小説 | ナノ



【おいかけっこ】
※ヒロインは子どもファイター設定


最近、気になることがある。
この騒がしい屋敷の住人に、なまえというガキがいる。俺と同じ時期にここにやってきたらしい。
気になるってのは、そいつのことだ。

なまえはとにかく泣き虫で、それでいて好奇心旺盛。ガノンドロフのように近寄りがたい雰囲気の奴にも平気でひょこひょこついて行って、よせばいいのにちょっかい出して、怒鳴られては泣いている、そんな変な奴。
最初の頃、俺もその好奇心の標的だったわけだ。いつでもどこでも俺の後ろをちょこちょこ歩いてついてきて、何か用かと訊けば「なんでもないよ」と。
その存在が鬱陶しくて、何度も何度も怒鳴ったり吠えたりしてた。その度にピーピー泣いて、フォックスとかの所に逃げていく。何がしてぇんだよ。
まぁ、フォックスとか他の奴はなまえをベタベタに甘やかしてるからな。そういう奴らのところに行けばいいだろうがよ。

……そんなことが続いていたんだが。
ある日を境に、なまえが俺の側に寄ってくることがなくなった。それどころか、廊下とかで姿を見つけようもんなら、一目散に逃げていく。
今までのことを考えると、俺にはそれが謎でしかなかった。五月蝿い奴がいなくなって清々した、と思っていたのも数日で、今となっては苛々するようにさえなってしまった。

「ったく、意味わかんねぇ」
廊下を歩きながら、舌打ちと共に呟く。この気持ちが何というものなのかもわからず、ただ単に胸がもやもやする。別に、一人でいることは嫌いじゃない。騒がしいガキが減ったからって、何も思うことなんか……

「あ」
「っ!!」
噂をすれば何とかってやつか、曲がり角のところでなまえと鉢合わせになった。俺よりも頭二つ以上低いところにある顔が、一瞬にして強張ったのが見えた。

「あ、あう…」
「おい待て」
「っ!?」
この期に及んで逃げ出そうとするなまえに腹が立って、首根っこ掴んで小さい体を持ち上げた。ワタワタと暴れるのを無視して、顔を近付ける。

「テメェ、なんで逃げる」
「ッ、ふぇ?」
「ここ最近、ずっと俺から逃げてんだろ」
睨みつけて問い詰めれば、大きな目には涙が溜まってくる。俺は引かねえぞ、今日こそはコイツからちゃんと理由を聞き出してやる。

「…い、言うから、おろしてー…」
「ああ」
首苦しい!と訴えられて、とりあえず床に下ろしてやる。するとなまえは俯いて、小さな声で話し出した。

「だって…ウルフ、あたしのこと…きらいでしょ?」
「は?」
「だっ、て…こないだ…怒ってたから…だから…」
まさかコイツ…俺に何度も怒鳴られて、嫌われたって思ってたのか?それで俺から逃げるようになるって、極端すぎんだろ。

「…バカだな」
「うぅ〜…」
直球で言われて、また涙を滲ませるなまえ。ここでフォックスとかなら優しく慰めてやるんだろうが、生憎俺にはそういう芸当は無理なもんでな。

「別に、嫌いになんかなってねえよ」
「…ほん、と?」
爪で傷付けないように気を付けて、頭をワシワシと撫でる。俺にはこれが精一杯なんだ。ビクビク怯えてた様子が消えて、涙目のままこちらを見上げるなまえに一つ頷いてやる。

「じゃあ、そばにいてもいいの…?」
「好きにしろ」
なんか恋人同士のやり取りみたいになってんな。心の中で苦笑しながら、屈んで目尻に溜まった涙を指で拭ってやった。
すると、なまえの表情が見る見るうちに明るくなっていく。結局、こうやって笑ってるコイツの顔を見てるのは嫌じゃねえってことだ。
いつの間にか胸のモヤモヤは跡形もなく消えていた。立ち上がって歩き出す俺の後ろを、ぴょこぴょことなまえがついてくる。久しぶりだなこの感覚、悪くねえ。つか尻尾掴むな、くすぐってえだろ。

「ウルフー、ウルフー」
「なんだ」
「おやつ食べにいこー」
「俺は食わねえっての。まぁ…いいか」
クイクイと服を引っ張ってくる手を掴み、キッチンへと歩き出す。隣でなまえが歌う鼻歌に、自然と口角が上がっていた。

フォックスいわく、その日から俺はなまえのお気に入りNo.1になったらしい。




13.09.06
このロリコンどもめ!


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