小説 | ナノ



【GIRL or LADY?】
※ヒロインはファイター設定


目が覚めたらアイツが、なまえがいなかった。
煙草に手を伸ばしたら、ライターごとどこかに消えていることを発見して舌打ち。
「めんどくせぇヤツだな…」
上手く働かない頭を掻いて、仕方なく廊下に出た。さっきまで俺の下で泣き喚いていたガキを探すことにする。


「おい、タバコ返せ」
「ああ、はい」
結局、屋上でなまえを見つけた。声を掛けると、こちらを見ないままタバコとライターが放られる。黙ってタバコを吹かすその横顔はいつもと何ら変わっていないのに、月の光に照らされているせいか、青白く見えた。

「…後悔してんのか」
「何が?後悔してんのはそっちでしょ?」
呟く俺に、乾いた笑い声。タバコの先から立ち上る紫煙は、音もなく夜空に消えていく。

「私は別に後悔してないよ。だって、望んだのは私だしね」
「……そうかよ」
少し乱れた髪を手で掻き上げる仕草はけだるそうで、なんだか別人のようだ。いつもガキだガキだと馬鹿にしていた奴はそこにはいなくて、俺は閉口してしまう。

「…嬉しかったんだよ」
「あ?」
「たとえ一瞬でも、ウルフを独占できたことが、さ」
そう言って手を月にかざすなまえ。月明かりで血管が透けている。まるで、このまま夜に溶けてしまいそうな儚さを目の当たりにして、無意識に体が動いた。

「忘れてもいいよ、今日のこと。私の自己満足だから」
「ガキが強がってんじゃねぇよ」
「……っ、ん…!?」
似合いもしねえタバコを奪い取って、呼吸を塞ぐ。目尻がまだ火照って赤くなっているのを見た時に、少しだけ体が疼いた。ゆっくりと唇を離し、細い体を腕の中に閉じ込める。

「思ってもいねぇこと言ってねぇで、さっさと素直になったらどうだ?」
「だって……ウルフにとって、私は子どもでしょ…?」
甘えるような動作で頭を擦りつけられて、髪の毛がくすぐったい。こちらを伺う視線を捉えれば、少し切なそうに瞳を細めた。コイツ、こんな顔もできるのか。

「そうだな。ガキは苦手だが、気が向いたらまた相手してやってもいいぞ」
「忘れないで、いてくれるの?」
「そりゃお前次第だろ」
「なら、もっと貴方好みの『女』にならないとね」
そう言うとなまえは腕をすり抜けて、月を背に柔らかく微笑んだ。一気に吸い込んだタバコの煙のせいか、目眩に似た感覚。

「さて、もう寝るわ。誰かさんのせいで腰が痛いし」
「テメェが誘ったんだろ」
「あんなに激しいとは思ってなかったのよ。満月の夜に狼さんに声をかけたのはまずかったかしら」
「この場で取って食うぞ」
「こわいこわい。ガキは苦手、なんでしょ?」

悪戯めかして微笑んだ次の瞬間、なまえは俺の目の前から消えていた。残された月を見上げ、苦いフィルターを噛み締める。

「…だからガキは、」
タバコを揉み消しながら、ぼそりと吐き捨てる。これじゃあ俺が惚れ込んでるみてぇじゃねえか。
少しずつ捻れてくる思考回路。答えの見えないそれを振り払うかのように、屋上を後にする。

背中で大きな月が笑った声が聞こえた。




13.08.16
大人な話を書こうとして撃沈


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