ジャヤ(035)

やっと静まった海を見ると、巨大な船が沈んでいくのが見える。ウソップとチョッパー、フミは抱き合って肩を震わせルフィとサンジ、ゾロは空を見上げた。

「何で…空から船が降ってくるんだ…」

「奇っ怪な」

「空にゃ何にもねェぞ」

空から船が降って来るなんて聞いたことのない話だ。誰もが自身の目を疑った。
ずっと指針を見ていたナミはあ!と悲鳴に近い声をあげる。全員がナミに視線を移した。

「どうしよう…"記録指針"が壊れちゃった!上を向いて動かない」

ビィンと上を向いてしまった"記録指針"それがなければ、目的地への方向がわからずこの海を進むことができない。少し考えた後にロビンはその意味に気が付く。

「違うわ…より強い磁力をもつ島によって新しい"記録"にかきかえられたのよ。指針が上を向いているなら"空島"に"記録"を奪われたという事」

ロビンが空を見つめながら言ったその"空島"はここにいる誰も聞いた事が無かった。島が浮いている、想像もできないし信じられない。

「浮いてんのか島が!」

「あの船やガイコツはそこから落ちて来たのか!だが空に島らしきモンは何も……」

空を見上げてもあるのは白い雲と神々しく光る太陽だけ。優雅に飛ぶ鳥のように島も浮いているというのか。

「そうじゃないわ…正確に言うと浮いているのは"海"」

「海が!?」

「ますますわかんねェ」

ただただ驚くしかなく、ルフィとウソップはその夢のような話に乗り気で空島に行く気満々だった。上に舵をとれ〜とふざけなが言う2人の口をロビンは能力を使って塞ぐ。

「正直私も"空島"については見た事もないし、たいして知ってるわけでもない…」

「そうでしょ!?有り得ないことよ、島や海が浮かぶなんて!やっぱり"記録指針"が壊れたんだわ」

「…いいえ航海士さん…今考えなきゃいけない事は"記録指針"の故障箇所ではなく空へ行く方法よ」

2人の会話を聞きつつ静かになった船内を不思議に思ってゾロは辺りを見回した。するとウソップとルフィが落ちて来た船(瓦礫いう方が正しい物)に乗って歩いていた。何やってんだ、と独り言のように呟けば近くにいたフミが「探検だって」と笑顔で答える。
フミも誘われたがいつ沈むかもわからない壊れた船に乗るほど勇者ではない。

「この船がたとえどんな怪奇な事態にのみ込まれようとも…たとえどんなパニックに陥ろうとも…"記録指針"だけは疑ってはいけない、これは鉄則よ。この海では疑うべきものはむしろ頭の中にある"常識"の方。その指針の先には必ず島がある。」

宝石を貰って懐いたものの、ついさっき出会ったばかりの女に"航海"のことを教えられてナミは少し悔しかった。でも言っていることは正論で、何も言い返す言葉が思いつかずナミは唇を噛み締め"記録指針"を振ってみる。何度振ったとしても指針は上を向いたままだ。
そのナミの様子を一目だけ見た後、さっき降って来た船の瓦礫の中から棺桶を見つけ、早速"考古学者"のロビンが中身を確認する。

「何かわかるの?」

「さァ…」

棺桶の中身から覗く人骨が怖いのかフミは少し離れてロビンに聞くが、鑑定に集中していて欲しい言葉が帰って来ない。

「趣味悪いわよあんた…」

「死者と美女ってのもまたオツなもんだな〜」

呑気なサンジとまだ探検に行っているルフィとウソップを除いて、一味はロビンを息を潜めて見つめた。のりで人骨を見事に復元したロビンはじっくりとそれを眺める。

「ここにあいている穴は人為的なもの」

「ははーん、そこを突かれて殺されたってわけかコイツは」

「いいえ、これは治療の跡よ…穿頭術(せんとう)でしょ?船医さん」

フミと同じ様に離れて見ていたチョッパーは急に話をふられたにも関わらずすぐに穿頭術の説明を始める。その光景に少し関心したフミだが言っていることはさっぱりわからない。昔は脳腫瘍をおさえる時に穴をあけたらしいが、その術はずっと前からある医術だということ。

「そう、彼が死んでからすでに200年は経過しているわ。歳は30代前半、航海中病に倒れ死亡。他の骨に比べて歯がしっかり残っているのはタールが塗り込んであるせい。この風習は"南の海"の一部の地域特有のものだから、歴史的な流れから考えてあの船は過去の探検隊の船。」

