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 ぼすん、と言う崖から落ちたにしては優しい衝撃があった。
 それからヒソヒソと囁く声が聞こえる。けれど、なにを言っているのかよくわからなかった。
 僕はついに死んだのか。
 目を開けて息を呑んだ。どこまでも広がる景色は、生まれて初めての感覚だった。
 上にある深い深い青は海の底を覗くようだった。透明でその先は暗く、でも明るい。
 風が吹き抜けるのはよく知ったものだったが、遠くで風にざわめく木々は鮮やかな光を零していた。
 それはやはり、深い青に飲み込まれて消えていく。
 どこか儚い世界だと思った。
 ここは、僕がいた世界とはきっと別のどこかなのだろう。ほんの僅かの違いが大きな違和感となり、「別の世界だ」と思うと腑に落ちた。
 まるで漫画や流行りのライトノベルのように、僕はどうやら異世界へと飛ばされたらしい。

「     」
「え?」
 不意に覗き込んだ瞳が、夕日のような赤だと思った。
 緑色の短い髪。瞳の色以外は感情が無いみたいな表情。美しくも、精悍な顔つきをしたその人は僕の顔をじっと覗き込み、口を開いた。
「    」
「なに?」
「、か、わかるか」
「あ、わかる……」
 彼は何度か口を動かした。最初はそれを音として認識できなかったからなにを言っているのかわからなかった。
 けれど、何度か繰り返して彼は僕のよく知っている言葉を喋り始めた。
「お前は贄として召喚された。俺の、//を採取するために」
「え、なに?」
 聞きなれない言葉が混じるとすぐに認識できなくなる。彼はいくつか言葉を繰り返して、僕の認識出来る言葉を選んだ。
「pipi、小水、おしっこ」
「え」
「俺は龍だから、体液は全てカネになる」
「は」
 じゃあ涙とかでもいいのでは?
 思った時には、僕の手は彼の性器を握らされていた。生あたたかい液体が手の中に広がり、そしてそれはホロホロ、モロモロと固まって崩れて宝石になった。
「なん……え……」
 色々突っ込みたいところだが、僕の手の中に放尿する自称ドラゴンの恍惚とした表情と、レモンゼリーのように薄いイエローがキラキラと透き通る宝石のギャップに頭がクラクラした。

to be continued...


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