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「あの……」
 ある日、僕は不安が口から吐き出されるのを感じた。胸の嫌なドキドキが喉からせり上げて押し出されたようだった。
「うん」
 衛士さんはいつものように背中を撫でてくれる。ここ数日眠れない僕を、心配そうにしながら。
「きょ、今日は、泊まって、くれないですか」
 きゅうっ、と胸が苦しくなった。断られたらどうしよう、嫌われたらどうしよう、もう二度と現れてくれなかったら、どうしよう。
 根拠のない不安が積もりに積もって、今口にした事さえ後悔した。どんな答えが来るかもわからないのに、言わなければよかったと、そう思えて仕方なかった。
 不安で、衛士さんの服がしわくちゃになるほど握りしめた。今にも衛士さんが消えてしまうように思えたから。
「……いいよ」
 少し間を置いて答えた衛士さんの言葉に、僕はパアッと世界が明るくなるのを感じた。
 いいの?本当に?
 俯いていた顔を上げると、衛士さんは微笑んだ。
「今夜は一緒にいてあげる」
 僕はその言葉だけで十分だった。



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