ドラム王国(015)

「ん………プハーッ!やっと抜けたな!」

「…ハァっ…苦しいよルフィ」

「でも煙吸わなかっただろ?」

吸わなかったものの、キスの間息が出来ずにいたためフミは沢山息を吸い込む。
隣で釣りをしていたウソップはそんな二人のイチャイチャした声を聞かされていた。煙の中、うかつに動くことも出来ず無理矢理聞かされ、ウソップはお怒りだったが目の前の光景にそんなことどうでもよくなっていた。

「オカマが釣れたああ!!」

ウソップの声にフミとルフィも釣竿を見る。カルーに白鳥を付けたオカマがくっついていた。

「シィ〜まったァ!あちしったら、なに出会いがしらのカルガモに飛びついたりしてんのかしら」

そしてオカマはそのまま海に落ちていく。ザブーンという音がして、オカマはバチャバチャと溺れていた。

「いやーホントにスワンスワン」

溺れているのを見過ごすわけにはいかず、ゾロが飛び込んで助けに行った。溺れたということは悪魔の実の能力者なのかとフミは疑う。

「見ず知らずの海賊さんに命を助けてもらうなんて、このご恩一生忘れません!あと温かいスープを一杯頂けるかしら?」

「「ねェよ!!」」

「こっちがハラへってんだ!」

島を出てからというもの、食料が尽きてしまったから毎日釣りをして小魚を少ししか食べていなかった。見ず知らずのオカマに用意する食べ物すらない。

「お前泳げねェんだなー」

「そうようあちしは悪魔の実を食べたのよう」

フミはやっぱり、という顔をする。どんな実なのかウソップが問えば、見せてくれるらしい。その瞬間、オカマは右手でルフィを殴った。一味全員の目が敵意に変わる。

「待ーって待ーって待ーってよーう!」

オカマの方を見れば、そこにはオカマの格好をしたルフィがいた。声も体格も顔も全てが同じ。服装だけがオカマである。

「ルフィ…?」

フミが近づけば、ルフィになったオカマはフミの顎をクイッと持ち上げ、顔を近づけた。

「こんな事も出来るのよう」

どんどん顔が近づいてきて、中身がルフィじゃないことはわかっているのにフミの鼓動は早くなった。唇が近づいてきて、思わずぎゅっと目を閉じた。
その光景をみて慌てて本物のルフィが間に入る。

「フミに触んな!フミも顔赤くするなよ!?」

「ご、ごめん」

「カルガモに捕まってる時にあんた達のラーブラブな声を聞かされたんだからこれくらい、いいでしょーう?」

オカマが自分の顔を左手で触れば元の顔に戻った。

「これがあちしの食べた"マネマネの実"の能力よーう!」

スゲー!と全員が感嘆の声をあげた。フミはルフィの胸に収まりながら、ドキドキと高鳴る鼓動を抑えた。不覚だった、ルフィじゃない人にときめいてしまったと反省する。

「この右手で顔にさえ触れればこの通り誰のマネでもでーきるってわけよう!」

オカマは一人ずつ順番に触れていく。

「体もね!」

ナミの顔で服を脱いだオカマにウソップチョッパールフィがぶうっ!と吹き出した。裸を見られたナミは思いっきりオカマを殴った。

「さーらーにー!メモリー機能つきぃ!過去に触れた顔は決して忘れなーい。」

過去に触れたらしい人物の顔に変わっていくオカマにルフィウソップチョッパーの三人は大興奮。オカマを加えた四人でダンスを踊ったりしていた。

「ねェ!何か船がこっちに来るわよ。あんたの船じゃないの?」

「アラ!もうお別れの時間、残念ねい。」

「「え〜〜〜〜!」」

「悲しむんじゃないわよう!旅に別れはつきもの、でもこれだけは忘れないで。友情ってヤツァ…つき合った時間とは関係ナッスィング!」

親指を立ててカッコよくきめたらしいオカマは船に飛び乗る。

「さァ行くのよお前達!」

「ハッ!Mr.2 ボン・クレー様!」

Mr.2という単語に全員がそこで気づいた。彼はアラバスタを支配するクロコダイルの会社B.W(バロックワークス)の一人だということ。船はもう遠ざかってしまっていた。

「噂には聞いていたのに…大柄のオカマでオカマ口調。白鳥のコートを愛用していて背中には"おかま道"と…」

「「気づけよ」」

あれだけ分かりやすいにも関わらずビビは気がつかなかった。顔色を悪くしたビビは、ボン・クレーが見せたメモリーの中に父でありアラバスタの国王の顔もあったことを話す。もし王になりすませるとしたら、よからぬことも出来る。そして、もし一味の誰かに化けられれば仲間を信用できなくなる。

「今あいつに会えたことをラッキーだと考えるべきだ。対策が打てるだろ。」

ゾロは悪い顔で笑う、その笑顔が今は頼もしい。

船は進み、気候も安定してくる。暑いと感じる気候にアラバスタが近づいて来ていることがわかった。

「とにかくしっかり締めとけ。今回の相手は謎が多すぎる。」

「なるほど」

「これを確認すれば仲間を疑わずに済むわね。」

フミはルフィの左腕にきつく包帯を巻きつける。交代で今度はルフィがフミの左腕に包帯を巻いた。

「そんなに似ちまうのか?その…"マネマネの実"で変身されちまうと。」

あの場にいなかったサンジも包帯を巻きながら聞いた。

「そりゃもう似るなんて問題じゃねェ。同じなんだ。おしいなー、お前見るべきだったぜ。」

「おれァオカマにゃ興味ねェんだ。」

ナミの裸を見られたのに残念だ、とウソップは心の中で思う。もし声に出せばナミに殴られサンジには殺されるだろう。

「ルフィを真似たあいつにフミが赤面するくらい似てたな」

「ちょっと、ウソップくん!」

「そうだっ!フミ!おれはまだ怒ってるからな。」

「ごめん!!」

思い出したかのように、ルフィはムッとした表情でフミを見る。油断ならねェ、とぶつぶつと呟きながらフミを引き寄せた。

「もう二度と間違えねェように、お仕置きしとかねェと。」

「ちょ、ル、ルフィ?」

「ストーップ!おれが悪かったからフミを許してやれ!」

顔が真っ赤に染まったフミを庇うようにウソップはルフィを止めた。少し不服そうだがルフィもフミを掴む手を緩める。

「あんな奴が敵の中にいるとわかるとうかつに単独行動もとれねェからな。」

ゾロのアイデア通り、左腕にバツ印を書いてボン・クレー対策をする。このバツ印が無かった場合、それはボン・クレーの能力ということになる。
もしアラバスタに着く前に会っていなかったらと思うと怖くなった。

「港に近づいてきたぞ。」

「西の入江に泊めましょう。船を隠さなきゃ。」

目の前に迫るアラバスタ王国にフミはゴクリと息を飲んだ。この国をビビのために救わなければならない。

「よし!とにかくこれから何が起こっても左腕のこれが仲間の印だ!」

9人が円になって真ん中に左腕を突き出し、ルフィの声に頷いた。

「じゃあ上陸すっぞ!メシ屋へ!!あとアラバスタ」

「「ついでかよ!!」」

ビビは左腕の印を握りしめてニッコリと笑った。

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