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 ベッドに寝転がるより起き上がっている方が楽だった。そういう理由で、僕は男の膝の上に跨り、男の胸に抱きつくように身体を預けた。
 前にも聞いた心音が心地よく、今にも眠れそうだった。
「……あなたは、誰なんですか」
「佐々倉衛士(ササクラエイシ)。君の新しいお医者さん」
「……」
 驚いて顔を上げると、衛士さんはやっぱりにっこり笑う。
「治るの?」
 僕の問いには答えないで、ただ頭を撫でられる。
 別に、治らないでも構わなかった。ずっと付き合ってきたこの病だから、諦めはついていた。
 でも、それならば何故僕のところに来たのか。
「君が少しでも、楽になるように」
 衛士さんが撫でる手を感じながら目を瞑る。
 それなら簡単だ。僕は最近あまり、咳をしていない。衛士さんの側にいると、咳は不思議と治った。
 でも、だったら、衛士さんは僕の側に一生付き添ってくれなくてはならない。
 僕の身体が本当に治ったら、衛士さんが僕の側に居てくれる理由はなくなる。
「んっ……けほ、」
 そんな矛盾に胸が苦しくなって、咳が出る。するとすぐに衛士さんは背中を撫でてくれた。
 すうっと胸が軽くなるようだった。衛士さんの手は温かくて、触れるだけで僕は身体が楽になるのを感じる。
 不思議な手だった。手だけじゃない。衛士さんの、声も、視線も、纏う空気も。全てが穏やかで、側にいてくれるだけで僕は心が落ち着くのを感じた。



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