アラバスタ(017)

反乱軍を止める為に"ユバ"へと向かうことになった。そこで一味はメリー号に乗って河から内陸へ入ることになり、エースが海兵たちを食い止めてくれているからうまく逃げられそうだった。

「カルー!あなたにしか頼めない重要な仕事があるわ!」

「クエ!」

「このまま北のアルバーナへ先行して父にこの手紙を。これにはクロコダイルとB.Wの陰謀、イガラムと私が調べ上げた全てが記してあるわ。」

アラバスタ王国護衛隊隊長で王女ビビの世話係のような役割も兼ねていたイガラム。ビビと共に犯罪組織バロックワークスに潜入していたときにはMr.8と名乗っていたが、ビビの身代わりとなり生死不明となった。

「そして私が今生きてこのアラバスタに心強い仲間と共に帰って来てるってことが……できる?一人で砂漠を越えなきゃ。」

「クエ!」

「…じゃあ父に伝えて!この国は救えるんだって!」

元気よく返事をしたカルーは全速力で砂漠を走っていった。ビビを乗せた船は陸から離れ、エースの存在が気になっていたナミはもう一度質問する。

「あれは誰?」

「エース、おれとフミの兄ちゃんだ。」

「兄ちゃん!?さっきのやつはお前と……ん?フミちゃんの兄貴でもあるのか…?」

「ルフィとフミ……血が繋がってたの!?」

そんな禁断の恋物語ではない。フミは慌てて否定する。

「…その、ルフィと私は…け、結婚するから…エースは私のお義兄ちゃんなの。」

顔を真っ赤に染めて説明するフミにルフィは満足気な笑みを浮かべ、サンジはプルプルと震えた。

「け、結婚〜!?おれは許してないからねフミちゃん!」

「ルフィ、あんたプロポーズ済みなのね!?」

「あのルフィが!?結婚知ってるのか!?」

「ケッコン?なんだそれ!」

「まぁ別に兄貴がいることに驚きゃしねェが、何でこのグランドラインにいるんだ。」

サンジ、ナミ、ウソップ、チョッパー、ゾロは口々に言うがほとんどが結婚への驚きであった。そう言えば、仲間には話していなかったとフミは申し訳なく思う。

「海賊なんだ。"ひとつなぎの大秘宝"を狙ってる。」

「エースは私とルフィより3歳上だから3年早く島を出たの。」

「しかし兄弟揃って"悪魔の実"を食っちまってるとは…」

「うん、おれもびびった。ははは!」

「ん?」

ルフィはニカッと笑う。内心エースと再会できて本当に嬉しいんだろう。

「昔はなんも食ってなかったからな、それでもおれは勝負して一回も勝ったことなかった。とにかく強ェんだエースは!」

勝ったことがないと言うのに高らかにルフィは笑う。化け物じみた強さのルフィが一度も勝ったことが無いことに一味は驚きを隠せなかった。

「あ、あんたが?一度も?生身の人間に?」

「やっぱ怪物の兄貴は大怪物か。」

「負け負けだった、おれなんか!だっはっはっ!」

「でも今度はルフィが勝つもんね。」

「そ〜〜さ!今やったらおれが勝つね。」

フミが勝つといえばルフィは本当に負ける気がしない。たとえ強いエースであっても近くにフミがいれば何倍も有利な気がした。

「お前が誰に勝てるって?」

スタンッ、という音がしてエースが船の柵に降りてきた。そこに座っていたルフィは甲板へと転がり落ちる。

「エースー!!」

エースだとわかった瞬間にフミが抱き着きにいった。

「フミ!久しぶりだなァ。ちょっと背伸びたか?それにその踊り子の衣装、かなり似合ってる」

「エース…エースだ。ちょっとだけ伸びたよ!この衣装は…ちょっと恥ずかしい」

「とにかく、会えてよかった。」

「私も。……ほんとにエースだ。エースの匂い!」

フミはクンクンとエースの匂いを嗅いだ。恥ずかしいのかエースの顔は少し赤い。

「ん?フミはいい匂いするな」

「アラバスタの香水つけてみたの。」

「甘いなァ。食いたいくらいだ」

勿論こんな突然甘い雰囲気を出されれば、一味は驚いて口をあんぐりと開けてしまう。この二人は付き合っているのでは、と疑うほどだ。ルフィがこの状況を黙って見ていられるはずもなく、間に割って入りフミを引き寄せる。

