小説 | ナノ
【Sweet Trick!】
「あ、いた。ウルフー」
「あ?」
廊下で探していた人を見つけた。普段通りの様子のウルフに、ワクワクしながらあの掛け声を。
「トリックオアトリート!」
「は?」
「だから、トリックオアトリートだよ」
「なんだそれ?」
はぐらかされている様子でもないところを見て、この人は純粋にこの風習を知らないのだと思った。
「ウルフ、ハロウィン知らないの?」
「あー?聞いたことねえよ、んなもん」
「この間マスターが食事の時に話してたじゃん、トリックオアトリートって言われたらお菓子をあげるのよ」
「右手が…?覚えてねえな」
「もー…」
ある程度予想してたけど、ここまでだとは…。そう言えば、フォックスもここにくるまではハロウィンなんて知らなかったって言ってたな。
「ダメだよそんなんじゃ!子どもたちにイタズラされちゃうよ?」
「なんでだよ」
「だって、トリックオアトリートだもの。お菓子くれなきゃイタズラするぞ!って意味なの」
「…なんだそりゃあ、俺に何の得もねえじゃねえか」
まあそりゃあね、ハロウィンなんて子どものためのイベントだもん。意味がわらないと眉を寄せるウルフに、私は苦笑。
「まあまあ、年に一度のことだからさ、今からでもお菓子買いに行ってきたら?子どもたちに襲撃されないようにさ」
「めんどくせえな……あ」
「ん?」
「テメェさっきそのトリなんとかって言ったよな?」
「え、うん。言ったけど…」
何か思いついた様子で、ウルフは私の方を見る。
確かに言ったけど、さっきのは予行練習みたいなもので…。大人組がちゃんとお菓子用意してるか、確認して回ってただけなんだけどな…。
「甘いもんなら持ってるぜ」
「ほんと?なら……っ?!!」
「受け取れや」
グイッと顔を引き寄せられて、唇を塞がれる。ただでさえビックリしたというのに、思いっきり舌を入れられて弄ばれる。
煙草の苦い味を感じて、それにさえ翻弄されてしまう。
「っ…ん、っ…!ふぁ…ッ」
逃げようとしたけど、体から見る見るうちに力が抜けてそれどころじゃない。気が付いたら、ウルフに縋って自分から舌を差し出していた。
長いキスで酸素が薄れ、視界が涙で歪む。ようやく開放されたころには、悔しいくらいにフラフラになってた。
「はぁ…う、るふ…っ……」
「甘かっただろ?」
「っ!」
このエロオヤジ…。こんなの全然トリートじゃないよ。
暴言を吐く元気もなく、ただぼんやりとその顔を見ていたら、ニヤリと笑った口が開く。
「欲しけりゃもっとやるぜ?」
「……うん」
【Trick or Treat!】魔法の言葉。
私は、お菓子のように甘い甘いイタズラをされました。
13.10.06
2000番キリリク「ウルフ甘夢」
遅くなってしまって申し訳ないです!
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