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ちょっと吐き出す物語


▽二十代最期のクリスマスにサンタコスしたら好きな人に抱かれた
 ハッと目を覚まして恐る恐る横を見る。可愛い寝顔を晒すその人に、夢だけど夢じゃなかった的な感動と悲しみがこみ上げた。
 おれが住むアパート、隣の部屋の須藤くんに今朝方オナホ扱いされてケツを食われた訳ですが。
 何がどうしてこうなったのか、ああ、ああそうですよ、どうせおれが悪いんですよ。

 何が悲しくて独り身の男同士が集まってクリスマスパーティーなんかしなくちゃならないんだ。どうせおれはゲイだし、好きな相手はノンケだし。ヤケになって酒を煽って、誰が持ってきたのかミニスカサンタコスをさせられて。
 酔って騒いでの宴会を、ふらふらの足取りで帰宅したクリスマスの朝。着てたものも荷物も全部飲み屋に置いてきて、鍵も無く部屋のドアが開かないし、もういいよとその場で眠りこけた。
 のが運の尽き。いや、運が良かったのかなんなのか。
「そうか、サンタはいたのか」
 なんて言葉を夢うつつに聞いていたかと思えば、ひっそり恋していた隣に住む須藤くんがおれを部屋に連れ込んだ。
 サンタっておれのこと?なんだ可愛いじゃん、なんて思っていると手足を拘束され、気が付けば身体をまさぐられ……。

「意外に野獣……」
 眠る表情は安らかで、いっそ可愛いくらいなのに。執拗にイかされ、中出しされ、そんな情事を思い出すと赤面した。
 それでも、チラリと顔を見ると、やっぱりおれの好みの顔なのだ。
 須藤くんはバイトの時間が深夜帯らしく、活動時間が違うから顔を合わせる事は滅多になかった。ちゃんと顔を合わしたのも、おれがここに越してきて挨拶した時くらいだ。無愛想ながらも整った顔、声、筋肉、それら全部がおれの好みドンピシャで、言うなれば一目惚れ。でも相手は当然ノンケなわけで、毎晩薄い壁越しに聞こえる生活音を聴きながらひっそり思い続けるだけの日々だった。
「ん……」
「あ……」
 小さく呻いて目を覚ます、須藤くんとバチリと目が合った。
「どうした、腹痛いか。中出ししたの、奥のは取れなかったか」
「あ、いや、それは大丈夫……ありがとう」
 さす、と布団の中で須藤くんの手がおれの横っ腹を撫でた。
 なんだよ気遣いが紳士じゃないか。思わず惚れそうになる。いや、すでに惚れている。
「よかった」
 眠いのか、須藤くんは目をつぶりながら小さく微笑む。可愛い、なんてときめいたおれの身体を力強く抱き寄せ、身体がぴとりと密着する。
「す、須藤くん……?」
 おれの戸惑いなんてよそに、彼はすでに寝息を立てていた。
 ああ、なんてこった、きっかけはどうあれ、こんな現状天国から抜け出せるわけがない。
 おれもそっと須藤くんの背中に腕を回し、寝息に誘われるまま二度寝した。

 再び目が覚めると隣に須藤くんは居なくて、なんだよ結局夢か、いや待て、このベッドはおれのじゃない。なんて考えているといい匂いがしてくる。
「起きたか、飯食う?」
「あ、うん」
 キッチンから茶碗を持って須藤くんが言った。小さいテーブルには焼いた肉や唐揚げ、サラダが置いてあって随分地味な色合いだったが美味しそうな匂いが食欲を誘った。
「あっ?! うわ、おれ裸」
 ベッドから出ようとして、自分がまだ裸だった事に気付いた。慌てて毛布を羽織ると、おれの分の茶碗と箸を持ってきてくれた須藤くんと目が合う。
「この部屋そんな寒くないだろ」
「そういう問題じゃなくて……服借りてもいいですか」
「無い」
 無いってなに?呆気にとられたおれをそのままに、須藤くんはテーブルの前に座り、いただきますと手を合わせた。
 え、おれこのままなの?と聞き返す隙さえ見せない須藤くん。テレビをつけて唐揚げを頬張り、何事も無いかのように過ごしている。
 なんか……なんかもういいか。
 毛布にくるまって恥じらっているのが馬鹿らしくなったおれは、ふうとため息をついて、裸のままテーブルの前に座る。うう、モロ出しで飯って落ち着かない。
 正座してもあぐらをかいてもどうにも居心地が悪い。
「あの、パンツくらい借りたい」
 裸族じゃ無いし。おれがそう申し出ると、須藤くんは立ち上がり風呂場へ。そして小さな布切れを手に戻ってくる。
「これ、昨日きみが穿いてたやつ」
 目の前にぺろんと出されたのは、サンタコスをした時にヤケクソで穿いた、真っ赤なビキニパンツだった。顔が熱くなるのを感じたが、須藤くんが真顔なので、おれも平静を装ってパンツを受け取り、その場で穿いた。
 おれなにしてんだろう、クリスマスだってのに。
 昨日穿いた時から思っていたが、案の定小さくて大事なところがはみ出てしまう。
「その格好すごくいいよ」
 と、須藤くんが胡散臭いセリフを言う。
「須藤くんて変態なんだね」
「俺の名前知ってるんだ」
「えっ?! あの、おれお隣さんなんだけど」
「ふうん」
 ふうん、って。とても興味なさそうな反応に少なからず落ち込んだ。仮にも片思いしてきた相手に認知すらされてなかったとは。
「ちょうどいいな。これからもよろしく、オナホくん」
「おっ、おれはオナホじゃない」
 とは言え、悪くない関係なのでは。
 まあクリスマスだし、少しは浮かれていいんじゃないか。なんて。

