小説 | ナノ



【Je vous aime...】


今宵も大きな月だけがこの屋敷を見詰めています。窓からの月明かりだけを頼りに、独りピアノを奏でることだけが私の心の慰みになりましょう。
あの方に会えない夜の寂しさで旋律が乱れてしまっても、聴いている者はいないのですから。

「……なまえ」
「っ!」
不意に名前を呼ばれ、慌ててふりかえればそこには少し怯えた様子のあの方が。私の強い願いが幻になって表れたのではと思いました。

「…ルイージさん」
「良かった。ピアノの音がしたから、ここかなって思って」
彼の名前を口にした私の声は、少し震えていたのかもしれません。安心したように微笑んでくれるその優しい眼差しに、私の胸は痛むのでした。

「いらして下さったのですね…ありがとうございます」
「感謝なんてしないでいいんだよ。僕が来たくて来たんだから」
そう言ってピアノの近くにある椅子に腰を下ろすルイージさん。私は気のきいた台詞や、楽しい世間話などできないので、ただそっとその姿を見詰めるばかり。

どうすれば良いのでしょうか。貴方を思うだけでもこんなにも苦しい気持ちになるのです。
伝えることが許されない言葉を、懸命に押し留めるやるせなさ。

「今日は兄さんとチームを組んで乱闘したんだ」
「素敵ですね。お相手はどなた?」
「クッパとワリオだよ。もー二人とも僕ばっかり狙ってくるから参っちゃったよー」
「うふふっ、好かれている証拠ですよ」
「えぇ、嬉しくないなぁ…」
ルイージさんは、こうして私の所に来てたくさんの楽しいお話を聞かせて下さいます。いろいろな冒険をされた素晴らしい方です。
そう、とても優しくて、強くて、素敵な方。私なんかが想いを寄せるなんて、許されないのです。

「…なまえ?」
「え、あ…はい、なんでしょう?」
「いや、急に黙っちゃったから…。大丈夫?」
嗚呼、ルイージさんが私を心配していらっしゃる…。笑わなくては…。
頭の中ではわかっていても、悲しみに満ちた心では上手く笑えるはずもありません。なのに、私は涙を流すことさえできないのです。

「大丈夫ですよ。ごめんなさい。少し考えごとをしてしまって…」
「なら、いいんだけど…。あ、そうだ。明日の乱闘はここですることになってるんだ」
「あら、そうなんですか?」
「うん、またボロボロになっちゃうかもしれないけど…」
「構いませんよ。テレサたちの力ですぐ元に戻りますから」

そう、ここは貴方のお屋敷ですもの。私はそこに住まう亡霊。命無き者が恋をするなんて、本当に滑稽でしょう?
それなのに…動くことのない左胸が、貴方を思うとこんなにも苦しいのです。

「ルイージさんの勇姿を近くで見れるのを楽しみにしています」
「プレッシャーだなぁ。でも、頑張るからね!」
「はい」
力強い言葉と笑顔は、私には余りにも眩しいものです。微笑み返して、そっとピアノの鍵盤に指を落とし、奏でるはリストの名曲。

「綺麗な曲だね。なんて名前なの?」
「…【3つの夜想曲】、です」
問い掛けられ、少し躊躇った後に答えたのは副題の方。私にはそれが精一杯の表現でした。
暫くは無言が続き、私が指を止めた直後に彼は微笑んで仰ったのです。

「ねえなまえ、月が綺麗だよ」
「……ええ」
大きな月だけが光る空を見上げた彼の横顔を見て、もしかしたら私の想いは伝わっているのかもしれないと、そう思うことは愚かなことでしょうか?




13.11.08
3600番キリリク「ルイージ夢」
正式名は【愛の夢〜3つの夜想曲〜】です
いろいろと意味深すぎる話ですみません…

38 / 113
/

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -