アラバスタ(025)

その時、どこからか着信音が聞こえた。

“プルプルプルプルプルプル”

ロビンが持っていた子電伝虫が鳴いている。

「なに?」

『もしもし?聞こえてますか?』

「ええ、聞こえてるわ。ミルオンズね。」

『おいこれ通じてるのか?おれ子電伝虫使ったことねェんだよ…もしもし?』

「何なの?」

『ハイ、大丈夫です。そのまま話せます。』

「オイ!さっさと要件を言え!何があった」

意味のわからない電話にクロコダイルは眉間に皺を寄せた。

『ああ…その声…聞いたことあるぜ…え〜〜こちらクソレストラン』

「クソレストラン…!?」

『へェ…憶えててくれたみてェだな嬉しいねェ』

巨人の島“リトルガーデン”で一度サンジと会話をした時も“クソレストラン”という言葉を聞いた覚えがあるクロコダイル。サンジだけボン・クレーのマネマネの実の能力を受けていないため、正体がバレていないため一味が有利だ。

「てめェ…一体何者だ」

『おれか…おれは…Mr.プリンス』

「そうかMr.プリンスどこにいる」

『…そりゃ言えねェな。言えばおめー…おれを消しに来るだろう?まァお前におれが消せるかどうかは別の話で、易々と情報をやる程おれはバカじゃねェ…お前とは違ってなMr.0』

サンジはクロコダイルを挑発してどうする気なのか、わからないがそれに乗っかる事にしたウソップはプリンスに歓声を送る。

『はは…そばにいるみてェだなウチのクルーたちは。じゃあこれからおれは………ぐァっ!!!………ドサッ……ハァ…てこずらせやがって…もしもし?捕えました、この男をどうしましょう!』

サンジが捕まったらしい音がして、一味全員言葉を失う。唯一の希望の光が消えた瞬間だった。

「そこはどこだ…場所を言え」

『ええ…“レインベース”にある“レインディナーズ”というカジノの正面門です。』

そして子電伝虫の通話は途絶え、ツーツーという音だけが部屋に響いた。

「クハッハッハッハ!!こりゃいい…行くぞ店の正面門だ」

クロコダイルとロビンは部屋から出ていく。この間にもバリアの残り時間は減っていた。フミは後ろを振り返り、ビビを見つめて微笑む。

「フミ!あと1分だ!」

「ビビちゃん…早く行って。反乱を止めて!」

「でも……」

「早く!!!!」

水がどんどん流れ始め、それと共にバナナワニの数も増える。二匹同時に突進され、その勢いにバリアごとフミの体も飛んだ。ビビは振り返らず、扉へ走る。
もっと力があったなら、鍵を取り返してすぐに檻の中から救うことができるのに…フミは泣きそうになった。

「みんな…私役立たずでごめんなさい…」

「何言ってるの!気を緩めないで!」

「そうだ!長押しし続けねェとバリアが取れるぞ!」

「フミ…!」

バリアなんて関係なしにバナナワニはフミを食べようと必死だった。牙を立て、ヨダレを垂らしながら襲い掛かる。もしも今バリアが取れたら、フミは一瞬で食べられてしまうだろう。ルフィの体が震えた。

「あと30秒だ。」

余命1年と宣告されたフミの余命はあと30秒になるかもしれない。フミの瞳から一滴の涙が溢れ頬を伝っていく。その水滴が地面に落ちようとした時、ふわっと煙草の匂いがした。

「食事中は極力音を立てませんように“反行儀(アンチマナー)キックコース」

ゴゴゴォン!という音がしてバナナワニが倒れ、金髪の王子がフミを"お姫様抱っこ"してバナナワニから救った。“助けに来たよプリンセス”そう耳元で呟くサンジは本当に王子に見える。

「オッス、待ったか?」

喜びのあまり“プリンス〜〜!!!!”とウソップとルフィが叫ぶ。こんなにカッコイイサンジは初めてかもしれない、とナミは思った。ゆっくりとフミを下ろしたサンジは微笑む。

「フミちゃん、惚れた〜〜?」

「ほ、惚れるかもしれない…」

サンジを見上げながらフミの頬はピンク色に染まっていて、ルフィは気が気じゃない。

「おいっっっっ!?フミ!?」

傷だらけのフミにビビが駆け寄る。ビビは反乱を止めに行ったのではなく、王子を呼びに行っていたのだった。そんなビビにルフィは親指を立てて褒める。ビビも同じく親指を立てて笑う。

「行け〜!サンジ!全部ブッ飛ばしてくれェ!」

「っか〜〜〜〜!出てきやがった次々と。何本でも房になって来いよクソバナナ。レディーに手を出す様な行儀の悪ィ奴らには片っ端からテーブルマナーをたたきこんでやる」

サンジが物凄いはやさでバナナワニを蹴散らしていく。そんな中である一匹のバナナワニの口の中から白い丸い塊が飛び出した。丸い塊の中から出てきたのは、ドルドルの実の能力者であるMr.3。リトルガーデンでナミを殺しかけた人物だが、檻の合鍵を作らせることに成功する。

