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夜になっても衛士さんがいるのは不思議な感覚だった。
二人でベッドに入り、向き合って横になる。電気を消しても、窓から入る月明かりが優しく照らし、衛士さんのいつもの微笑みが僕を見つめた。
衛士さんの腕枕、もう一方の手で頬に触れる。その手に手を重ねた。
いつもの、不安のドキドキとは違う。昼間に感じるドキドキともどこか違う。
優しくて、幸せなドキドキを感じた。
「僕、衛士さんは本当はいないんじゃないかって、ずっと思ってて」
言うつもりはなかったのに、今なら許される気がして、僕は不安を口に出した。衛士さんはなにも言わず見つめて、聞いてくれる。
「ずっと、ずっと寂しかったから、僕が作り出した幻じゃないかって、思って」
僕に触れる衛士さんの手は温かい。いつも寄り添う胸の鼓動は確かにあって。それでも、それすらも幻じゃないかと時折思ってしまう。
「そしたら、いつか衛士さんがいなくなったらと思うと、前よりずっとずっと寂しくて、不安で、悲しくなった」
今だって目の前にいるのに、また少し悲しくなった。
一人ぽつんと寂しく死んでいくのと、衛士さんを思って寂しく死んでいくのと、どっちが寂しいだろう。
胸が苦しくて、衛士さんと出会わなければよかったと思うときもあった。
けれど、今はただ、衛士さんの事だけを思っていたかった。衛士さんとまだ、一緒に過ごしていたかった。
何もないまま生きているくらいなら早く死んでしまいたかったのに、今はまだ、もう少し、生きていたかった。
「え、衛士さんと、ずっと……一緒にいたいって、思ったらダメかな……」
怖くて目をつぶった。目をつぶると衛士さんは消えてしまうのでは、そう思って、衛士さんの服をぎゅっと掴んだ。
どこにもいかないで、ずっとここにいて、夢や幻なんかじゃないと、信じさせて。
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