アラバスタ(018) 「お前ら兄貴からいったい何受け取ったんだよ。」 「さー、わかんねェ紙きれだ。」 「本当に紙きれだなメモでもあるわけじゃなし、何なんだろうな。」 「ああ、わかんねェけどエースが持ってろって言うんだから持ってるんだおれは!だからしっかり縫いつけてくれよ!」 ルフィはシャンクスに受け継がれた麦わら帽子を縫い物が得意なフミに渡した。過去にフミはルフィに沢山縫い物をしてプレゼントしている。今ルフィのズボンのポケットに入っている少し古い小銭入れはフミから貰った初めてのプレゼントだ。 フミは麦わら帽子の赤いリボンの下にエースから貰った紙きれを縫い付ける。自分の分はぬいぐるみの首元のリボンの下に縫い付けておいた。 「できたよ、ルフィ。」 「ありがとうフミ。ここなら安心だ。絶対なくさねェもんな。」 ルフィは麦わら帽子を被ってニッと笑う。 「それより、フミ何だその服!」 「アラバスタに溶け込むためにナミちゃんが買ってくれたの。踊り子の服」 「かなり可愛いでしょ!感謝しなさいよルフィ」 「かわいすぎ。」 ルフィの顔が赤く、まじまじとフミを見つめている。その視線に耐えられず、フミは顔をそらした。 「フミ、こっち見ろ」 「やだ。」 「ちょっと肌見えすぎじゃねェのか?」 ナミやビビに比べればかなり露出は少ない方だが、いつものワンピースに比べれば太ももや肩が出てしまっている。その白い肌にルフィは何の躊躇もなく触れた。 「ルフィっ!こんなところでイチャイチャしてないであんたも着替えてきて!」 1人だけ着替えていなかったルフィにナミはアラバスタの庶民の服を投げた。アラバスタはそれでなくても暑いのに、二人の熱でまた気温が上がってしまっては困る。ルフィは大人しく服を着替えに男部屋へ追いやられた。 「目的地は"ユバ"という町。サンドラ河を抜けてこの町を目指すわ!」 「そしてユバには反乱軍のリーダーがいるってわけか。」 「そいつをブッ飛ばしたらいいんだな!?」 「やめて!反乱軍は説得するの。もう二度と血を流してほしくないから。」 ビビの顔がいつに無く真剣で、誰もふざけた事なんて言えない。言おうとも思わない。 「70万人の反乱軍をだぜ?止まるか?」 「止まるかですって?ここからユバへの旅路でわかるわ。B.Wという組織がこの国に一体何をしたのか、アラバスタの国民が一体どんな目にあっているのか。」 止まるか、なんて話ではない。止めなければならない。ゾロは静かに口を閉じる。 「止めるわよ、こんな無意味な暴動!もうこの国をあいつらの好きにはさせないっ!」 ビビの言葉に全員が頷き、ゾロも納得して謝った。 「よし!わかったビビ、行こう!」 ビビの話を恐らく半分ほどしか理解していないルフィだったが、ビビの真剣さだけはヒシヒシと伝わってきてやる気が出てきた。 同日の昼、メリー号は港町ナノハナから大きなサンドラ河を抜けて"緑の町エルマル"へとついた。ここから北西に砂漠を歩いてユバへ向かわなければならない。 "緑の町"という言葉にフミは違和感を感じた。緑なんて見当たらない、むしろ全て砂で覆われているからだ。 つい最近まで活気あふれるこの町がどうして枯れてしまったのか。ここ3年この国のあらゆる土地では一滴の雨さえ降らなくなってしまったらしい。降雨ゼロなんてアラバスタでも過去数千年あり得なかった大事件で、そんな中で1か所だけいつもより多く雨が降る土地があった。 「それが首都"アルバーナ"王の住む宮殿のある場所。人々はそれを"王の奇跡"と呼んだ。あの日、事件が起きるまではね……」 ビビの言葉にフミはゴクリと息を飲んだ。 2年前港町のナノハナでたまたま落としてしまった積荷の中から雨を降らせる事が出来る粉"ダンスパウダー"が出て来た。人工的に雨を降らせることが出来るが、その代わり隣国で雨が降らないという現象が起きるようになってしまう。よって、"ダンスパウダー"の製造・所持を政府が世界的に禁止されていた。 が、その"ダンスパウダー"が大量に港町に運び込まれ、国では王の住む町以外は全く雨が降らないという異常気象。 「王を疑うのが普通だよな。その粉で国中の雨を奪ってやがるんだと…」 「何だビビ、そりゃお前の父ちゃんが悪ィぞ。」 「バカ!はめられたんだよ!ビビちゃんのお父様がそんな事なさるか!」 「今思えばその時すでにクロコダイルの壮大な作戦は始まっていたの。」 全てはクロコダイルが仕組んだ罠だというのに彼の思惑通り、反乱がおきてしまった。町が枯れ、人が飢えて、その怒りを背負った反乱軍が無実の"国"と戦い殺し合う。 「国の平和も…王家の信頼も…雨も…町も…そして人の命までも奪って、この国を狂わせた張本人がクロコダイルなの!なぜあいつにそんなことする権利があるの!?」 ビビの叫びに、全員が思った。クロコダイルを必ずぶっ飛ばなさなければならない、と。 「私はあの男を許さない!!!!」 ドゴォオオン!という古びてしまったビルが倒れる音がする。ルフィ、サンジ、ウソップが今感じた怒りをビルに発散してしまったらしい。ゾロが呆れたため息をつく。 「さっさと先へ進もう。ウズウズしてきた。」 ルフィはブンブンと腕を振り回す。顔は相当怒っていた。 そして麦わらの一味は急いで砂漠を進んでいくのだった。 prev next 戻る |