アラバスタ(033)

アルバーナ式典の二時間前――――約束の時間より二時間前

ビビは白い封筒をじっと見つめていた。

"ビビちゃん、王女になることを選んだら……この手紙を読んで?海賊になるなら、私に直接返してほしい。"

そう言ったフミの顔はいつになく真剣で、とうとう王女になることを選んだビビは封筒をゆっくりと開封した。


『ビビちゃんへ』


その一文から始まる手紙はフミらしい字で書かれていた。改めて海賊への勧誘だろうか。それでも心に決めていたビビは手紙を読み進めることにする。


『この手紙を読んでるってことは王女になることを選んだんだね』


ビビは手紙を持ちながらコクリと頷く。


『直接言いたかったお別れの言葉をここに書かせてもらうね

もうビビちゃんと会う日は来ないと思う。』


どうして、そんなことを言うの。仲間だと思っていたのは私だけなの。

ビビはもう麦わらの一味に見捨てられたのだと勘違いした。もう仲間ではないのだろうか、ビビの瞳に涙が浮かぶ。


『チョッパーくんと出会ったドラム王国で山の頂上に行った時私はある事を告げられました。"悪感症"という病気は知っていますか?

その病気はもう治ることはないそうです。』


ビビの瞳から涙が一滴零れ落ちた。
見捨てられたのではなかった。彼女の秘密を、告げられているんだ。


『私の余命は一年と言われました』


もうビビに会えないかもしれない、とフミは手紙を書いた。そのことはちゃんとビビに伝わったようだ。


『毎日薬を飲み、チョッパーくんと2人だけの秘密にしてきました。

でも、ビビちゃんには言わないといけないなって思いました。

感謝の気持ちを伝えたいから。

私を妹みたいに家族みたいに接してくれてありがとう。

ビビちゃんの笑顔に何度も救われました。

そして、ビビちゃんの力に、ビビちゃんの国の力になりたいと思いました。

こんな形で伝えてしまってごめんなさい。

私はビビちゃんが大好きです。

出来ればまた会いたいし、もっと話もしたかった。

でも、ごめんなさい。私は海賊だから、お別れしないといけません。

今までありがとう。ビビちゃんと過ごす日々が楽しかった。

ビビちゃんならアラバスタを支えていけると思います。

さようなら』


ビビの瞳から溢れる大量の涙が手紙にポトポトと落ちる。

あんな小さな身体でこんなにも大きなことを抱えていたなんて、頭の片隅にもなかった。

ビビは"ありがとう"と何度も囁いた。

フミに届くわけでもないのに、何度も何度も。

船で過ごした思い出が、フミの笑顔が頭から離れず涙は止まらない。

フミのために生きよう、そう思った。

アラバスタを早く復興させて、素晴らしい国にしよう。

フミが安心できるように。

ビビは涙を拭い、カルーを呼んだ。

"東の港"へと向かう為に。

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