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 ピンポーン、とチャイムが鳴る。僕はまともにお風呂にも入っていないから汚くてくさいのが恥ずかしくて、弟を出させた。
 陰からこっそり見る。お客さんは、若い男の人だった。男の人は弟に何かを聞いて、弟が僕の方を見た。
 仕方ないので、僕も弟の横に行く。
 男の人は少し、戸惑ったように笑顔を向けた。
「えっと、隣に引っ越してきた赤崎(アカサキ)って言います。よろしくお願いします」
 みすぼらしい僕と弟に丁寧に挨拶をする赤崎さん。僕がよろしくお願いします、と頭を下げると、弟も真似をした。赤崎さんはそれを見て、にこにこと笑った。
 悪い人ではなさそう。
「……あの、お父さんかお母さん、いるかな?」
 赤崎さんが聞いてきたので、僕は一瞬だけ迷って、首を振った。
「お母さんは病気で死にました。お父さんは今いません」
「そっか……あ、ちょっと、ちょっと待ってて!」
 赤崎さんはなにかを思い出したように、隣の赤崎さんの家へ走った。僕と弟はぼーっと待っていると、赤崎さんは何か箱を持ってきた。
「あの、これお隣のよしみで……よかったら食べて?ね?」
 赤崎さんが箱を持ってきた。あまりにも重くて、僕は持てないので床に置いてもらう。綺麗に包装されててよくわからなかったけど、赤崎さんの言葉から食べ物だということがうかがえる。
 食べられるものなら、なんでも嬉しい。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
 僕がお礼を言うと、弟も真似をした。
「偉いね」
 赤崎さんは僕と弟の頭を撫でる。子供が好きなんだろうか、赤崎さんの笑顔を見てるとなんだかすごく、ほっとする気がした。
「それじゃあ……なにかあったら、あの、なんでも言ってね!だいたい家にいるから……ね!」


 箱を開けると、フルーツの缶詰がたくさん入っていた。食器棚を探し回って見つけた缶切りで、さっそくひとつ開けて食べる。
 桃の缶詰を、汁まで残さず二人で食べた。
 美味しかった。

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