アラバスタ(029)

身体の気だるさが残っている。フミは目を覚まし暖かいベッドの布団に包まれているのに気がつく。身体中には包帯が巻かれていた。ガバッと起き上がるとチョッパーとナミとビビがフミの方を見ていた。

「フミ!大丈夫か!?どこか痛いとこねェか?」

「あんたよく寝たわね…」

「……ば、爆弾は!?」

そういえばフミは広場に爆弾が仕掛けられた時に気を失い、そこからは何一つ知らないでいた。そのことに気づいたナミは優しく微笑む。

「もう、終わったわよ。全部」

「え……?」

「隣、見てみなさい」

ナミに言われた通り、フミは隣を見る。そこには幸せそうに眠るルフィがいた。その寝顔で悟ったのは、この国が救われた事とルフィがクロコダイルに勝ったということ。

「フミさん、丸二日寝てたわよ」

「え……二日も!?」

「ルフィもずっと寝てるわ。昨日なんて高熱が出て大変だったの」

フミは隣のベッドで眠るルフィの頭をゆっくりと撫でた。顔や腕が傷だらけで激しい戦闘だったことが窺(うかが)える。
頭から頬へ手を滑らせ、撫でた。ルフィはそれでも眠り続けている。フミは額にキスを落とした。

「フミ!大胆!」

ナミ達がいるのを一瞬忘れていたのか、我に返ったフミは顔を真っ赤にさせる。

「あっ、これはっその」

「いいのよ。可愛いから!」

「もうっナミちゃん!」

「そんなことより。お風呂に入ってご飯食べたら、買い物に行かない?」

「行く!」

ナミの提案に二つ返事で答えたフミはすぐに宮殿のお風呂場へと向かった。




次の日の早朝。ふと目が覚めたフミは隣にいるルフィを見つめる。チョッパーに怒られながらもルフィのベッドの中に侵入して、そのまま寝てしまっていたらしい。

ルフィはまだ眠っている。今日で三日目だ。フミはこのままルフィが目を覚まさなかったらどうしようと考えてみるがルフィならあり得ないなとすぐに考えるのをやめてしまう。すぐに目覚めて、腹減ったと喚くだろう。

ルフィに抱き付き、その唇にキスを落とした。早く目覚めて名前を呼んでほしい、抱きしめてほしい。そう考えれば考えるほどルフィが愛しくて仕方がないフミは何度もルフィの名前を呼んだ。が、返事がないどころか起きてもくれない。

「んー……フミー?」

目覚めたのはチョッパーだった。不思議そうにフミを見つめているが、その目は眠いのか半分しか開いていない。

「どこか痛いか?」

「ううん、大丈夫。ルフィに名前を呼んでほしくて……」

「ルフィが大好きなんだな」

「うん。大好き」

「やっぱり……ルフィには…言ったほうが」

「チョッパーくん。」

フミは人差し指を口元で立ててシーッと言って微笑んだ。気配に敏感なゾロが起きてしまっているかもしれないし、誰が聞いているからわからないからだ。チョッパーは小さい声で謝る。

「少し外に出てくるね」

「まだ寒いからちゃんと上着着ろよ!」

「うん、ありがとう」

砂漠の地域でも夜から朝方にかけては普通の冬島と同じくらい寒い。フミが上着を羽織って外に出ると、まだ町は動いていなかった。人1人見当たらず、薄い靄がかかっている。ハァと息を吐くと真っ白になって宙を舞った。
ビビの住む大きな城を出て、少し歩くとやっと人に出会った。

「お嬢ちゃん寒くないかい?」

家のすぐ前で体操をしていたおじさんは上着一枚だけのフミに話しかける。

「………大丈夫…です」

人見知りのフミは目を合わせず、少し俯きながら答えた。

「そうかい。これ、食べるか?」

おじさんはポケットの中からキャラメルを取り出してフミに差し出した。甘いものが好きなフミは微笑んで受け取る。人見知りでも甘いものは嬉しい。

「ありがとう、ございます」

「朝は冷えるから、気をつけなさい」

「……はい!」

大きく頷いておじさんと少し体操をしてから別れた。日も少しずつ昇ってきて空もどんどん明るくなっている。
そんな時、フミの肩を誰かが叩いた。恐る恐る振り返ると黒髪の美人が立っていて、サンジならすぐにメロメロになってしまうだろう。ニコリと笑いかける彼女は、ミス・オールサンデー……ロビンだった。

「あなた………」

生きていたんだ、という声を飲み込み少しだけフミは距離をとった。

「あなた達の船長……変な人ね」

「何か…用ですか?」

声は自然と震えてしまい、冷静を装おうとしても無駄だった。クロコダイルの手下だ、仕返しに来たのかもしれない。ロビンはニコリと不敵な笑みを浮かべたままだった。

「特に用はないの。ただあなたと話をしたくて」

「話……?」

「あなたはどうして海賊を選んだのかしら」

ロビンの言いたいことはすぐにわかった。戦う力もなく守られてばかりの女の子が来るような世界ではないことくらいフミもわかっている。

「………ルフィと生きていくって決めたから。」

フミが初めてロビンと目を合わせ、そしてその強い眼差しにロビンは少しだけ納得した。

「そう。船長さんが好きなのね」

沈黙は肯定。ロビンはフフッと小さく笑った。

「お荷物かと思っていたけど、あなたがいることで船長さんは動いているのかも。あなたは鍵ね」

「………鍵?」

「わからなくても大丈夫。でも鍵の自覚はいつか持ってもらわないと私が困るの」

「……あなたは何者?」

これ以上、ロビンが何かを話すことはなくニコリと笑うとフミに背を向けて歩いて行ってしまう。その背中は魅惑的で誰も寄せ付けない雰囲気で姿が見えなくなるまでフミは動くことが出来なかった。

全員が眠る部屋へと戻るとチョッパーはもう完全に目覚めて、薬を調合していた。

「フミ!遅かったな、心配したぞ」

「………うん、ごめんね。おじいさんと体操してたの」

なぜか、ロビンの事は話せなかったフミは襲ってくる眠気に耐えられず自分のベッドに寝転んだ。

「寝るのか?」

「うん、眠くて……」

「また薬の時間になったら起こすから、ゆっくり眠っていいぞ」

「あり…がとう……」

チョッパーは優しく話しかけた。その声が子守歌のように聞こえ余計に眠気を誘う。そしてフミは目を閉じ、すぐに意識を手放した。

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