「フミ〜!」

檻から出た瞬間にルフィはフミの元へ走り、抱きついた。勢いが強かったためフミはバランスを崩すがすぐにルフィが支える。

「おれ、冷や冷やした」

「ごめんね、サンジくんが来てくれなかったら危なかった。」

「守ってやれなくてごめんな。」

ルフィは割れやすいグラスを扱うように優しくフミの頭を撫でた。檻の中で助けられないもどかしさをもう味わいたくない。

「あ〜、本当に良かった」

ルフィの抱きしめる腕に力が入る。それに負けじとフミも力を込めた。
ふと視線を感じてフミが顔を上げると、ルフィの後ろにバナナワニが迫っている。“ルフィ後ろ!”と言う前に、ルフィはフミから離れて殴りかかっていた。
ルフィ、ゾロ、サンジが残りのバナナワニを倒していくが、勢いがあり過ぎて壁を壊してしまい、大量の水が入り込んでくる。

「フミ!掴んで!」

近くにいたナミと手を繋ぎ、思いっきり息を吸い込んだ瞬間に部屋が水で満たされてしまった。2人で地上へと泳ぐ。能力者のルフィ、そしてスモーカーも支えられながら地上へと向かった。



ザバッとナミとフミ、そしてビビの3人が水面から顔出した。思いっきり酸素を吸い込み、濡れた服を絞る。

「オイ、生きてるか?ルフィ!ったく、能力者ってのは厄介なリスク背負ってんな。」

サンジはルフィを抱えて出てきて、大きく膨れ上がった腹を押して口の中から水を出させた。そして次に出て来たのはゾロに抱えられたスモーカー。ルフィが溺れる前に“助けろ”と命令していた。

「…だいぶロスしちまったな、ビビちゃん。間に合うか?」

「わからない。」

「フミちゃん“ナノハナ”で買った香水持ってるか?」

「?、持ってるよ」

「体につけるんだ」

フミは言われた通り、懐からショートケーキのような甘い香りの香水を体に振りかけた。

「ア〜〜〜!あの世の果てまでフォーリンラブ!」

「いや、マジでイっちまえお前。」

ゾロが呆れた声を漏らすのもわかるほど、意味不明な行動だがちゃんとサンジには考えがあった。はぐれたままのチョッパーはきっと今匂いで一味を探しているだろう、とフミの香水を使ったのだ。
その匂いに反応したのは、チョッパーだけではない。水を飲んでしまってダウンしていたルフィがムクリと起き上がった。

「…………フミの匂い」

「獣かお前!?」

「クロコダイルは何処だーっ!!!!」

「獣だ!!」

フミは濡れた髪をツインテールにして、服も絞った。そして全員がスモーカーを見る。応援を呼ばれれば少し厄介だ。

「行け。」

「ん?」

「だが、今回だけだぜ…おれがてめェらを見逃すのはな…次に会ったら命はないと思え“麦わらのルフィ”」

スモーカーの言葉にみな驚き、ゾロはニヤリと笑った。

「あそこだ!麦わらの一味だァ!」

麦わらの一味に気が付いた一般の海兵たちがこちらに向かって走ってきていた。ルフィはスモーカーに“お前好きだな〜”と伝えると逃げるために走り出す。一刻も早くアルバーナへ向かわなければならない。

「おい、もしかしてこのまま走ってアルバーナへ行くなんてことねェよな!?」

「そうだ“マツゲ”は?どこに行ったの?」

「この町に馬小屋とかあったぞ!馬もらおう!」

走って行けば間に合わないし、フミは黙っていたが体力の限界が近づいていた。病気のせいでもあるが、元々そんなに体力はない。

「ご安心あれ…前を見な!」

サンジの言葉に全員走りながら前を見た。そこには巨大な……カニがいた。

「あっ!いたぞ!おーい!みんなー!」

巨大なカニ乗ったチョッパーは大きくみんなに手を振っていた。“ヒッコシクラブ”というこのカニはマツゲの友達らしく、普段なら砂に潜っていて滅多に顔を出さない珍しいカニだ。そして全員その上に乗り、カニは全速力でアルバーナに向けて走り出したのだが……

「キャっ!!」

出発した瞬間に何かに掴まれたビビから悲鳴が漏れる。素早く気が付いたルフィが慌てて手を伸ばしてビビの代わりにその何かに捕まれてカニから引きずられる。

「ルフィ!!!」

「ルフィさん!!」

「お前ら先に行け!おれ一人でいい!ちゃんと送り届けろよ!」

「おいルフィ!敵は二人いるんだぞ!」

ルフィがニッと笑ったのをみて、ゾロはチョッパーにそのまま進むように命令した。全員ルフィを信じているからこそ、前を向くことができる。

「いいかビビ、クロコダイルはあいつが抑える。反乱軍が走り始めた瞬間にこの国の“制限時間”は決まったんだ。国王軍と反乱軍がぶつかればこの国は消える。それを止められる唯一の希望がお前なら、何が何でも生き延びろ。この先ここにいるおれ達の中の誰がどうなってもだ!」

ゾロの言葉は重く、正論を言っているのはわかっていた。仲間の命を懸けてでもビビはこの反乱を止めなければならない。

「ビビちゃん、こいつは君が仕掛けた戦いだぞ。数年前にこの国を飛び出して正体も知れねェこの組織に君が戦いを挑んだんだ。ただし、もう一人で戦ってるなんて思うな。」

サンジは優しくビビに声をかけると、前を向いた。今後ろを見ているのはビビだけだ。

「ルフィさん!!“アルバーナ”で待ってるから!!!」

「おォオ!!」

ビビはやっと前を向いた。が、遠く離れていくルフィをみて、フミはその場に崩れ落ちた。ルフィの強さは信じているが、不安でたまらない部分もある。クマのぬいぐるみは顔が見えないくらい強く抱きしめられていた。けれど顔は前を向き、涙も流れていない。

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