アラバスタ(023) ビビとフミに立ちはだかったのはB.Wの社員たちだった。ここで戦えるのはビビだけで、フミはただ立っていることしかできないでいた。ビビは傷つき、息を荒げながら戦う。だが、大勢の敵と女であるビビとではやはりこちらが不利だった。ビビはとうとう倒れてしまう。 「ずいぶん暴れてくれたもんだな、王女様。さすがは元我が社のフロンティアエージェントだ。だが観念しな、ヒハハ!」 「ビビちゃん!!」 「なんだこの女、一般人は下がっていやがれ!」 「フミさん!」 フミは社員の一人に蹴られて、ゴロゴロと転がる。たった一回蹴られただけで倒れてしまう自分が弱く、悔しくフミは泣きそうになった。 その時、ドドン!という音がしてB.Wの社員たちは銃殺されていく。 「何だ!あの鳥は!」 「“隼(ハヤブサ)”か!?」 フミが空を見上げると大きな隼が銃を撃っていた。何かの能力者なのかとすぐに気が付く。人間サイズの隼はビビとフミを掴むと、建物の上に飛んだ。 「お久しぶりです、ビビ様。」 「ペル!!」 「少々ここでお待ちを。」 アラバスタ王国護衛隊副官でアラバスタ最強の戦士と言われるペル。世界中で5つしか確認されていない飛行能力を持つ悪魔の実であるトリトリの実モデル“隼(ファルコン)”を食べており、偵察から戦闘まで幅広い任務に就いている。 ペルは一気にB.Wを倒してしまった。ビビは安堵する。 「ビビちゃん、傷が……」 「大丈夫よ、それより早くみんなのところへ」 「そう、その気なら話は早いわ。」 後ろから声がして二人が振り返ると、黒髪の女がニコリと笑っていた。 「ミス・オールサンデー!!」 ミス・オールサンデーと呼ばれた女性は本名ニコ・ロビン。B.Wの副社長でありのちの麦わらの一味の考古学者である。その時初めて会ったフミは“綺麗で不気味な女の人”という印象だった。 「華麗なものね…初めて見たわ、飛べる人間なんて。……でも私より強いのかしら。」 ミス・オールサンデーのただならぬオーラにビビの体が震えているのがわかった。 「よければ王女様達を私達の屋敷へ招待したいのだけれど、いかがかしら?」 「くだらん質問をするな、問題外だ。」 「ナメんじゃないわよ!!」 ビビはミス・オールサンデーに攻撃を仕掛けるが呆気なく受け止められた。 「まあ、お姫様がそんなはしたない言葉、口にするものじゃないわ。ミス・ウェンズデー。」 ビビが会社に潜入していたころの名前で呼んだミス・オールサンデーは余裕の笑みを浮かべる。 「よくもイガラムを……」 「イガラム…?ああ、Mr.8」 「…まさかお前がイガラムさんを!?」 「何をそんなにムキになるの?あなた達がうちの社員達にしたこととどう違うのかしら。おかしな話!」 次の瞬間、ビビの体にミス・オールサンデーの手が貫通したようにペルは見えた。けれどフミは違う角度から見えていたため、ビビの背中から腕が生えたように見える。ミス・オールサンデーはフミを見て小さく微笑んだ。その笑みの意味は本人にしかわからない。 「ビビ様!!貴様ァアアア!アラバスタの砂になれ!!」 「“三輪咲き(トレス・フルール)”」 ミス・オールサンデーの元へ飛んでくるペルの体に三つの腕が生え、体を固定されて飛ばなくなったペルは三人のいる建物の上に落下した。 「ペル!」 「ビビ様!?ご無事で!?」 「フフフッ…私はこの子を殺したように見えた?アハハハ」 「貴様一体何をした!」 「そんなに怒らないでよ、少しからかっただけじゃない」 「能力者か!」 「そう、私が口にしたのは“ハナハナの実”体の各部を花の様に咲かす力。これが私の能力よ。」 敵だというのに綺麗な能力に見入ってしまったフミは座り込んでいた地面から立ち上がる。 「咲く場所を厭(いと)わない私の体は、あなたを決して逃がさない。」 「逃げるだと?バカを言え!今ここでイガラムさんの敵(かたき)を討たせてもらう。」 「そう…でもごめんなさい。もう少し遊んであげたいけど…私にはその時間がないの。」 「安心しろ!時間などいらん!」 クスッと笑ったミス・オールサンデーはペルの体に六本の腕を咲かせた。そして背中と膝がくっついてしまうくらい、海老反りに折られて倒れてしまう。 「“王国最強の戦士”も大したことないわね。」 「ペル!!そんな!」 「さァ、行きましょうか。社長とあなたの仲間たちが待ってるわ。」 ミス・オールサンデーは抵抗できないビビをまた咲かせた腕で拘束する。そしてフミを見た。 「あなた、麦わらの一味よね?」 強かったペルが一瞬で倒されたのを目撃した後で、恐怖で震えてフミは頷くことしかできない。 「海賊のあなたが、一国の王女に守られていてどうするの。」 その言葉がフミの胸にグサリと深く刺さった。ウソップにバリアを貰ったからって少しだけでもみんなに近づいたと思っていたフミの気持ちは一瞬にして折られる。 「フフッ、そんな悲しい顔しないで。少しからかっただけよ。」 「あなたは、何かを守っているの?」 「私は自分を守っているの。」 ミス・オールサンデー……ロビンの言葉の意味はよく理解できなかったが、今まで見た事がない顔した彼女にフミは吃驚した。 ロビンに連れられたのは“レインディナーズ"”の中だった。ある部屋の前に立たされ、ビビが扉を開いた。目の前に大きな下り階段があり、その下にクロコダイルと檻があった。檻の中にはルフィ、ウソップ、ゾロ、ナミ、スモーカーの5人が入っている。檻の中のナミとルフィは二人の名前を呼んだ。 「…やァ、ようこそ。アラバスタの王女ビビ…いやミス・ウェンズデー。よくぞ我が社の刺客をかいくぐってここまで来たな。」 「来るわよ、どこまでだって!あなたに死んでほしいから…Mr.0!」 「死ぬのはこのくだらねェ王国さ…ミス・ウェンズデー」 クロコダイルの不敵な笑みにフミは背中が震えた。 「お前さえこの国に来なければアラバスタはずっと平和でいられたんだ!」 ビビは階段を駆け下りて、クロコダイルに向かっていく。ルフィ達は止めるが、フミはやはり動けなかった。そしてビビの持つ武器がクロコダイルの首を刎ねる。 「気が済んだか、ミス・ウェンズデー」 首が刎ねられたはずのクロコダイルはビビの口を塞ぎ、後ろに立っていた。辺りに砂が舞う。 「この国に住む者なら…知ってるハズだぞ。このおれの“スナスナの実”の能力くらいな。ミイラになるか?」 「砂人間!?」 「コラお前!ビビから離れろ!ブッ飛ばすぞ!!」 ウソップとルフィが檻の中から声を出すが、聞く耳すらもたないクロコダイルはビビを離すと、椅子にどさっと座らせる。ロビンは震えるフミの肩に優しく触れて、共に階段を下りて来た。 「なんだその女は…」 「麦わらの一味の一人よ。」 「フミに手出すなよ!!絶対許さねェからな!!!」 「馬鹿ルフィ、挑発するな。」 「だって…フミが震えてる…」 フミの震えなんて離れた檻からは見えないはずなのに、ルフィだけは感じ取っていた。 prev next 戻る |