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 ああ、今日はダメだ。気分が落ちていく一方。そのまま意識も落ちてしまえ。
「けほ、けほ……っ」
 僕はびっくりして目を見開いた。背中に誰か手を触れたからだ。誰もいなかったのに、どうしてか、目の前には1人の男がいた。
「ごめん、びっくりさせた?辛そうだったから」
 男はぱっと手を上げて、もう触らないよ、とアピールした。
「う、うん、びっくり……しただけ……」
「あ、大丈夫?」
 男を慌てさせてしまったのは、僕が泣き出してしまったからだ。
 だって、どうしよう。僕、人と話したのはすごい久しぶりで。
 たったそれだけのことが嬉しくて仕方ないんだ。
「ご、ごめん、ね……けほけほ、っひゅ、」
 泣き止まなくちゃ、そう思うと苦しくなって咳まで出てしまう。
 すると、男は僕の身体を起こして抱きしめた。
「うんうん、いいから君は泣いてなよ。抱きしめててあげるから」
 なにがどうしてそうなるのか、会話がいまいち噛み合っていない気がした。
 けれども、抱きしめられて、背中を優しく手が撫でてくれる。男の腕の中は温かく、とくんとくんと脈打つ心臓の音が心地よい。
「ね?大丈夫だよ」
 ますます涙が出てしまうけれど、咳は不思議と治った。僕は泣きながら男に縋り付いて、いつの間にか眠りに落ちる。



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