小説 | ナノ



【涙を拭って、罪深いキスを。】
※ヒロインは悪魔設定
※腹黒注意


「嫌い、嫌いよ…」
何度も何度も呟く君の細い声は、その言葉を自分自身に言い聞かせているかのようだった。
大きな深紅の瞳は、僕を見詰めることをしない。膝を抱えて、そこに顔を埋めてまた一言「嫌い」と。

「私は貴方が嫌い…。だから、もう近付かないで…」
隣に立つ僕は、ただ何となくその様子を見下ろす。そう、まるで他人事。

「なまえ」
「――……」
「ねえ、なまえ」
「…名前呼ばないで」
そんなこと言われても、好きな人の名前を呼ばないなんてできるわけないじゃん。苦笑しても、なまえからは僕が見えてるわけじゃないからいいんだけどさ。

「僕は好きだよ、なまえのこと」
「っ、やめてよ…!私は…」
「ねえ」
「っい…!!」
顔を上げたところを逃さず、首に手を回して軽く絞める。苦痛で歪む顔が、怯えたように僕を見詰める。

「素直になればいいのに」
「ッ……な、に…!」
「認めなよ、僕のこと好きでしょ?」
「――〜!!」
息をしようとその唇が動く度に、指の下で骨が軋む感触。見開かれた瞳には、僕の笑顔が反射していた。それでも、鉤爪を立てて必死に抵抗してくる。
いいかげん窒息しちゃいそうだから手を離すと、急激に酸素が喉を流れたせいかなまえはゲホゲホと咳き込む。涙をたたえた苦しそうな表情に、この上ない愛しさを覚えた。

「だったらさ、」
「ッ!う、ぅ…」
「言いなよ、僕の顔ちゃんと見て、『ピットなんて嫌い』ってさ」
髪の毛を鷲掴みにして顔を上げさせ、顎を固定する。視線を反らすことは許さない、そんな気持ちをこめて、どこまでも真っ直ぐになまえを見詰めた。

「……あなた、っ…悪魔…より、たちがわるい…」
「天使はみんな優しいなんて誰が決めたの?ほら、早く」
最初は逃げようとバサバサ動いていた黒い羽根も、すっかり大人しくなってしまっている。さすがに、僕が開放する気持ちなんて持っていないと悟ったようだ。
悔しそうに歯噛みをする表情を見ては胸を支配する優越感。雪のように真っ白い色をした髪の毛にキスを落とすと、みるみるうちに頬が赤くなっていく。

「……ずるい…っ。私の立場、しってるくせに…」
白い睫毛が涙で濡れている。髪を掴んでいた手を放し、震える唇に触れた。僕の無言の催促に耐えかねたようで、小さな小さな声がそこから零れる。

「わ、たしは…ピットが…」

次に聞こえたのが『す』という文字だった瞬間、僕は勝利を確信した。
『嫌い』と言い続ける君と、『好き』と言い続ける僕の、我慢比べ。





13.09.02
ピット黒いwww


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