アラバスタ(024)

「まあいい。ちょうど頃合…パーティーの始まる時間だ。違うか?ミス・オールサンデー。」

「ええ………7時を回ったわ。」

ボン・クレーが国王に化けてナノハナに現れ、ダンスパウダーで三年間の雨を奪っていたと謝罪する。駆け付けたコーザは撃たれ、Mr.1とミス・ダブルフィンガーが巨大船を町に突っ込ませて火を放ってしまった。反乱軍リーダーのコーザはアルバーナへの総攻撃を決意し、国王軍のチャカは迎え撃つよう命じてしまう。いよいよ国王軍と反乱軍の全面戦争が始まろうとしていた。これは全てクロコダイルが仕掛けた罠。

「なんて作戦を…」

「どうだ、気に入ったかねミス・ウェンズデー。君も中程に参加していた作戦が今花開いた…声を澄ませばアラバスタの唸り声が聞こえてきそうだ。そして、心にみんなこう思っているさ。おれ達がアラバスタを守るんだ、と」

「やめて!何て非道なことを!」

「ハハハ…泣かせるじゃねェか!国を想う気持ちが国を滅ぼすんだ!」

思えばここへ漕ぎ着けるまでに数々の苦労をした、とクロコダイルは今までのことを思い出す。
社員集めに始まり“ダンスパウダー”製造に必要な“銀”を買うための資金を集め滅びかけた町を煽る破壊工作、社員を使った国王軍濫行の演技指導、じわじわと溜まりゆく国のフラストレーション崩れゆく王への信頼。

「なぜおれがここまでしてこの国を手に入れたいかわかるか、ミス・ウェンズデー」

「あんたの腐った頭の中なんてわかるもんか!」

「…ハッ…口の悪ィ王女だな。」

椅子の後ろで手を縄で縛られているビビは、椅子を倒してそのまま引きずりながら出口へ向かおうとする。ビビは反乱軍を止めに行くつもりだ。
ここから東へまっすぐ“アラバーナ”へ向かえば国王軍よりも早く“アラバーナ”へ回り込めば、まだ反乱軍を止められる可能性はあった。

「…ホォ…奇遇だな。おれ達もちょうどこれから“アルバーナ”へ向かうところさ。てめェの親父に一つだけ質問をしにな。」

「一体…これ以上父に何を…」

「んん?親父と国民どっちが大事なんだ、ミス・ウェンズデー。ククッ一緒に来たければ好きにすればいい」

クロコダイルは笑いながら懐から鍵を取り出した。見るからに檻のカギである。が、すぐに地面に穴が開いてその中に鍵を投げ入れられてしまった。
“反乱軍”と“国王軍”の激突はまだ避けられる。殺し合いが始まるまで“8時間”。時間があるとは言えなかった。ここから“アルバーナ”へ急いでもそれ以上はかかることは王女のビビならわかっている。

反乱を止めたければ今すぐここを出なければならないが、檻の中のルフィ達を助けるためにはクロコダイルが床の下に落とした鍵を取りに行かなければならない。

「バナナワニの巣へ?」

「まァ…そんなところだ。」

窓の外を見ればバナナを頭に生やしたワニが泳ぐ水があった。ここは水の中の部屋だと今気が付いたルフィはワニを見て笑う。そのバナナワニの巣へ鍵を落としてしまったのだった。

「ワニが檻の鍵を飲みこんじゃった!」

ビビの声に、フミも地面の穴から下を覗いてみると、バナナワニと目が合った。

「何ィ〜〜!?追いかけて吐かせてこの檻開けてくれ!」

「無理よ私には!だってバナナワニは海王類でも食物にする程、獰猛な動物なのよ!?近づけば一瞬で食べられちゃうわ!」

「ア〜〜こいつは悪かった…奴らここに落ちたやつは何でもエサだと思いやがる。おまけにこれじゃどいつが鍵を飲み込んだのかわかりゃしねェな。」

わざと鍵を落としたクロコダイルがニヤリと笑う。

「さて、じゃあおれ達は一足先に失礼するとしようか。なお、この部屋はこれから一時間かけて自動的に消滅する。おれがB.W社社長として使ってきたこの秘密地下はもう不要の部屋。じき水が入り込み、ここはレインベースの湖に沈む。」