「こ、香水だっておれも気づいてた!それに背伸びたことだって!」

「そんな意地はるなよルフィ。お前はいつもフミを独占してるだろ?」

「……エースでもフミは渡さん。」

「はいはい。あーこれは失礼、みなさんどうもウチの弟とフミがいつもお世話に。」

口を開けて固まっていた一味はエースの礼儀正しい挨拶にやっと動き出し、深々とお辞儀した。
ウチの弟と妹と言わずウチの弟とフミと言う辺り、エース自身の心には何かあるのだろうと察したのはナミだけだった。

「とにかくまァ会えてよかった。おれァちょっとヤボ用でこの辺の海まで来てたんでな。ルフィとフミに一目会っとこうと思ってよ。」

ルフィに抱きしめられたままのフミは熱かったが離れようとはしない。ルフィの腕の中が一番居心地がいいからだ。

「ルフィお前…ウチの"白ひげ海賊団"に来ねェか?もちろん仲間も一緒に。」

「いやだ。」

「ブハハハ!あーだろうな、言ってみただけだ」

「"白ひげ"ってやっぱその背中の刺青は本物なのか?」

「ああ、おれの誇りだ。」

船長は世界の均衡を守る三大勢力の1つ四皇の一角"白ひげ”で、それ故に世界最強の海賊団と呼ばれている。そんな白ひげ海賊団にエースがいることにフミは驚きだった。

「"白ひげ"はおれの知る中で最高の海賊さ。おれはあの男を"海賊王"にならせてやりてェ。ルフィ、お前じゃなくてな。」

「いいさ!だったら戦えばいいんだ!」

ルフィの答えにエースはニヤリと笑う。何を考えているのかは本人にしかわからない。

「お前ら仲良くやってんのか?」

「もちろん!なァ?フミ!」

「うん、仲良いよ。」

「隠し事とかしてねェだろうな?」

エースの言葉にフミは戸惑う。隠し事、はしている。病気のことを打ち明けられずにいた。フミの動揺に二人は気づいていない様子で、特に触れられることはない。

「ない!」

「香水に気づけないようじゃ、まだまだだな?」

「なんか美味そうな匂いはしてた。でもなんかフミに噛り付きそうで、近くに寄れなかったんだよなァ。」

「か、噛り付き…!」

「男の本能ってやつだな、そりゃ。」

「「男の本能?」」

「お前らにはまだわからなくていい大人の世界の話だ。」

純粋な二人はまだわかっていないのが嬉しいらしいエースは、旅の間に二人がどこまで進んだか考える時期もあった。が、どうやら心配はいらないらしい。

「フミはずーっと純粋なままでいろよ?」

「?、うん。」

頭をポンポンと撫でながらエースは微笑んだ。

「エース!!フミに触りすぎだ!」

「悪い悪い。ホラ。お前らにこれを渡したかった。」

「ん?」

「なーに?」

「そいつを持ってろ!ずっとだ」

エースに渡されたのはただの紙切れだった。そんなただの紙切れがエースと二人をまた引き合わせるらしい。

「いらねェか?」

「「いる。」」

「できの悪い弟を持つと、兄貴は大変なんだ。おめェらもコイツらにゃ手ェ焼くだろうが、よろしく頼むよ…」

エースは一味に向けて微笑むと近くにいたフミの頭を優しく撫でて、船から飛び降りた。メリー号の柵から下を覗き込むと、エースは小舟に乗っている。

「ええっ!もう行くのか?」

「ああ。」

「もうちょっとゆっくりしてけばいいじゃねェか!久しぶりに会ったんだし。」

「そうだよ。エースと話したい」

「言っただろ。お前らに会いに来たのはコトのついでなんだ。」

エースはある"重罪人"を追っているらしい。最近"黒ひげ"と名乗っている男で、もともとは"白ひげ海賊団"の二番隊隊員でエースの部下だった。海賊船で最悪の罪である"仲間殺し"をして船から逃げたらしく、隊長のエースが後始末をつけなければならない。その為、今エースはグランドラインの海を逆走していた。

「次に会う時は海賊の高みだ。」

ニヤリと笑ったエースは小舟を動かした。相変わらず、かっこいいなとフミは声に出さず想う。
ルフィとフミは離れていく白ひげの刺青がある背中に大きく手を振った。

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