アラバスタ(031)

「ん待っっっっってたわよアンタ達!おヒサシブリねい!」

大きな声で叫ぶオカマは無視して、カルガモたちから荷物を下ろした一味はここまで運んでくれたお礼を言う。

「フミ、手あげろ」

ルフィの後ろに乗っていたフミは乗せられる時と同様、手を上にあげてルフィがその脇を掴んで下ろさせた。そしてカルガモ達を宮殿の方へと帰らせる。一方、オカマは無視を続けられ苛立っていた。

「そーゆー態度ってヨクないんジャナ〜イ?ダチに対して」

「ダチって何だよ。お前敵だったじゃねェか、ダマしやがって」

ルフィがキリッとオカマを睨み付けた。ダンスまでする仲になったのに、と騙さられた時はガッカリしたものだ。

「ダマしてないわよーう!あちしも知らなかったのよーう!でもまァ…もういいジャナイそんな事……B.W社は滅んだのあちし達はもう敵同士なんかじゃない…」

「敵同士じゃなくても何でお前おれ達の船に乗ってんだよ」

「はふー…コノスットコドッコイ」

「何だと!?」

「いィい?あちしが今この船に乗ってなかったらこの船はドゥーなってたと思ってんの?」

その問いに答えられないルフィを見かねてナミが呆れたように口を開く。

「海軍に奪われてたかもね」

「かもじゃないわ!確実にやられてた!今この島がドゥーいう状態にあるか知ってる!?海軍船による完全フーサよ!封鎖!」

「…じゃあお前…海軍からゴーイング・メリー号を守ってくれたのか?」

「なぜだ!」

「何で!?」

ルフィ、ウソップ、チョッパーがオカマをじっと見つめる。

「友達……だからよう」

ガシッとオカマの言葉に心を掴まれてしまった三人はオカマと変なダンスを踊り出した。そんな四人など見向きもしない他の一味は荷物を船に運び終えるところ。
フミはといえば、オカマにヒビを入れられた足の骨が痛んでいた。あの時のオカマは震えるほど怖かったのを覚えている。離れてゾロやサンジの後ろに隠れながら荷物運びを手伝っていた。

「つまり海軍の"海岸包囲"によってお前らも島を出られなくなり…味方を増やそうと考えたわけだな?」

ゾロの言葉にオカマの肩はビクリと跳ね上がり、大量の冷や汗をかいた。わかりやすい反応にフミも苦笑い。

「そうよ!こんな時こそ!こんな時代だからこそ!つどえ!友情の名の下に!力を合わせて戦いましょ〜〜う!」

うおおお!と叫んだのはルフィ、ウソップ、チョッパのみ。ナミはその光景にため息をついた。
メリー号の後ろにはオカマの船も待機していて、オカマの手下も沢山乗り込んでいた。

「フミー部屋に服を置きに………キャアッ!」

ナミがフミに声をかけた瞬間に船が大きく揺れる。フミは近くの柱に捕まり、揺れが収まるのを待った。

「船底に鉄の槍が刺さってる!!」

メリー号の船底に大きな鉄の槍が刺さっているのを見てウソップは顔色を変える。後ろを振り返ると海軍の船がそこまで迫っていて慌てて船を動かした。

「くっそ〜〜!砲弾で来い!跳ね返してやるのに!」

ルフィのゴムゴムの風船をつかえば簡単に砲弾を跳ね返すことができるが、鉄の槍だと身体を貫通してしまう。何本も鉄の槍が刺さり、船は穴だらけになっていた。
槍の攻撃が無くとも、ウソップのいたシロップ村からここまでくるのにメリー号は沢山傷ついていたにも関わらず穴なんて開けられればひとたまりもない。

「こんな鉄の槍を船底にくらい続けたら沈むのは時間の問題だぞ」

チョッパーが木の板でなんとか穴を塞いでいるものの、時間がかかる。8隻の船から打たれれば数本防ぐのに精一杯だ。しかもメリー号とオカマの船を四方向に二隻ずつ囲んでいて逃げ場がない。

「ウソップくん、大砲を使うのはどう?」

フミはこの船の狙撃手であるウソップに聞いてみた。その純粋な瞳に断ることも出来ず、自信はないが大砲を撃ってみることにしたウソップは弾を込める。

「頑張って!」

「お、おう……」

フミの応援に頷き、南の二隻に向かって砲弾を撃ってみる。すると一発で見事命中し、二隻とも海に沈んでしまった。

「ウソップお前かァ!すげェな!」

「ウソップくん!すごい!」

「よ…よォし!計算通りだ。おれにかかりゃあんなモンああだぜ!」

この中で一番驚いているのはウソップだろう。だがそのおかげで南側を通ることができそうだ。が、一味は南側に用はない。ビビが待つのは東側だ。

「鼻ちゃんスゴイわ!やったわねい!南の陣営が崩れた!あそこを一気に突破よう!」

「ボン・クレー様大変です!」

「ナ〜〜〜ニよーう!」

「"黒檻"です!」

「ウゲッ!」

「何なんだ?」

"黒檻のヒナ"はこの海域をナワバリとする海軍本部大佐でオリオリの実の能力者。自らの体をすり抜けた相手に鉄の錠をはめて拘束する「檻人間」である。

「厄介な奴が出て来たわ!さっさとトンズラぶっコクわよう!」

ボン・クレーの船は南へと動こうとするがメリー号は動かない。ボン・クレーは慌てて逃げるわよと声をかける。

「行きたきゃ行けよ。おれ達はダメだ」

「ダメだってナニが!?」

「"東の港"に12時…約束があるの。回り込んでる時間はないわ、つっ切らなきゃ」

「ハンッ…バカバカしい!命はる程の宝でも港に転がってるっての!?勝手に死になサイ!」

「仲間を迎えに行くんだ!!」

ルフィがニカッと笑って帽子を深く被りながら答えた。その笑顔にボン・クレーは衝撃を受ける。仲間(ダチ)の為にそこまでするなんて、と。
そしてフミはそのルフィの表情がたまらなく好きだったりする。"かっこいい"の一言では表せきれないくらいだった。

「ボン・クレー様…!?」

「…ここで逃げるはオカマに非(あら)ず!命を懸けてダチを迎えに行くダチを見捨てておめェら明日食うメシが美味ェかよ!」

ドキッとボン・クレーの部下は心を掴まれる。"おかま道"と書かれたコートを羽織うその背中が大きい。

「いいか野郎共及び麦ちゃんチーム…あちしの言う事よォく聞きねい!」

涙を流すボン・クレーは麦ちゃんことルフィの言葉に感動していた。
ボン・クレーの作戦は、マネマネの実を使ってルフィをマネして囮になるということ。その完璧なモノマネにまんまと騙された海軍たちはボン・クレーの船を追いかけていく。


"男の道をそれるとも
 女の道をそれるとも
  踏み外せぬは人の道
散らば諸共
 真の空に
咲かせてみせよう
 オカマ道(ウェイ)"

どこからともなく聞こえてくるこの詩はルフィの心を掴むのに十分なものだった。

「かかって来いや」

そのかっこいい背中にルフィ、ウソップ、チョッパー、サンジは涙を流す。

「ボンちゃん!おれ達……お前らの事絶っ対忘れねェからなァ〜〜!!」

"散らば水面に
 いとめでたけれ
  友の華"

ボン・クレーの船に背を向け、メリー号は東の港へと急ぐ。決して後ろは振り返らなかった。

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