咳をしてもひとり、ふたり


「けほっ、けほけほ」
 誰もいない家、静まり返った部屋の中で、ひとりぽつんと咳をした。
 産まれた時から身体が弱く、出歩く事も遊ぶこともなく、ただ生きてきた。
 うつる病気ではないけれど、治る病気でもないから、僕はただこの部屋で咳をしながら、ひとりぽつんと死んでいくんだ。
「けほ……」
 ぽすん、布団に横になって目を瞑る。
 ただ生かされているだけの僕に、なにか意味はあるのだろうか。
 今日は一際寂しくなって、目端から雫が垂れるのを感じた。ひとりが寂しくて泣くのなんて、いつぶりだろう。
 小学生のときはまだ元気で、学校にも通っていた。けれど高学年になる頃には休みがちになり、ついには学校に行けなくなった。
 ずっと一人でここにいる。この部屋は誰もいない、なんの音も聞こえない。僕は本当はどこにもいないんじゃないかと、そう思えて、寂しくて仕方なかった。
 泣いたってひとりだと気付いてからは、泣くこともなくなったけれど。



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