ぼくと家族の朝を紹介します。
ぼくの朝は、いつも静嘉パパの声で始まります。
「テツヤー、シヅヤー、朝だぞ起きろー」
ぼくと両親の部屋は二階にあるのですが、静嘉パパは部屋のドアを全開にして起こしてきます。
ぼくはテツヤお父さんと似て朝に弱いので、いつも起きるのに苦労します。
でも、テツヤお父さんより遅く起きたことはありません。
今日も、テツヤお父さんより早く起きれました。
「静嘉パパ、おはようございます」
「はいよ、シヅヤおはよう」
廊下で仁王立ちしている静嘉パパが、起きたぼくの頭を撫でて額にちゅーをしてくれました。
それから寝癖でボサボサのぼくの髪を撫でながら、相変わらず寝癖凄いな、と静嘉パパは笑いました。
静嘉パパは笑うと、眉間の皴が深くなります。
テツヤお父さん曰く、そういう癖なんだそうです。
「シヅヤは顔洗ってこい。俺は寝坊助起こしてくるわ」
「はい」
「よし。良い子だ」
ガシガシと静嘉パパはぼくの頭を撫でて、テツヤお父さんの寝るぼくの隣の部屋に入っていきました。
「テツヤ起きろ」
「ん、…あと、5分……」
「寝坊すっぞー」
「んん……」
「テツヤー朝飯冷え、うおっ!?」
「……うぅ、静嘉……うるさい」
「だからってベッドに引きずり込むな。頭打ちそうで怖いわ。あと起きろ」
「……静嘉君がキスしたら起きます」
「……っふ。よし、起きたな」
「〜〜っ!デコピンしろとは言ってません」
「俺にはそう聞こえた」
「どんな耳ですか」
「はいはい、おはようのちゅー。じゃ、いい加減朝の準備しろよー」
「……(不意打ちでのキスも辞めてほしいです)」
父二人が二階でイチャイチャしている間に、ぼくは一階の洗面所で顔を洗ってしっかりと目を覚まします。
リビングに向かう途中でテツヤお父さんと擦れ違ったので、きちんと挨拶しました。
「テツヤお父さん、おはようございます」
「おはようございます、シヅヤ君」
まだ少し眠そうなテツヤお父さんは、ぼくと同じようにボサボサの髪のまま洗面所に消えていきます。
髪の色は静嘉パパと同じですが、こういうところはテツヤお父さんの遺伝だとつくづく思います。
テツヤお父さんの友達の大輝君からは、よくサイヤ人と揶揄われます。
生憎とぼくには尻尾がないので大輝君にカメハメ波が打てないのが残念ですが、いつもテツヤお父さんがイグナイトをしてくれるので良しとします。
リビングに入ると、途端にご飯の良い匂いが漂ってきました。
ぼくがいつもの椅子に座ると、空色のランチョンマットの上にご飯とお味噌汁と卵焼きと里芋の和え物が置かれました。
我が家はテツヤお父さんの意向により、和食が多いです。
そして、いつも美味しいです。
「静嘉パパ、美味しそうです!」
「そりゃ良かった。ゆっくり召し上がれ」
「いただきます!」
「いただきます」
手を合わせてから、まず牛乳を飲みました。
静嘉パパ曰く、牛乳は食べ物の消化を和らげてくれるから先に飲むのが良いんだそうです。
ぼくには意味が難しくて分からないですが、先に飲むのが良いと静嘉パパが言うのでそうしています。
静嘉パパは料理の知識がいっぱいあります。
それを聞くのはいつも楽しいです。
「今日も美味しそうですね。いただきます」
「はい、召し上がれー」
ぼくが卵焼きを食べていると、テツヤお父さんもリビングに来ました。
テツヤお父さんは、いつも静嘉パパの料理を褒めてから食べ始めます。
そして、食べ終わった後にも何が美味しかったかを話しながら褒めます。
それをすると静嘉パパは、照れ臭そうに、でも幸せそうに笑います。
だから、ぼくもテツヤお父さんの真似をして静嘉パパの料理を褒めます。
すると、静嘉パパはとても嬉しそうにするのです。
それに、静嘉パパの料理は本当にいつも美味しいのです。(二回目)
「ごちそうさまでした。静嘉パパ、今日もご飯美味しかったです!」
「お粗末様。そりゃ良かった」
「里芋さんが美味しかったです。また食べたいです!」
「んん?じゃあ、土曜日に一緒に作るか?」
「はい!いっぱい作りましょう!」
静嘉パパと指切りをして約束した後、ぼくはリビングから出て歯磨きをしました。
それから、二階の自分の部屋に戻って、学校に行く為制服に着替えます。
