ドラム王国(013) もうすっかり夜になっていた。城の中から騒ぎ声が聞こえ、麦わらの一味は城を見上げる。 ドドドッという音を立てて、走ってくるのはトナカイ型に変形したチョッパーだった。 「おい来たぞあいつが」 「え!?どういうこと?」 「みんなソリに乗って!山を降りるぞォ!」 チョッパーの後ろから追いかけてくるのは、包丁を投げつけるドクトリーヌだった。チョッパーが引くソリに急いで乗り込む。 「まだお礼言えてないのに…」 「フミ!捕まれ!」 ルフィはフミを抱きかかえ、ソリに飛び乗った。全員が乗り終え、山の上から駆け出した。山の下にある村人は空を見上げ、空を飛ぶソリが信じられずに目を擦った。冷たい雪が頬を撫でる。 うまく着地したソリは雪の上を走り続ける。ドクトリーヌはしんみりとしたお別れなどしたくなかった、こういう別れ方しかできなかった。 するとどこからか爆発音がした。城があった山から離れた場所でソリを止め、チョッパーは山を見上げる。 「ウオオオオオ!ウオオオオオ!!」 目の前の光景にチョッパーは声をあげて涙を流す。 「すげェ。」 「ああ。」 「奇麗……」 ピンク色の雪……いや桜が降っていた。Dr.ヒルルクが雪国に桜を降らせるために研究をしていたあの桜だった。まるでチョッパーの出航を喜ぶかのような、幻想的な光景だった。 「ウオオオオオ!!!!」 ドクター、ドクトリーヌありがとう。チョッパーの泣き声からそんな気持ちが伝わってきて、フミは静かに涙を流した。 後に語り継がれるこの"ヒルルクの桜"はまだ名も無きその国の自由を告げる声となって夜を舞う。 ちょうどこの土地でおかしな国旗をかかげる国が誕生するのはもう少し後の話だ。 メリー号は出航し、そのまま宴が行われていた。飲んで騒いで笑って、この宴が楽しくて仕方ないフミは病気の事など忘れてジュースを飲んだ。 「チョッパー!てめェいつまでそこでボーッとしてんだ!こっち来て飲め!」 「いやしかし、いい夜桜だったぜ。まさか雪国で見れちまうとはな!」 「ああ、こんな時に飲まねェのはウソだな!」 珍しく仲の良いサンジとゾロにフミは驚く。二人は酒を注ぎ合っていた。 そんな呑気な二人にナミは怒鳴った。カルーが川に落ちて凍っているのにどうして呑気なのかと。 「クエクエクエ〜クエッグエ!」 「ゾロって奴が川で泳いでていなくなったから大変だと思って川へ飛び込んだら凍っちゃったって」 カルーの鳴き声を聞いてチョッパーは訳した。 「トニー君あなたカルーの言葉がわかるの?」 「おれはもともと動物だから動物とは話せるんだ」 ビビに話しかけられて照れ臭そうにチョッパーは答えた。 「すごいわチョッパー!医術に加えてそんな能力もあるなんて」 「バ…バカヤローそんなのほめられても嬉しくねェよ!コノヤローが!」 「「嬉しそうだなー」」 嬉しそうなチョッパーにフミも嬉しくなる。チョッパーの隣に腰掛けて頭を優しく撫でるとまた嬉しそうにした。 「ところでナミさん"医術"って何のことだ?」 チョッパーが医者だと言うことをナミが伝えると、フミ以外が驚いた顔をした。 「あんた達、チョッパーを一体何者のつもりで勧誘してたの。」 「七段変形面白トナカイ。」 「非常食。」 ルフィとサンジの解答にチョッパーは顔色が悪くなる。そこで思い出した、自分が医者である事とその道具がない事に。 「医療道具忘れてきた!」 「チョッパーくん、これソリに乗ってたけどこれは違うの?」 フミはソリにあった青いリュックをチョッパーに手渡す。 「おれのリュック!何で…。」 「自分で持ってきたんじゃないの?もしかして、ドクトリーヌさんかな?」 ジーンとチョッパーはドクトリーヌの行動に感動する。結局は全部見透かされていたのだ。 「フミ!チョッパー!飲め!」 しんみりとした空間にルフィが割って入り、二人にジュースを渡した。チョッパーも笑顔になり、宴を楽しむ。 「えーここでおれ達の新しい仲間"船医"トニートニー・チョッパーの乗船を祝し、改めて乾盃をしたいと思う!」 ウソップが階段の上に立って、グラスを掲げた。 「新しい仲間に乾盃だァア!!」 「「カンパーイ!!」」 全員が笑顔でグラスを空へ掲げた。 船は今、最高速度で砂の王国アラバスタを目指している。 prev next 戻る |