、チョッパーは適当に答える。意味があまりわかっていないのか、それともサンジの作ったたこ焼きに夢中になっているのか。言わずとも後者だろう。

「多少運も必要ね」

「よォし野郎共行くぞ!"肉の国"ジャヤへ!」

「おう!」

「夢見てんじゃないわよ」

「ナミさんフミちゃんロビンちゃん"レディ限定未だかつてないタコ焼き"できたよ!」

美味しそうなソースの匂いがメリー号を包み込む。かつおが踊る熱々のたこ焼きを頬張り、笑顔を見せられるくらい穏やかな海だった。船は一時、謎の土地ジャヤを目指す。

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