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「アカセ」
 眼が覚めるとキスをされる。外は炭酸にイチゴのシロップを流し込んだような空で、まだらの赤に時折星雨の粒が弾けていた。
 星雨は日中に見られる星の雨で、空で弾けては消える。
 幻想的な世界を背景に交わすキスは官能的で身体の奥がフツフツと熱くなった。
「今日は街に宝石を売りに行くから」
 長いキスを終えて顔を洗っていると、大きなマントを羽織るシエン。僕はお留守番かな、と思っているとマントの中に抱き寄せられた。
「俺に掴まっていて、決して離れてはいけない」
 吸い寄せられるように、僕はシエンの背中に手を回して抱きついた。マントの下は上半身裸のシエンで、熱が直接感じられてドキドキする。
 そんな僕をよそに、シエンは左足で地面に円を描き、トントンと二回足踏みした。
 そして円のフチが青白く光、風が吹き上がる。マントを翻し、優しい熱が僕たちを包んだ。
 円の中が明るく光ると、ぼんやりと浮かび上がるものがあった。それはどこからどう見ても箒で、シエンがそれに跨るから僕も箒の柄に座った。
 トン、と地面を蹴るシエン。その軽い仕草とは裏腹に、箒は一気に加速した。
 僕たちは空を飛んでいた。

 僕はシエンに抱きついているから、殆ど仰向けのような体勢だった。
 空は、今は乳白色と混ざってピンク色になっていた。
 そんな中で遠くを見据えるようなシエンの表情は美しく、長い髪がたなびくさまも相まって絵画のようだった。
「シエン自身は飛ぶことは出来ないの?」
 ドラゴンが箒で飛ぶのはなんだか不思議だった。この世界では平凡なことなのかもしれないけれど。
「いや、できる。ただ俺の力で飛べば、速すぎてアカセは死んでしまうからな」
 なんとなくシエンに抱きつく腕に力が入ってしまった。
「僕のためなんだね。ありがとう」
「……」
 シエンは無言で僕にキスをした。珍しく照れているのかもしれない。
「しっかり掴まって」
「え……ひやぁっっ」
 言った直後から急下降する。かと思えば回転しながら上昇した。垂直にぐんぐんと上昇して、空の真ん中で止まる。
 突然のアクロバット飛行だった。目まぐるしく世界は周り、空と地上の鮮やかな色は万華鏡みたいだった。
 けれども僕は耐えきれず、うっかり手を離してしまった。
「あ……」
 遥か上空からの落下。遠ざかるシエン。僕はこの世界に溶けていく。

 ガシッ!
「うぐっ」
「あまり怖がっていないな」
 しばらく落下したところで、シエンに抱きとめられた。
「いや、いや、結構ドキドキしたよ」
 怖くなかったと言えば怖くなかった。
 何故だろう?二度目だから?シエンが受け止めてくれると思ったから。
「ああ、たしかに」
「んあっ……」
 そろりと、股間部分を撫でられる。じわりと濡れたそこに、ぽこぽこと宝石が生まれているのがわかった。シエンの手が揺さぶって、痛気持ちいい。
「街に行ったら服も買おう」
「是非そうしてください……」

to be continued...


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