小説 | ナノ



【悲鳴とか、涙とか、傷跡とか】
※狂愛注意



「――………」
「――………」
気まずい沈黙が、部屋を支配する。
先程までの華やかな印象など、すっかり忘れてしまったかのように。今ここにあるのは、言葉に窮する彼女と、苛立ちに燃える僕の存在。
ただ、それだけ。簡単な唯物論。

「なんなの、ほんと」
「っ、あれは…。だって、リンクも…酔ってたし……っ」
僕からの鋭い声に、目の前のなまえは怯えたように肩を震わせた。そして、必死に言い訳を探して視線を彷徨わせる。

酔っていた、だって。
そんなことで片付いてしまうの、君は。彼がやましい気持ち抱いてるなんて、きっと知りもしないんだろうな。残酷な人だから。

「酔ってれば、恋人の前で他の人とキスしてもいいと思ってるの?」
「っ…そんな…だから……」
まだアルコールの残っている瞳は、じんわりと涙に濡れている。そんななまえの無意識の誘惑に、悔しいくらい翻弄されている自分。

ああ、本当に悔しい。

そんな表情を他の人にも見られたと思うと、悔しくて堪らない。玩具を取られた子供みたいな、幼稚な独占欲だってわかっていても、心に燃える嫉妬の炎は治まることがない。


「わたしは…私が、すきなのは……マルスだけだよ…!」
「へえ。そんな言葉、簡単に信じられないよ」
「……じゃあ…どうすれば…っ!ん…!」
潤んだ瞳に見詰められ、耐え切れずに唇を奪った。
突然のことに驚いたなまえは、懸命に呼吸を確保しようとして抵抗する。もがく体は力も弱く、舌で追い詰めれば更に芯を失っていった。解放すれば、銀色の糸が二人の間を伝う。


「っや…や、だ!……っ」
「リンクとのキスは良いのに?僕とのキスは嫌なの?わがままだね」
硬い床に押し倒せば、恐怖で怯えながらも拒絶を繰り返すなまえ。
ますます、稚拙な嫉妬が音を立てて燃え上がる。暴れる彼女が、本当に僕を拒んでいるみたいで…無性に、腹が立った。

パンッ…!

「うるさいよ」
「……ッ…?!」
白い頬を平手で叩けば、何が起こったのかわからずになまえは目を丸くする。そして、次第に赤くなってくる頬を押さえて、ついには泣き出した。声を立てずに、ただ涙の丸い粒だけをポロポロと流して。
感情の追いついていない、そんな泣き方をするなまえを見るのは久し振りだ。普段は本当に優しく、いろいろな欲求を抑えて接しているからね。

「……ま、る…」
「おしおき、ね」
何かを言おうとした唇は、乱暴なキスで塞いだ。アルコールの匂いが直に脳に沁みるような感覚。

全てが麻痺していく、獣じみた夜。




13.10.08
いろいろすみません


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