ジャヤ(036)

フミがルフィ達の方へ行くと、ゾロサンジルフィの三人が樽をかぶっていた。カナヅチのルフィに至っては海に触れないように二つも樽をつけていて誰かわからない。

「お前はホントにムチャさすなあー」

「………」

「ナミさん!おれが必ず空への手掛かりを見つけてくるぜ!」

ウソップの樽の出来栄えに三人は不服のようだが、頭の上の所に空気が通る穴を付けそこから声も聞こえるようにしてあるし顔の部分には外が見えるように窓のようなものも作ってある、この発想と能力は才能だろう。

「じゃ、幸運を祈ってるわ」

ガラガラと給気ホースを少しずつ長くしていき、三人は海へと潜っていった。ルフィは能力者だ、不安がないといえば嘘になるがこの船で強い二人がついているため心配はしていない。

「こちらチョッパーみんな返事して」

『こちらルフィ怪物がいっぱいです、どうぞ』

『ここは巨大海ヘビの巣か?』

『こちらサンジうわっ!こっち見た!』

「OK」

「OKか!?」

下には巨大な何かがいるらしいがナミはそこまで気にしていない様子だ。チョッパーは三人の給気ホースの管理をし、ウソップはナミの隣でチョッパーを見守り、フミは黙って海を見つめていた。
三人が潜って少し経った頃。誰かの歌が聞こえてきて、ロビンは辺りを見回す。すかさずウソップがゴーグルで歌が聞こえる方を見ると船が近づいて来ているのがわかった。

「全体〜〜〜…止まれ!」

その声と共に変な歌も止まり、サルの船首が特徴的なその船からゴリラが顔を出した。

「船が沈んだ場所はここかァ!」

「アイアイサー!園長(ボス)」

「園長?つまりそいつァおれの事さ!引き上げ準備〜!沈んだ船はおれのもんだァウッキッキー!」

ゴリラは太い両腕を空に掲げ船員たちに命令した。
そのゴリラはマシラ海賊団園長"サルベージ王マシラ"という異名をもつ、懸賞金は2300万ベリー。異名通り沈んだ船をサルベ−ジして回っている。

「また妙なものが出てきたわ…こんな時に」

「おいお前らここで何してる、ここはおれのナワバリだ」

「ナワバリ?」

「そうとも…この海域に沈んだ船は全ておれのものだ。てめェら手ェ出しちゃいねェだろうな!んん!?」

マシラが睨んでくるが、一味は誰も見ずにどうするか考えていた。

「あの人…サルベージするつもりらしいわよ?」

「あ…ああ、そんな事言ってんなァ」

「それって………いい事なの?」

「わからない、チャンスなの?」

ロビン、ウソップ、フミ、ナミはマシラの質問には答えず悩んでいた。無視されたことが気に食わなかったのかマシラは質問に答えろと喚く。そんなマシラに向かってナミは手をあげた。

「すいません、質問してもいいですか?」

「おめェがすんのかよ!……いいだろう何でも聞いてみろ」

「これから船をサルベージなさるんですか?」

「なサル……?、おいそんなにおれはサルあがりか?」

「サルあがり?」

「"男前"って意味だ、そう思うか?」

「………ええ。」

ナミが引いた目をして頷くとマシラは満更でもないみたいで、頭をかいて照れた。話がそれてしまったため、ウソップはもう一度マシラにサルベージをするのかと聞く。

「そりゃおめェするもしねェも、そこに船が沈んでりゃ引き上げる男さ、おれァ!浮いてりゃ沈めて引き上げる男さ!おれ達に引き上げられねェ船はねェ」

「じゃあ見学させてもらっていいですか?」

「ん?そうかサルベージが珍しいかお前ら…よしいいだろう!見学してくがいい!」

チャンスかどうかはわからないがとりあえず様子を見ることにしたナミは心の中でガッツポーズをする。マシラも海賊、もし怒らせるようなことをしたらここにはルフィもゾロもサンジもいないため勝ち目は薄くなるだろう。