見事な推理に全員が目を見開き、口をあんぐりと開けた。ロビンはその視線も気にせずパラパラと何かの本をめくる。その本のあるページにはさっき落ちて来た船の絵が乗っていて、"南の海"の王国ブリスの船"セントブリス号"が208年前に出航していることがわかった。
遺体は話さないだけで情報は持っているのよ、と語るロビンの凄さに驚きを隠せずフミは言葉が見つからない。その頭の良さは何を隠してもバレてしまいそうだ。そう考えるとゾクリと背中が寒くなった。

「探検隊の船なら色々な証拠や記録が残っていた筈だけど…」

「ええ…でも船は海に沈んで…」

「ルフィっ!!」

「あんた達何やってんのよ!!」

ルフィが海で溺れてるのをみてフミは血相を変える。探検について行っていたらきっと隣でフミも溺れていただろう。一緒に行っていたウソップが助けメリー号へと戻って来た。

「おいみんな!やったぞすげェもんみつけた!」

水浸しのルフィは濡れていることなんて忘れ、満面の笑みを見せる。ばっと一味の目の前に出したのは一枚の紙きれ。"空島の地図"だった。

「スカイピア……?」

SKYPIEAと書かれているその地図は周りに雲の絵が描かれている。その地図をみてルフィ、ウソップ、チョッパーは大興奮。夢の、空の島への希望が見えてキラキラと目を輝かせた。

「これ、本物かな?」

「フミもそう思う?これはただの可能性にすぎないわ。世の中にはウソの地図なんていっぱいあるんだから」

ナミの夢のない言葉に、さっきの輝いた顔とは打って変わりずーんと沈んでしまった三人の顔色を見てナミは少し罪悪感を感じた。

「あ…ごめん…あるあるきっとある…あるんだけど……行き方がわかんないって話してんのよ!」

「航海士だろ何とかしろ!!」

「何とかなるもんとならないもんがあるでしょ!?」

「関係ねェ!空に行くんだ!!」

航海士と船長の喧嘩は激しく、言い争われていた。ロビンはその2人を見ず、フミを見つめる。ただ2人を見つめ何も言わないフミにロビンはフッと意味ありげに笑った。
ナミがルフィを殴り、終わった喧嘩は解決していない。

「とにかくこれじゃ船の進めようがない!だって指針は上を向いてるんだもん。今必要なのはロビンの言う通り"情報"よ。」

完全に沈んでしまった船から残ってるはずの記録を引き出すには…ナミが思いついたのは一つだ。

「沈んだんならサルベージよ!」

「「よっしゃあああ!!」」

「できるかァ!」

釣り竿と網だけでメリー号の何倍もある船をサルベージするには普通に考えて無理だ。ゾロは全力でツッコむがルフィとウソップは不服そうに見える。

「サルベージってなに?」

「おれも!おれもわかんねェ」

悩めるチョッパーとフミに近くにいたロビンは優しく、沈没船の引き上げ作業よと答えた。
サルベージが無理だとわかれば、ナミはウソップに耳打ちして次なる作戦を考える。ウソップが樽を使って何かを作っているのをただ一味は眺めていた。

「フミは楽しみだよな〜空島」

ルフィはフミの隣にきて、笑顔を向ける。けれどフミはそこまで笑顔ではなかった。

「なんだ、楽しみじゃねェのか?」

「楽しみだけど……怖い」

さっきの人骨をみてフミは少し怯えていた。そんな様子にルフィはどんっと胸を張る。

「大丈夫!おれが守る。あとこいつも」

ルフィはフミが握っているくまのぬいぐるみをポンポンと撫でた。フミと出会った時からいつも側にあったこのくまをルフィは信用している。命なんてないことはわかっているけど、このくまに何度か助けられたことがあるのだ。

「いつもこのくまちゃん取ってくるくせに〜」

フミの気を引こうとルフィはくまを取り上げたりして遊ぶことがある。

「だって、そいつで顔隠したりするからよく顔が見えねェじゃん」

「それはルフィがあんなこと……」

「あんな?どんなこと?」

覚えているくせに…とフミは小声で呟くがルフィは気づかないフリをしてニヤリと笑うだけ。照れることをストレートに言ってしまうルフィにフミは嬉しいが困っていた。こうやってフミの眉を下げた困った顔もたまらなく好きなルフィは実はSっ気があるのかもしれない。

「おい、ルフィー!できたぞー!」

ウソップの声が聞こえルフィは一目散に飛んで行ってしまった。
微かに残ったルフィの香りはフミが大好きな匂いで、それが風で流されていくのが何だか淋しい。


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