ランドセルには、昨日テツヤお父さんと一緒に入れた今日使う教科書やお勉強の為のお道具が入ってます。
きちんと二人で確認したので、間違いありません。
ランドセルを持ってリビングに行くと、食器を洗う静嘉パパが居ました。
テツヤお父さんは洗面所にいるみたいで、僅かに水の音がします。
「静嘉パパ、準備が出来ました」
「はいよ。ブラシ持ってソファ座ってなー」
「了解です」
ぼくはぼく専用のブラシを持って、ソファに座りました。
ソファの空いた場所には、我が家の飼い猫、キセキ君が優雅に寛いでいます。
「キセキ君、おはようございます。紫晏君は一緒じゃないんですか?」
キセキ君は、視線だけをぼくに向けた後、ぱたりと尻尾を振りました。
すると、ソファの後ろから我が家の番犬、紫晏君が姿を表しました。
ぼくより大きい紫晏君は、ソファの背もたれだって楽々と越えられちゃいます。
「紫晏君、おはようございます」
わふっ
返事をするように吠えてくれた紫晏君は、大人しい犬種なのだそうです。
いつもぼくやキセキ君の面倒を見てくれるお兄さん犬です。
「紫晏、漸く起きてきたか」
「静嘉パパ」
「朝飯置いてあるから食べといで、紫晏」
わふ
尻尾を一振りしてから、紫晏君はダイニングテーブルのある方へ行きました。
きっと朝ご飯を食べに行ったのでしょう。
「さて。シヅヤ、こっちおいで」
「はい」
キセキ君と座っていたソファと反対にあるソファに胡座をかいた静嘉パパに呼ばれ、ぼくはそのお腹に抱き着きます。
静嘉パパはぼくを抱き留めたあと、軽々とぼくを抱き上げると胡座をした足の間に座らせました。
静嘉パパは力持ちなのです。
「じゃあ、今日もビシッと髪型決めてくかー」
「はい。ビシッと決めます」
ブラシくれ、と左手を出す静嘉パパの手に、ぼくはブラシをしっかりと渡します。
暫くすると静嘉パパがぼくの髪をブラシで梳き始めました。
ぼくの盛大な寝癖も、静嘉パパの手に掛かれば直ぐに大人しくなります。
静嘉パパの手は魔法の手なのです。
「静嘉君、シヅヤ君の準備は出来ましたか?」
「おー。バッチシだぜー」
「バッチシです」
髪をきちんと整えて貰い、静嘉パパに制服の身嗜みもチェックして貰った後、ぼくはテツヤお父さんと登校するのです。
テツヤお父さんは、ぼくが通う帝光小学校の近くにある帝光保育園で保父さんをしています。
だから、朝はいつも一緒に登校するのです。
「ちょいまち。テツヤ寝癖」
「え、何処ですか?」
「後ろの方」
「気付きませんでした」
「後ろは見えにくいしな。っと、よし。直ったな」
「ありがとうございます」
「いーえー」
テツヤお父さんの寝癖を直して、静嘉パパは満足そうにその髪にキスをしました。
途端に、テツヤお父さんは子供の前ですよと言いながら静嘉パパのお腹にイグナイトをしました。
涼太君みたいに吹き飛びませんでしたが、静嘉パパはその場に声もなく踞ってしまいました。
「テツヤ……これは酷い……」
「当然の報いです」
「シヅヤ、俺を慰めて……」
「でも、静嘉パパ。そろそろ家を出ないと、ぼくもテツヤお父さんも遅刻します」
「oh...Severe...」
追い撃ちの様に静嘉パパの頭の上にキセキ君が乗りました。
その顔は呆れているようにも見えます。
「キセキ、重い」
「シヅヤ君、そろそろ行きましょうか」
「はい」
ぼくとテツヤお父さんが靴を履いている間に、頭からキセキ君を退かした静嘉パパが玄関に来ました。
その腕にはキセキ君が抱かれ、足元には紫晏君がいます。
いつものお見送りの光景です。
「それでは、静嘉パパ、キセキ君、紫晏君。行ってきます」
「おー、気をつけて行ってこい」
「僕も行ってきますね」
「おう。シヅヤ頼むな」
「はい」
「じゃ、行ってらっしゃい」
静嘉パパは、朝の見送りの時に、ぼくとテツヤお父さんの頬っぺたにちゅーをしてくれます。
それから、道路まで一緒に出てくれて、ぼくたちが見えなくなるまで見送ってくれるのです。
これが、ぼくとぼくの家族の幸せな一日の始まりなのです。
(黒子親子は、近隣に住む火神二世と虹村二世も拾って、四人で登校します)
(因みに、平日の家事担当は静嘉で、休日はテツヤ(とシヅヤ)担当)