アラバスタ(032)

予定よりも2時間遅れでビビのスピーチが始まった。拡声器を使って、町中に響いている。広場には何万人もの人が集まりその声に耳を傾けた。

『少しだけ…冒険をしました。それは暗い海を渡る"絶望"を探す旅でした。国を離れて見る海はとても大きく…そこにあるのは信じ難く力強い島々…見た事もない生物…夢とたがわね風景、波の奏でる音楽は時に静かに小さな悩みを包み込む様に優しく流れ時に激しく弱い気持ちを引き裂くように笑います』

島民の表情は柔らかく、王女のスピーチに笑みを見せる。

ビビもまた、笑顔で語りかけた。

『暗い暗い嵐の中で一隻の小さな船に会いました。船は私の背中を押してこう言います。"お前にはあの光が見えないのか?"闇にあって決して進路を失わないその不思議な船は踊る様に大きな波を越えて行きます』

強いその声は出会った頃のビビとは大違いだった。女として王女として、強くなっている。

『海に逆らわずしかし船首はまっすぐに…たとえ逆風だろうとも―――そして指を差します"みろ光があった"歴史はやがてこれを幻と呼ぶけれど私にはそれだけが真実』

島民には何の話をしているのかさっぱりわからなかった。まさか王女が"海賊"になっていたなんて、誰が想像できるだろう。

一方、東の港"タマリスクー"では一味がじっと島の方を見つめながらビビのスピーチを聞いていた。

「聞こえたろ今のスピーチ。間違いなくビビの声だ」

「アルバーナの式典の放送だぞ、もう来ねェと決めたのさ」

ゾロとサンジの声を聞こえないフリをしてルフィ、チョッパー、フミは島を見つめる。

「行こう、12時を回った」

「来てねェわけねェだろ!下りて探そう!いるから!」

「おいまずい!海軍がまた追ってきた!」

「一体何隻いるんだよ!」

ウソップの自慢のゴーグルで遠くから海軍が近づいてくるのが見えた。ボン・クレー達が倒してくれたり、自分達も何隻も沈めたはずがまだいるらしい。

「船出すぞ!面舵!」

「諦めろルフィ…おれ達の時とはワケが違うんだ」

今まではルフィが半強制的に船に乗せて来たが、それでも一味は満足している。けれどビビは違う。島を背負う"王女"なのだ。
ルフィは、不満な顔をするが仕方なくアラバスタに背を向ける。そんなルフィにどう声をかけようかフミが迷っているその時、声が聞こえた。

「みんなァ!!!」

「ビビッ!!カルー!!!」

全員が振り返り、港にビビとカルーがいるのを見て笑みをこぼす。あのスピーチはアルバーナで行われてはいなかった。

「ホラ来たァ!船を戻そう!」

「急げ!」

「ビビちゃん!」

「海軍もそこまで来てるぞ!」

ドタバタと船を駆け巡り、港へと船を戻そうとする。

ビュウッと激しく風が吹き抜けた。その時、発せられたビビの声は風で聞こえ辛かったが、ちゃんとルフィには聞こえていて耳を疑う。"お別れを言いに来たの"と。

『私…一緒には行けません!今まで本当にありがとう!!』

拡声器を使ってビビは叫んだ。その声はアルバーナにも響いている。

『冒険はまだしたいけど私はやっぱりこの国を愛してるから!!だから行けません!』

ビビの言葉にルフィはニッと笑った。ルフィはビビから直接聞きたかったから諦められなかったんだろう。

『私は……』

ビビの脳裏に船での思い出が駆け巡る。

『私はここに残るけど……いつかまた会えたら!もう一度仲間と呼んでくれますか!?』

ボロボロとビビの瞳から涙が溢れ出す。"仲間"と別れるのに涙が溢れないわけがない。

「いつまでもナ……」

「ばかっ!」

"いつまでも仲間だ"と叫ぼうとしたルフィの口をナミが塞いだ。海軍がビビに気付いていて、一味とビビとの関わりを証拠づければビビは"罪人"となってしまう。"海賊"とはそういうものだ。
ルフィ達は背を向けて、黙って去ることにする。遠ざかっていく船を見てビビはまた涙を流した。"仲間"だと思っているのは私だけなのかも、と。がその顔がすぐに笑顔へと変わる。
麦わらの一見が全員背を見せ、左腕を空に向けて伸ばしていた。そこには仲間の印である"バツ"が描かれている。

"これから何が起こっても左腕のこれが仲間の印だ"

ビビとカルーも空へ左腕を伸ばし、一番の笑顔を見せた。


―――その後"アラバスタ王国"は諸国も目を見張るばかりの速度で実に見事な復興を遂げる。

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