アラバスタ(020)

その日の夜。砂漠の夜は氷点下まで下がるため、昼との温度差は大幅に違う。フミはチョッパーを抱きしめながら歩いていた。

「暑いより寒い方がいいね。」

「おれもそう思う、暑いの嫌いだ!」

「ヘックシ!寒すぎるけど……」

「フミ!チョッパーじゃなくて、おれの手握ればいいじゃん。」

ん!と言ってルフィは手を差し出した。チョッパーは苦笑いし、フミの腕から下りる。フミは照れながらもルフィが差し出す手を握りしめた。

「冷たいなー、フミの手。」

「ルフィも冷たいよー。」

「すぐ暖かくなるから。もう顔熱ィし。」

フミがルフィの顔を見上げれば、ほんのりとピンク色に染まっていた。手を握るなんて何年かぶりだろう。改めてしてみると恥ずかしいものだった。

「照れるね。」

「ししっ、照れるな。」

見てるこっちが照れるわ、と言いたいウソップだったがここは空気を読んで黙っておいた。

進行方向に明かりが見えて、ルフィが指差した。砂が舞っていてよく見えず、もう少し近づくと町に砂嵐が起きていた。

「ユバの町が砂嵐に襲われてる!」

ビビの言葉でここがユバだと言う事がわかったが、オアシスと聞いていたためイメージと違っていた。
ビビは砂嵐が治まったあと、町全体を見回して今のユバの様子を見るがその現実を受け入れきれない。

「旅の人かね……砂漠の旅は疲れただろう。すまんな、この町は少々枯れている。だがゆっくりと休んでいくといい、宿ならいくらでもある。それがこの町の自慢だからな。」

砂をシャベルで掘りながらここの住民らしいおじいさんは笑いながら言った。足元がふらふらとしていて、無理をしていることくらいすぐわかった。

「あの…この町には反乱軍がいると聞いてきたんですが……」

「反乱軍に何の用だね……」

先ほどまでニコリと笑っていたのに、"反乱軍"と聞いた瞬間にギロリとこちらを睨んできた。その迫力にフミは少したじろぐ。

「貴様らまさか、反乱軍に入りたいなんて輩じゃあるまいな!」

おじいさんは突然石や樽などを投げ出した。余程反乱軍との因縁があるんだろう。

「……あのバカ共なら、もうこの町にはいないぞ。」

「何だとォ〜〜!?」

「そんな………!」

反乱軍を止めるために来たというのに、無駄足だった。反乱軍は"カトレア"という"ナノハナ"の隣にあるオアシスに本拠地を移したという。ナノハナといえばフミがショートケーキの香りの香水を買った町だ。

「ビビ!どうすんだ!」

「ビビ……?今ビビと……?」

「あの……私はその……」

「ビビちゃんなのか?そうなのかい?生きてたんだな、よかった!私だよ、わからないか?無理もないな、少し痩せたから……」

「……トトおじさん…………!?」

「そうさ……」

昔よりも痩せこけてしまったトトにビビは驚いた。自分が国にいない間にトトは砂と干ばつと変わっていく人々と戦っていたのだ。

「私はね…ビビちゃん!国王を信じてるよ、あの人は決して国を裏切るような人じゃない。そうだろう!?反乱なんてバカげてる。あのバカ共を頼む、止めてくれ!もう君しかいないんだ。」

トトはビビの肩を強く掴んで涙を流した。やっと救世主が帰ってきてくれた、と。

「トトおじさん、心配しないで。」

ビビはスッとハンカチをトトに差し出した。そしてニコリと笑ってみせた。ビビだって不安で堪らないはずなのに。

「反乱はきっと止めるから!」

王女としてトトを、この国を守らなければならない。ビビは一人で全てを背負い込み過ぎている、それをフミは救ってあげたいと思った。もっと頼ってくれてもいいのに、と。

そして一味はユバの宿屋へ移動する。ただ、ルフィだけはトトが掘っていた場所に留まった。

「ルフィ、行かないの?」

「おう、フミゆっくり休めよ!」

「ルフィ………私も残る。」

「ダメだ、フミ倒れたんだぞ?休まねェと。」

「ルフィと一緒にいたいもん。」

フミの言葉にルフィはクラクラした。フミの言葉ひとつひとつが胸の鼓動を速くさせて、体温を上げさせる。
ルフィは隣で黙々と地面を掘り進めるトトを見つめた。水は一向に出る気配がない。

「なー、おっさん。出ねェぞ水。おれもう喉カラカラなんだ。よくこんなとこに住んでんなー、大変だ。」

「水は出るさ……"ユバ・オアシス"はまだ生きてる。」

「そうか!よしじゃ掘ろう!」

ルフィは素手で、シャベルを使うトトよりもはやく地面を掘り進めていく。その様子に驚きつつもトトは小さく笑った。

「お嬢ちゃん、いい男を捕まえたね。」

「え!?」

「いつか凄い男になる、なんとなくそんな予感がしてね。」

「……はい、ルフィは凄いです。みんなが彼についていく。」

たとえ、ルフィが海賊王になる瞬間を見れないかもしれなくても精一杯支えて行こうと思った。
ルフィはどんどん掘り進めていき、梯子を使わなければ降りられない位置まで来ると疲れ果てて眠ってしまった。

「トトさん、運ぶのを手伝って貰えませんか?」

「ハハッ、寝ちまったのかい。」

「ぐっすりです。」

「お嬢ちゃん、ビビちゃんをよろしく頼む!!」

トトは深々と頭を下げた。

「そ、そんな…顔上げて下さい…私にはそんな力……」

「あんたが笑ってるだけで癒される。たぶんこの男もビビちゃんも思ってるはずさ。」

「わ、笑ってるだけ…で?」

「笑顔がステキなんだ。」

二人でルフィを宿屋に運びながら沢山話をした。その時のフミの笑顔にトトは頑張ろうと思ったのだ。
宿屋でルフィを寝かせたトトはまた穴を掘りに戻って行った。その日の夜フミはすぐに眠ることができた。それは疲れたせいなのか、それともトトの優しい言葉で気分が良くなったのかどちらかだ。

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