「園長!大変です」

「何だ」

「海底へ"ゆりかご"を仕掛けに行ったクルーが…」

「海王類にやられたのか」

「いえ、何者かに殴られた跡が」

海の中に潜っているのはルフィ達くらいだ。きっと海の中でもあの持前の強さを披露したのだろう。普段なら全然いいのだが、今はこういう状況だ。ナミ達は冷や汗が止まらなかった。

「オイお前らァ!!」

ギリッとマシラはこっちを見る。その目は今にも人を殺しそうだ。ナミ、ウソップ、フミの肩はビクリと跳ね上がった。今ここで疑われるのは当然なことなのだ。

「海底に誰かいるぞ!気をつけろ!」

マシラは一味を疑うこともせず、心配をしているようだ。ナミとウソップはバカで良かったと心の中で思った。
マシラ海賊団はサルベージをするため"ゆりかご"を仕掛けにまた海に潜っていく。マシラ本人は陽気に一味に手を振ったりしていた。ウソップは手を振り返しながら足で給気を動かしてルフィ達に酸素を送っている。気づかれないように、今日一番の笑顔を見せていた。ルフィ達の声が届くようにと作った穴も塞ぎ、向こうの声も一味の声も聞こえないようになってしまった。もしマシラ達に聞こえたら元も子もないからだ。

「今…ルフィ達なにか言って……」

「大丈夫よ、それよりフミも手を振り返して」

マシラと目が合ったフミは人見知り……猿見知りのため目を逸らしてしまった。そんなフミなど気にせずマシラは猿の船首を動かし始める。

「発進だ!船体ハンター!」

シンバルを持った猿の船首はゆっくりと動き出し、海へと沈んでいった。船がある方向に沈んでいくそれは飾りではないことくらい誰にでもわかる。
その猿の船首(船体ハンター)は沈んだ船を掴むと、マシラがそれに息を吹き込んだ。大量の空気が沈んだ船の船内に流れ込む。空気を含んだ船はゆっくりと浮き始めた。

「今だ引き上げェ!」

「アイアイサー!」

「空気の追加遅れるなァ!」

「アイアイサー!」

初めてみるサルベージにチョッパーとウソップは大興奮だが、女性陣は死んだ目で見つめていた。

『ギャアアアアッ!!』

マシラの船の方から悲鳴が聞こえる。海に潜っていた仲間の悲鳴に、マシラ達は慌てた。二度も妨害されてマシラは怒り、自ら海に潜っていく。とうとうルフィ達が見つかるかもしれない、とフミ達が見つめる海が急に暗くなる。何かの影のようなものが、船の下に確かに存在していた。しかもその影は船の何倍も大きく、決して良い物ではない。

「ねェ船の下に……」

「ああ、なんかいる……」

ナミ、ウソップ、フミ、チョッパーは肩を震わせ全員で抱きしめ合った。そしてザバンッと音を立てて大陸かと勘違いするほど巨大な生物が、ルフィ達の調査する船を食べて浮上してきた。見た目は亀のようだが実際は何なのかはわからない。その大きさに四人は顔を青くする。

「大きいぃい!可愛くない!!怖い!」

「なにコレ〜〜!コレなに!?大陸!?」

「知らねェ!知らねェ!おれには何も見えねェ!なんも見てねェこれは夢なんだ」

「夢!?ホント!?」

四人は"夢でよかったー"と喜び笑顔を見せる。これは夢なんだ、と自分に言い聞かせるがそういうわけにもいかない。一人冷静なロビンはルフィ達が船ごと食べられたという現実を突きつける。パキパキボキッと口からかみ砕く音が聞こえた。

「給気ホースが口の中へ続いてるから決定的ね」

「や〜め〜ろ〜!!」

「ルフィっ、サンジくんゾロさん……」

「うわああああ!ルフィ達はやっぱり食われたんだ!」

ウソップ、フミ、チョッパーは取り乱し、ロビンは巨大な亀を見つめた。

「だいたいお前だぞ!こんな"偉大なる航路"(グランドライン)の海底へあいつら行かせたのは!根拠もねェのに大丈夫なんててめェが言うからあいつらは…」

「ごめんっ!」

「……そうなんだが、なんか違う…」

ウソップの責めにナミは片手をあげてあっさりとルフィ達に謝り、一人スッキリとした様子だ。ウソップはもうどうしようもないと涙を流す。その涙が船内に落ちた瞬間、船が大きく揺れた。メリー号とルフィ達は給気ホースで繋がっている、彼らが食べられれば自分たちも引きずり込まれるだろう。ゆっくりと船は亀に近づいていた。

