アラバスタ(026) 落ち着かないフミは突然縫い物をし始める。くまさんの首元にあるリボンが取れかけていたからだ。 ゾロは剣に乗せたマツゲを息を荒げながら上げたり下げたりして、ウソップは自慢話ばかり、みんな落ち着きがない。 「何かしてねェと気が紛れねェのさ。器用じゃねェんだ、特にあの体力バカは“七武海”のレベルを一度モロに味わってる」 「おい、てめェ何が言いてェんだ。ハッキリ言ってみろ。」 「ああ、言ってやろうか。おめェはビビってんだ。ルフィが敗けちまうんじゃねェかってよ。」 ゾロだけじゃなく、ウソップもフミも負けるかもと思っていたからこそ落ち着いていられなかった。もちろん、ゾロがサンジの言葉を認めるわけもなく怪訝な顔をする。 「おれが!?ビビってるだァ?この…“素敵マユゲ”」 「アッ!カァッチ〜〜〜ン!アッタマきたぜ、オァ!?この…“マリモヘッド”」 「何ィ!?やんのかてめェ!」 「やめなさいよ!くだらない」 ゾロとサンジの喧嘩はナミによって一瞬で沈んだ。ああ言っていたサンジも本当は落ち着かず、ゾロに突っかかることで気を紛らわせようとしたのかもしれない。 「平気よみんな!ルフィさんは敗けない。約束したじゃないっ、私達は“アルバーナ”で待ってるって!」 そう言っているビビが一番汗をかき、目が泳いでいて落ち着いていないのがわかる。でもそのビビの姿を見てみんな小さく笑った。立っていた気も少しずつ収まっていく。一番不安な彼女が一番ルフィを信じていた。 「頭を“アルバーナ”に切り替えましょう!」 ナミの言葉に全員が頷き、ルフィのことは暫し忘れることにした。 真剣な面持ちのチョッパーはフミに近づく。 「フミ、薬の時間だ」 小声で呟き、チョッパーは錠剤5錠と水が入った水筒をフミに手渡した。隅にいる2人にはみな気が付いていない。 「頭の痛みはどうだ?胸は、お腹は痛くないか?」 「少し頭が痛いくらいだよ、ありがとうチョッパー先生」 「じきに薬が効いてくるからな。」 チョッパーは優しくフミの頭を撫でる。その頭は太陽光で熱がこもっていた。病気のフミには本当に辛い環境だろう。 「ルフィがいない時はおれが守るからな。」 チョッパーの小さな声はフミには届かなかったが、近くにいたマツゲには聞こえていたみたいで首を傾げていた。 反乱軍がアルバーナへ到着するまで残り4時間となった。 一味は大きな川を渡らなけばならなくなったが、今乗っている巨大なヒッコシクラブは水が苦手のようで途方に暮れているところ、ルフィがかつて弟子にしたクンフージュゴンたちが助けてくれると言う。彼らが運んでくれたおかげで向こう岸に渡ることができた。 が、どのみちヒッコシクラブは川を渡れないため、ここでお別れだ。今度は砂漠を歩いて進まなければならない。 「間に合いそうか?」 「難しいわ。マツゲくんに乗ってもまだ間に合うかどうか。」 「しかもそれじゃ乗れて2人だ。B.Wが仕掛けてくるとすりゃここから先だぞ」 「何とか全員で行動する方法はねェのか。」 ゾロ、ビビ、ウソップ、サンジが口にするが解決策は見つからない。悶々と悩んでいると、どこからか足音がした。ビビがパッと顔を上げるとそこには見知った顔が。 「カルー!それに“超カルガモ部隊”!迎えに来てくれたのね!」 アラバスタ王国最速の動物“超カルガモ”から構成される部隊でカルーと合わせて7匹が駆けつけてくれたようだ。一人一匹ずつ乗り、マツゲは横を走って付いて行くことになる。 アラバスタ最速と言われるだけあって、ヒッコシクラブとは比べものにならないほど速い。全速力で一味は“アルバーナ”へと向かった。 アルバーナへと続く道の正面に大きな階段がある。そこではクロコダイルに命じられたB.Wのエージェント達が待機していた。目的は王女ビビを抹殺すること。それをよんでいた一味は全員ビビと同じマントを羽織る。フードを取らなければ誰がビビかわからない作戦だ。 案の定誰かわからない彼らは別れてビビと思わしき人物を追った。しかし、本物のビビは岩陰に隠れB.W達がいなくなるのを待ち、反乱軍の元へ向かう手筈だ。 ウソップとマツゲの後についていくことになったフミも深くフードをかぶっている。後ろからはマネマネの実を食べたオカマのボン・クレーが追いかけてきた。 「よくここまでついてきてくれたわね…ウッフッフッフ!」 裏声を使いビビの声真似をするウソップの演技にフミは小さく笑う。全く似ていないのは置いておいて、二人は顔を見合わせフードを取りニヤリと笑ってみせる。 「「残念、ハズレ」」 二人の顔を見てボン・クレーが目を見開いた。 「お前達はあの時のォオ!!!!」 が、しかし。ボン・クレーの迫力にフミとウソップは抱きしめ合いながら“ごめんなさい”と謝る。勝てるかどうかはわからいが、やるしかない。フミはゴクリと息を飲んだ。 決着はすぐについた。 開始2秒、マツゲが殴られウソップが殴られ、フミ以外気を失ってしまった。 「手応えもないわねーん!」 そしてフミに目を向けるボン・クレー。 「1人になっちゃったわよ」 「………っ、」 ゆっくりと近づいてくるオカマにフミは恐怖で身動きが取れない。 「あなた、本当に海賊なのん?」 「………そうよ!」 「冗談じゃないわよー!守られてるだけじゃ、ダメなの」 ボン・クレーはニヤリと笑うとフミの右足に蹴りを入れた。息が出来なくなり、あまりの痛さにその場へ倒れる。 「骨……弱いのねぇ」 フミの右足はたった一蹴りで粉々に砕けてしまった。骨が折れたことなど、今まで無かったフミはこの痛みがなんなのか分からない。ただ、足は動かすことができなかった。 「ゴホッ……ハァッ…」 「か弱い女は嫌いよん」 ボン・クレーはフミを睨みつけると、ラクダに乗って行ってしまった。ビビを抹殺する使命が無ければ時間をかけて殺されていたかもしれない。 追いかけようとも、立つことさえ出来なかった。 「フミ、無事かっ」 気絶していたウソップが目を覚ましてフミの方に駆けてくる。フミはウソップと目を合わせた瞬間、安心したのか意識を手放した。 「フミ!?!?」 骨など折れたことのない彼女からしたら、今回の痛みはすぐに気絶してもおかしくなかった。何とか、耐えていた緊張の糸がウソップを見た瞬間に切れたのだ。 ウソップは華奢なフミの身体を支えながらマツゲの様子を見に行った。 prev next 戻る |