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「ルフィ!◯◯が!」
消えてしまった◯◯のあとは花の匂いがした。ナミが心配そうにおれを見る。掴めなかった手は、一瞬で消えてしまった。
◯◯がおれの前からいなくなるのはこれで何回目だ。数えられないくらい、◯◯はおれの腕からすり抜けていく。好きだ、と言いながら。
おれのことを本気で好きかなんて、今日まで分からなかったんだ。さっき本気だって聞いて、やっと。
「会話聞いてたんじゃない!?」
「……ああ。」
「なんで、素直にならないのよ!いつものあんたならもっと素直に伝えてるでしょう!」
「冷たい、大人な男がいいって◯◯が言ったから。嫉妬で狂いそうなおれは子供だ」
おれは◯◯の理想の男になるために、苦手な演技をした。◯◯のためって考えると演技なんて簡単だった。◯◯に本気で好きになってもらうために。他の男と同様、おれも遊びなんだと思っていた。
他の男に抱かれて、キスされて、愛されているのを知りながら、それが嫌だと言えずに。言ったら「大人」ではないから。縋り付くのは子供だ。
「でも、さっき嘘だって!」
「◯◯がわかんねェ。おれが好きだって言うくせに他の男と遊んで。おれが冷たい、大人な男になったら泣いて。おれは、嫉妬しても良かったのか?嫌だって止めても…」
「◯◯を捜すのよ。ちゃんと気持ち伝えなさい。」
「ナミありがとな、練習付き合ってくれて。ちゃんと◯◯に言う。」
もっと最初から素直になってればよかった。
ナミを練習台に告白するくらいに、おれは◯◯に対しては臆病なままだ。
「エース!◯◯に好きになってもらうにはどうしたらいいんだ?」
「血は繋がってても考えてることまではわかんねェよ。」
「◯◯は冷たい大人な男が好きらしい!」
そう言うとエースは驚いた顔をした。なんでそんな顔をしたのかわかんねェけど、エースはよく相談に乗ってくれた。
「◯◯は素直じゃねェんだよ。思ってることとやってることが全然違ェし、そのくせにすぐ照れるし。」
子供のときのおれはまだエースの言ってる意味がよくわかっていなかった。
けど、今やっとわかった。◯◯は本当にわかりにくい。けどもう◯◯の気持ちに気付いた。
「なんで笑ってんのよ。」
「昔のこと思い出してた。」
「◯◯のこと?」
「おう。」
ナミは呆れたように笑ってる。◯◯をはやく見つけて、抱きしめたい。潰れてしまうほど、強く抱きしめて好きだって言うんだ。
やっと、おれのもんに出来るんだな。そう思うと、◯◯が愛おしい。ずっとずっと、手に入れたかった。
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