ドラム王国(003)

しばし船はアラバスタを指す指針を無視して医者を探し、そしてちょうど1日が過ぎたころ。
女部屋の中から窓の外を見れば吹雪が吹き荒れており、ブルっと体が震えた。フミは上着を一枚羽織り、部屋から出る。船上にも雪が積もっていて冬島が近いのがわかった。

「フミ!中に入ってろよ、風邪ひくぞ。」

ルフィがいち早くフミに気づいて声をかける。フミはルフィに近づいて、腕に抱きついた。

「寒いから…」

「んー…確かにこうしてた方があったかいな。」

「見せられるこっちの方が熱いわっ!!」

ウソップが抱きしめ合うルフィとフミを冷たい目で見つめる。
フミとルフィは幼馴染であり、恋人同士だ。幼い頃にお互い惚れ合って、わずか7歳で交際がスタートした。交際というものをわかっていなかった2人だったが、歳を重ねるにつれて交際の仕方を大人たちに習ってきた。が、まだ一瞬触れ合うようなキス程度しか教わっていない。あえて、教えていないのかもしれないが。


「じゃあウソップくんにはこの子貸してあげる」

フミは持っていたくまのぬいぐるみをウソップに渡す。さっきまでフミが抱きしめていたから少しだけ温もりが残っていた。

「はぁ、あったけェ……ってバカか!」

「あひゃひゃ!おもしれェ!」

「面白くねェわ!!」

三人は笑いあうが、ゾロの言葉に凍りつくことになる。

「おいお前ら…海に…人が立てると思うか?」

島を探していたゾロの言葉にそんな馬鹿な、と三人は言葉を疑う。ところが、実際に人が海の上に立っていたのだ。
ゾロ、ルフィ、ウソップ、フミは目をゴシゴシと擦って何度も確かめるが、本当に立っている。その人物と見つめ合い、船上は静寂に包まれた。

「よう、冷えるな今日は」

その人物が喋り出し、びくっと固まっていた四人が反応する。

「………うん、冷えるよな今日は」

「あ…ああ、冷える冷える。すげェ冷えるよ、今日は。」

「そうか?」

………四人の目が点になる。寒いと言ったのは海に立つ人物だが、肯定すれば彼がそうか?と聞き返す。なんだなんだと思っていると、突然船が揺れて目の前に巨大な船が現れた。

「船が揺れる!!」

「フミっ、」

ルフィが転びそうになったフミを抱きしめて、振動に耐える。目の前に現れた巨大な船からは誰かの笑い声が聞こえた。

「驚いたか!この大型潜水奇襲船帆船"ブリキング号"に!」

「やべェ……か、海賊船…!!」

「すげェ…」

「……この忙しい時に…」

「可愛くない…」

そして現れた海賊船から何人か降りてきて、メリー号に乗り込まれる。フミを抱きしめたままのルフィはより強く、守るようにその手に力を入れた。
ルフィ達を囲むように銃口をこちらに向ける海賊たち。睨み合いをしていると、ナミの様子を見ていたサンジが出てきて何事かと問う。

「襲われてんだ、今。この船」

「まあ…そんなトコじゃねェかと思ったけどな。見た感じ…」

「おい、おれ達急いでるんだ。」

フミに銃口を向ける1人をジロリと睨んだルフィの迫力にその1人はたじろぐ。そして船から降りてきた船長らしき人物がメリー号の甲板にいる人数を数え始めた。

「フム…これで5人か…たった5人ということはあるめェ。まァいい、とりあえず聞こう。」

少し太めの体型をしている船長はブリキング海賊団"ブリキのワポル"と呼ばれる。
持っていた剣を噛み砕くその姿にフミはドン引きだ。何かの能力者なのだろうか。

「おれ達は"ドラム王国"へ行きたいのだ。エターナルポースもしくはログポースを持っていないか?」

「持ってねェし、そういう国の名を聞いたこともねェ。」

「ほら、用済んだら帰れ。お前ら」

「はーあーそう急ぐな、人生を…。持ってねェならお宝とこの船をもらう。」

ワポルはニヤリと笑う。その言葉にフミは恐怖でぎゅっと強くルフィの手を握った。

「だが、ちょっと待て。小腹が空いてどうも……」

そう言うと、ワポルはいきなりメリー号を食べ始めた。
そう、文字通り本当に食べ物を食べるかのようにムシャムシャと柵を食べている。
その光景にウソップは悲鳴を上げた。大切な人から受け取った大切な船を簡単に食べられれば悲鳴も出るだろう。

「おれ達の船を食うな!!」

「貴様動くな!ワポル様は今お食事中だ!!」

ルフィとルフィに抱きつくフミに向かって、ワポルの手下は銃口を向ける。驚くことなく、ルフィはその手下に殴りかかった。
これが合図かのように、手下達が一斉にルフィへ銃口を向ける。

「もしフミに当たったら、命は無ェからな。」

「始めからそうすりゃよかったんだ」

「何だやっていいのか?」

ルフィ、ゾロ、サンジは口々にそう言うと、ニヤリと笑って戦い始める。ルフィは弾がフミに当たらないように肩に担いで避けながら倒していった。
いつ弾が当たるかわからず、ヒヤヒヤしながら出来るだけ動かないようにフミはルフィに身を任せた。
ある程度手下たちを倒したが、まだ船を食べようとしているワポルを見つけてルフィはフミを下ろし、走り出す。

「おい、お前っ!!」

「クハハ!バカめ、ワポル様に敵うか!"バクバクの実"の能力で食われちまえ!!」

ワポルはカバのように大きく口を開けて、向かってくるルフィをバクリと食べてしまった。フミは小さく悲鳴を上げる。けれど、ワポルの口からルフィの腕が伸びているのに気づいて、ホッと安心した。

「こんのォ………吹き飛べェーー!」

伸ばしきった腕を急速に縮めたルフィによって、ワポルは吹き飛ばされてしまった。気づけば空の彼方にいる。船長を失った海賊たちは急いで彼を探しに行った。

「ルフィ!よかった!!!」

「わあっ、フミ!?」

フミが勢いよくルフィに抱きつき、そのまま甲板に倒れこんでしまった。倒れてもゴムのため痛くはないが、抱きしめられる力が強すぎて苦しい。ぐりぐりと胸に顔を擦りつけてくるその姿が可愛く見え、ルフィは優しくその柔らかい髪を撫でた。

「無茶しないでよ………」

「うん、悪かった」

白いワンピースがシワになろうが、関係ないらしいフミはより強くルフィを抱きしめた。

「泣くなよ」

「……泣いてない…!」

「泣こうとしてたろ?」

「ルフィが困るから泣かない…!」

表情が見えないからわからないが、鼻声のフミが泣きそうなのはすぐにわかる。

「ん、泣いてもいいぞ」

「………なんで?」

「可愛いから。」

「……もう……バカ!」

ポロポロと涙を流し始めたフミを優しく抱きしめ返したルフィは、込み上げてくる愛しさをどうしようかと悩んでいた。

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