小説 | ナノ



【青いお空に恋をして】
※ヒロインは子どもファイター設定


「オリマー、笛かして!」
「…ああ、別に構わないが」
リビングに入った途端、目を輝かせたなまえからそんな頼みごと。別に断る理由もないので、笛を取り出して彼女に渡す。ありがとう!と笑って駆け出していく後ろ姿を見送って、ソファーに腰を下ろす。

「相変わらずだな、なまえのわがままは」
「…まぁ、子どものうちはたくさん遊ぶべきだろう」
先に来ていたファルコンが苦笑して声をかけてくる。しかし、私はなまえのことを煩わしく思ったことがないのが事実だ。ホコタテ星にいる子どもを思い出すからだろうか。
それに、私のような奇妙な(自分でいうのもなんだが…)者に好き好んで話し掛けてくるのは、なまえくらいだから。

「しかし、なまえはオリマーによく懐いているように思うぞ」
「…そうか?」
「少なくとも、大人組の中ではダントツだろう」
懐くという表現が的確なのかはわからないが、ドワーフ族でしかもまだ子どもななまえにとって、私が近しい存在なのだと思う。

「…なまえを探してこよう」
「恐らく中庭で遊んでいるはずだ」
「…ありがとう」
ファルコンに礼を言って中庭へ向かう。

するとそこでは、たくさんの色とりどりのピクミンを従えたなまえが駆け回っていた。紫ピクミンはついていくのが大変そうだ…。

「…なまえ、何をしているんだ?」
「あ、オリマー。今みんなの花を咲かせようと思って待ってるの」
なるほど、確かに全員つぼみなっている。そろそろ花が咲くだろう。なまえが立ち止まったのをいいことに、ピクミンは地面に寝そべって休憩しだした。

「…それにしても、よくここまで増やしたな」
「なんかね、笛吹いたらみんな集まってきてくれたの。あたしのこと覚えててくれてるのかな?」
「…きっとそうだろう」
「そっかぁ、嬉しいな……あ!!」
「…あ」
何かに気付いたなまえの視線を追えば、ピクミン全員の花が咲いていた。そして、一斉に歌い出したのだ。愛のうたを。

「うわぁ、ピクミンが歌ってる!」
「…100匹いたのか。私も聞くのは久し振りだな」
「知らなかったなぁ!」
「…まぁ、乱闘で100匹つれて歩くことはないからな…」
声を揃えて歌うピクミンに囲まれて、なまえはとても嬉しそうに笑った。しかし次の瞬間、少し寂しそうな顔で空を見上げるのだった。

「オリマーの家族はさ、ここからすっごく遠いところにいるんだよね?」
「…私だけでなく、ここにいる者たちは皆そうだろう」
「でもさ、マリオたちはずっと仲のいい人が近くにいるじゃない?」
「…それもそうか」
遠い、という価値観では測れない距離。家族や仲間と離れてここにやってきた私となまえの境遇は似ているのかもしれない。
急に静かになってしまったなまえを、ピクミンたちが心配そうに見つめている。唇を引き結んだその瞳には、うっすらと涙が溜まっている。

「オリマーは、寂しくないの?」
「……なまえ」
「あたしは………寂しいよ」
言われて、気付いたのだ。なまえはまだ子どもだ。家族や友人と離れて、たった一人でこの世界に飛び込んでくるには、不安もたくさんあったに違いない。いつも太陽のように明るく笑っているその裏で、人知れず涙を流していたのだろう。
そんな少女に私が何を言ってやるべきなのか、じっと考えてから口を開く。

「…私は、寂しくはないぞ」
「そうなの…?」
「私に毎日話し掛けてくる、娘のような存在がいてくれるからな」
「!」
目を丸くして声を飲むなまえ。近付いて、グローブを外した手で目尻に溜まっている涙を拭ってやる。やはりこの子には、涙などという悲しげなものは似合わないのだ。

「…寂しいのなら、いつでも来るといい。私も、ピクミンたちも、いつでも遊び相手になろう」
「…オリマー…」
「だから、泣くのはよしなさい」
「…うん」
「いい子だ」
私と同じ高さにある頭を撫でたら、なまえは自分でゴシゴシと目を擦った後にニコリと笑った。止まっていたピクミンの歌が、また始まる。
ゆらゆらと揺れる花に囲まれて、なまえが見上げる空。青天井の彼方に、なまえが懐かしむ場所があるのだろう。恋い焦がれるようなその視線が、いつかこの世界そのものに向けられればいいと、そう願ったのは私だけではないと思いたい。




13.08.22
途中から私が迷子


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