小説 | ナノ



【BLUE BIRD】


「ねぇファルコ、私ね、幸せを探しているの」
「幸せ?」
「うん」
よく晴れた日だった。ファルコにわがまま言って、アーウィンで湖畔に連れてきてもらった。ひとしきり自然を満喫して、持ってきたお弁当を食べて、柔らかい草の絨毯に寝転がって、そして今に至る。

「幸せって、なんなのかしら?」
「そんなの、人それぞれだろ」
「でも、『幸せ』って言葉がある以上、きっと全てに共通するものがあるはずなのよ」
ずっとずっと、小さな頃から探していたの。希望でも、愛でも、喜びでもない、幸せというものを。
いろんな世界を回った。いろんな人に会った。戦いも、死別も、絶望も、全て経験した。なのに、私にはわからなかった。

「お前は時々、わけわかんねぇこと考えてるな」
「じゃあ、ファルコにとって幸せって何?」
「あ?」
「さっき言ったじゃない、人それぞれだって」
たくさんの人から『幸せ』という言葉を聞いたけれど、そのどれもが私には馴染まないものばかりだった。それでも、いつか私にもわかる日がくるんじゃないかって、そう思って尋ねて回った。

「幸せねぇ…」
そう呟いて、ファルコは遠い遠い空の彼方へと視線を投げた。きっとファルコのことだもの、空にいる時が幸せ、とか言うんじゃないかな。

「じゃあ、考えながら聞いて?私ね、最近やっと少しだけわかった気がするのよ」
「何がだよ?」
「私にとっての、幸せ」
確信はないけれど、少しわかった気がする。今までに経験してきたどの感覚とも違う、温かい気持ち。

「それはね、いま」
「…いま?」
「そう、今」
まだ理解しかねるのか、目を細めるファルコ。首をかしげている彼に、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「気の合う仲間がいて、楽しく乱闘して、馬鹿みたいに笑い合って、たまに一緒に泣いたりして、それに……隣にはファルコがいてくれる」
「――…」
「幸せって、こういうことなのかなって、最近思えるようになったの」
少し気恥ずかしいけど、伝えたいことを伝えたらスッキリした気分。隣で寝転んでるファルコの顔は見えない。

「青い鳥のお話、知ってる?」
「童話のか?名前くらいなら」
「幸せの青い鳥を探していろんな世界を探し回った兄妹が、それを見つけたのはどこだったと思う?」
「…わかんねぇな」

「自分たちの家の、鳥かごの中なのよ」

そんなものなのかもしれない。幸せって、探しても探しても見つからなくて。自分の側にずっとあるものに、気付けた人だけが感じられるものなのかも。

「ファルコは私にとって幸せの青い鳥なのかもね」
「…くだんね。付き合ってらんねぇな」
不意に立ち上がって、「帰るぞ」と歩き出すファルコ。でも、その顔が赤くなってることは隠せてないのよ。

「待ってよファルコー、まだファルコにとっての幸せ聞いてない!」
「…同じに決まってんだろ」
「え?なんて言ったの?」
「秘密だ秘密!」
「えー!!」
後を追いかけながら、ぶーぶー文句を言う私。ごめんね、本当は全部聞こえてたんだ。でもそう言うとまた怒られそうだから、黙っておこうかな。

「ファルコ」
「あ?」
「今日はありがと!」
「…おう」
差し出された手を握って、並んで歩く。私に幸せを教えてくれた青い鳥さんは、きっとこれからもたくさんの幸せを気付かせてくれるんだろうね。




13.08.30
名前変換ないやん←



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