「当然ね、ホースを断ち切らない限り……船ごと深海へ引きずり込まれるわ」

「いやああああああ!!」

「ロビンおめェ強ェんだろ、何とかしてくれェ!」

「あれはムリよ……おっきいもの」

引き寄せられながら、フミは絶望した顔で亀を見つめていた。ルフィは生きてると信じている自分ともう噛み砕かれたかもしれないという恐怖でおかしくなりそうだ。
一方、同じ状況のマシラ海賊団の船では、潜っていったクルーと園長マシラを助けるため団結しようとしていた。その光景を見てウソップは頷く。

「そうだ…こんな時だからこそ団結力が試される」

「ウソップ!」

ナミも同じ意見なのだろうと、ウソップは気合を入れて「おゥ!」と返事をした。

「ホースを切り離し安全確保!」

「悪魔かてめェは!!」

「悪魔だ〜〜!」

ナミは自分の命が優先なようだ。
どうしようかと騒いでいる時。辺りが夜のように暗くなってしまった。まだ夜になる時間ではないし、空を見上げても何もない。ウソップとフミがルフィ達の名前を叫ぶが案の定返事はなかった。

「……ア…アア…不吉な…突然来る夜は怪物が現れる前兆…船を沈められちまう!早く園長を救出しろォ!」

マシラ海賊団の船はザワザワと騒がしくなる。ウソップ達は今の状況をうまく呑み込めていない。フミはただ空を見上げることしかできなかった。
そんな上空に突如人が降って来た。ぼてっと落ちて来たのは紛れもなく麦わらの一味の船長だ。あとからサンジとゾロも船へと上がってくる。海の中から二人はルフィを投げたんだろう。フミは一目散にルフィの方へ走った。

「ルフィッ!生きてる?死んでる?」

大量に海水を飲んでしまい膨らんでいるルフィの腹をフミは何度も押して海水を吐き出させる。
ゾロ達は海の中でマシラと会った。出会ってすぐはルフィの力で仲良くなったのだが持っていた宝の袋を見て急に襲い掛かってきたらしい。すぐに船を出して猿と亀と夜から逃げなければならなかった。

「ぶはー!!フミ!?あり?なんで夜なんだ?」

「ルフィッ、よかった!」

「わぁっ!」

まだ状況を把握できていないルフィに説明もせず、フミは思いっきり抱き付いた。とりあえずルフィは縋り付いてくるその体を抱きしめ返す。

「フミはおれに抱き付くの好きだなァ」

「それはルフィが無茶ばっかりするから」

ぎゅうっと抱きしめられてルフィは嬉しいのか頬が緩んでいた。抱きしめて貰えるなら無茶してもよかったと声には出さないがルフィは思った。

「ルフィ、フミ手伝え!船出すぞ」

「ん待てェ!!お前らァ!」

ダァンという音を立ててマシラがルフィ達を追いかけてメリー号へ上がって来た。

「おめェらこのマシラ様のナワバリで…財宝盗んで逃げきれると思うなよォオオ!」

マシラの言葉のある二文字に反応した人が一人、目を輝かせていた。

「財宝?財宝があったの?」

「ああ!いっぱいあった!」

「マズイ、あいつに船の上で暴れられたら…」

ゾロが刀を取り出そうとした時、みな空を見上げて震えているのがわかった。何事かとゾロも上を見上げる。上を見上げた瞬間、ゾロも珍しく恐怖で足を震わせた。
そこには巨人の何倍も大きな人影が五つ、船を見下ろしていた。この世のものとは思えないその大きさに声が出ない。"敵わない"そう直感したルフィ達は全速力で船を動かし、その場から逃げた。

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