06
我が緑陵高校に、ゴーストハンターなるものが来ているらしい。
らしい、と言うのは、私が実際に見たわけでも会ったわけでもなく、人づてに聞いただけだからだ。
聞くところによると、彼等はこの緑陵高校で起きている怪奇を解決するために調査に来ているんだとか。
正直、箝口令の敷かれた私達生徒相手じゃあ、調査も糞もないんじゃないかとは思うが、そこはつっこまない。
今更、学校に良い顔をするつもりはない。
ただ、面倒臭そうだな、と漠然と思ってるだけだ。
何せ、我が緑陵高校に在籍する者なら、その名前を知らない人は居ないだろうと確信持って言える、面倒臭い男が関わっているのだから。

「勿論、坂内さんも来てくれますよね」

面倒臭い男改め、安原修が、調査の協力をクラスメイトに仰ぐ一方で、私にもオネガイと言う名の命令をしてくる。
と言うか、協力を仰いでるよりも、完全に脅しにしか聞こえないのは気の所為だろうか。
いや、気の所為ではない。
傍から聞いてたら、明らかに脅しだ。
私は、目の前で笑顔を浮かべる安原君から視線だけを外して、考える素振りを見せる。
安原君を振り切る労力と、生徒指導の松山に厭味を言われる精神的疲労は、果たしてどちらが楽なのだろう。
ああ、本当に面倒臭い。

「ねえ、坂内さん。一緒に行こう?坂内さんが居ると心強いし……」

クラスメイトの女子が、安原君の援護をする様に、私に頼んでくる。
私としては、調査協力よりも彼女曰く心強いの根拠が何処からくるのかが心底気になる。

「協力はするけど、一緒に行くのは無理よ。私、松山先生に呼ばれてるもの」
「また?」

安原君の言葉に、私は苦く笑みを浮かべながら頷く。
安原君の言葉通り、調査団体が来ると決まってから、私は毎日放課後に松山に呼ばれていた。
所謂、口止めってやつだ。
自由奔放な私は、この学校では問題児扱いされている。
そういう意味でも、また今回の調査で触れられたくない部分を知っているからこそ、私は松山に厳しく監視されているのだ。

「まあ、どうせ厭味言われたら終わりだろうし、私が言われてるのは会議室に近づくなってことだけだから協力くらいは出来るよ」
「会議室に近づくな、か」

企み顔で安原君が呟いたのを横目に、私は一緒に行けない事に落ち込む女子生徒に謝った。

「そういう事ならしょうがないよ。……ねえ、気をつけてね?」
「ごめんね、ありがとう」

自分達だって目をつけられるだろうに、自分より私を心配してくれる彼女にゆるりと笑みを浮かべた。
心配と不安を織り交ぜた女生徒の視線を振り切り、私は時計をチラリと見る。
そろそろ指導室に向かった方が良さそうだ。
安原君達が会議室に向かうのに合わせて、私も松山の元に向かった。

「お前は、素早く行動も出来ない愚図なのか?俺は、放課後直ぐに来いと言っただろう」
「……、すみません」

指導室に到着して、松山は私と顔を合わせると同時に厭味を連発してきた。
毎度思うけど、彼は何故こうも常に他人をけなせるのだろうか。
今まで忘れていた昔の失敗やら欠点をあげられると、彼が如何に常日頃から暇でくだらない事を考えているのかが良く分かる。
そもそも、他人の事をそこまで覚えてられるって凄い。
此処まで他人に関心を持てるのだから、ある意味尊敬はしているのだ、これでも。
まあ、見習いたいとは思わないし思いたくもないが。

「聞いてるのか、坂内!」
「老人じゃないんですから、そう叫ばなくても聞こえてますよ」
「貴様ぁっ!その口の聞き方はなんだ!」

ああ、やってしまった。
うっかり零した厭味は、当然火に油の役割を果たしてくれた。
更に煩くなった松山に、私は取り敢えず大人しく頷く。
こうしていれば、その内松山の溜飲も下がることは、周知の事実だ。
頭の中で、今日の授業で習った役に立たない内容を思い出しながら、私はひたすら松山の厭味が終わるのを待った。
そして、これが終わったら、絶対に新稲先生の所に行こうと、心に決めた。
幾ら厭味を聞き流せるとは言えども、所詮は私もまだまだ子供だ。
愚痴れる癒しの場所くらいは、欲しいものなのです。


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