フミの顔がみるみるうちに青ざめていった。

「罪なき100万人の国民か…未来のねェたった4人の小物海賊団か…救えて一ついずれも可能性は低いがな。“賭け金”はお前の気持ちさ、ミス・ウェンズデー。ギャンブルは好きかね。クッハッハッハ!」

国民を救うか、麦わらの一味を救うかどちらか一択を迫られるビビの顔色を楽しむクロコダイルがふとフミを見た。恐怖で震える一般人と変わらない女を見る。

「もう一人いるじゃねェか。どうだ?ミス・ウェンズデー、この女に海賊を頼んでお前は反乱を止めに行けばいい。」

フミにバナナワニを倒せないことをわかっていて、クロコダイルはビビに言う。フミは悔しさに泣きそうになったが、ここで泣いてしまえば思うつぼだ。

「フッ…まァいい。この国には実にバカが多くて仕事がしやすかった。若い反乱軍やユバの穴掘りジジイ然りだ。」

「何だと!?カラカラのおっさんのことか!?」

「…もうとっくに死んじまってるオアシスを毎日もくもくと掘り続けるバカなジジイだ。ハッハッハッ!笑っちまうだろう?度重なる砂嵐にも負けずせっせとな…」

「何だとお前っ!!」

「聞くが“麦わらのルフィ”……“砂嵐”ってヤツがそう何度もうまく町を襲うと思うか?」

クロコダイルの台詞を理解するのにそう時間はかからなかった。クロコダイルが目の前で手のひらサイズの砂嵐を起こしながら笑っている。

「お前がやったのか!!!」

全員の脳裏にユバで出会った痩せこけたトトの笑顔が過る。

“ユバはね砂なんかに負けないよ”
“私だよ!わからないか!?無理もない少し痩せたから”

「……殺してやる」

ビビは下唇をグッと噛んだ。高らかに笑うクロコダイルが憎くて憎くて堪らなかった。
その時、ザバァッと水が溢れ出す音がした。水が部屋に漏れてきているのが見える。クロコダイルを殺さなければ何も変わらないことはビビもわかっていた。でも、倒せる力を持っていない。

「ビビ!ここから出せ!」

「クハハハ!ついに命乞いを始めたか麦わらのルフィ!そりゃそうだ、死ぬのは誰でも恐ェもんさ…」

「おれ達がここで死んだら、誰があいつをブッ飛ばすんだ!!!」

クロコダイルを倒せるかもしれない力を持っているのは、この島に麦わらの一味しかいなかった
ルフィの言葉にピクッとクロコダイルが反応する。

「自惚れるなよ、小物が…!」

「お前の方が小物だろ!!」

ルフィの睨みにフミはその存在を遠く感じた。お荷物でしかない自分が、なぜ海に出ているのか。強くなろうとも思ってこなかった自分が海賊と名乗ることが恥ずかしく感じた。
フミが下を向いている間にバナナワニが部屋に侵入してきた。まだ一匹だが、その後ろでバナナワニ達が順番待ちをしているのが見える。

「ビビちゃん……反乱を止めてきて……」

「フミさん?何言ってるの……?」

「フミ!?」

「ウソップくん、試してみるね。」

「そうかその手が……ってあれ2分しか持たねェよ!!」

フミは何とか立ち上がり、ビビの前に立って巨大なバナナワニを見上げる。そしてバリアが使えるくまのぬいぐるみを握りしめた。フミの行動に興味が湧いたのか、クロコダイルはじっと見つめていた。

「ウソップ!何の話だ!フミやめろ!」

「おれがナミの武器を作るついでにフミにも作ってやったんだ。自分を守るための武器。」

バナナワニが物凄い勢いでフミに突進していく。ルフィは檻をガンガンと揺らした。愛しい人が、今巨大な生き物に殺されようとしている。

「フミ!!!」

バナナワニがフミに噛みつこうとした時、赤い何かに包まれバナナワニは反動で後ろに3歩ほど下がった。

「何あれ!」

「フミ……良かった…」

「あれはおれ様の作ったバリアだ。何でも弾き返すが、2分しか持たねェ!」

「すげェなウソップ!!!」

ウソップは褒められて嬉しそうだが、肝心なことを思い出す。バリアでバナナワニを防げても体内にある鍵をどうやって取りに行くのかということ。バリアでビビを守るフミはその事に気が付いているが、解決策は見つかっていない。

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