終わり


2017/12/24 23:49


▽もう三十路になるしサンタとか信じてないけど敢えて欲しいものをお願いするならオナホ
 もう今年で三十路に突入するし、サンタなんか25年前にはその存在は嘘なのだと悟ったし、プレゼント贈り合う相手もいないし、ぶっちゃけ物欲も失せてきてるくらいで、敢えて欲しい物を上げるならば新しいオナホが欲しい。
 そんなクリスマスの朝、警備の夜勤仕事から朝帰りした俺の部屋の前に、所謂サンタコス的に真っ赤なミニスカからビキニパンツとタマキンがはみ出てる男が眠っていた。
 そうか、サンタは実在して、これが俺へのクリスマスプレゼントなのだろう。

「いやいやいや、君の発想怖いなあ、怖いよお」
 サンタからのプレゼント、もとい、俺の新しいオナホ君は声を上げた。この間見た漫才の突っ込みって感じに良い声を上げている。まあ、お前は俺に突っ込まれるわけだけど。
「え、ねえ、なんか言って? もしくはこの縄はずして? ねえ? ねえってば?」
 最近じゃ機械が喋るのは当たり前の世の中だ。世間様じゃ、オッケーヤホーとかなんとか言えば、家電が喋って動くらしい。
「よく喋るオナホだな」
「オナホじゃないから! オナホじゃないからっ!! っひあっ?!」
 大事なことなのでなんとやら?ベッドの上で後ろ手に拘束され、M字開脚するよわう足をベルトで固定されても尚活きのいいオナホのビキニパンツの上にとろりとローションをかけると、面白いくらい大袈裟に体を跳ねさせる。
「温感ローションなかったからな。今、あっためてやるよ」
「う、あ、あ、ま、って、待って」
 ぬるりとした感触を楽しむように、手のひらで股間全体を撫で上げる。細いパンツからにゅるっとキンタマが顔を出したから、揉みしだくと吐息をこぼした。
「キンタマ揉まれるの好き?」
「んあ、あ、」
 オナホくんは声を震わせた。キンタマを揉みながら、ビキニ越しにちんこの先を撫でると目を潤ませて見つめてくる。あー、いいなあ、中々可愛いじゃないか。オナホのパッケージできつきつま○この○○ちゃんとか奇跡の○女穴××子とか見るけど、その比じゃないくらい興奮した。
「ちんこ硬くなってんね。気持ちいいなら声出しなよ、盛り上がるから」
「んああっ、ああっ、やめろっ、ああっ」
 キンタマと反対側から竿を出して握って扱くと、オナホくんは仰け反り頭を枕に押し付ける。感度いいなあ、なんて思ったら、遊びで買った感度の良くなるローションを使っていたらしい。こんなもんプラセボ効果だと馬鹿にしてたけど中々効果は絶大だ。
「アアッ!! あ……なっんで、」
「オナホなのに俺より先にイくのはおかしいだろ? 今後ろにもローション入れるからな」
「うあ……あ、うそだろ……うそ……」
「ほんと」
 オナホくんがイきそうになったから手を離して、少し治ったのを見てからペースを落として扱いてやる。あからさまに物足りない、イきたいって顔を晒すオナホくんの、ビキニパンツをずらして穴を露出させる。
「オナホじゃない……」
 ここまできても諦めきれないオナホくんらしい。ローションを追加して、後ろの穴に中指の腹を当てた。
「オナホじゃなくてもいいよ、穴ならなんでも」
 ぬぷっ、たいした抵抗もなく中指は飲み込まれた。

「ああ……あ……もうや、だ、もうやだあ」
「ケツ穴ぬるぬるになったな。指三本咥えてどんな気持ち?」
「クソ野郎……イきたい……」
 処女のケツ穴を指三本まで拡張されながらも、ゆるゆふ扱いてきたちんこは萎えないままだった。挙げ句、吹っ切れてイきたいとか言い出す様に、俺は興奮した。
「いいよ、イけんじゃね? ほら、ケツだけでイってみ」
「んあ、なん、あっ、あっ、」
 ちんこをきつめに扱きながら、オナホくんの前立腺がありそうなところを指で押した。内からの快楽を徐々に感じ始めたのだろう、眉間にしわを寄せて情けない顔をしている。
「お前才能あるよ」
「な、んの、」
 なんのって、そんなの。
「オナホの」
「っっっあっあああっ、やめ、っだ」
 前立腺を突き上げて絞り出すようにちんこを下から上へ扱くと、オナホくんの身体は弓のように弧を描いて背をのけぞらせた。イったな、こいつ軽くイってる。
 犯すなら今。
 ぐちゅ。
「う、あ……だめ、だめ……」
「初貫通で中イきとか、最高に可愛いじゃん」
 亀頭を難なく飲み込んだ入り口の浅いところを一周くるりと撫でるようにして、そのままゆっくり深く入っていく。
 本当にイってるらしい中はいやらしく絡みついて熱い。オナホくんは目を見開いて目端から涙をこぼしていた。
「ほら、奥まで入った。初めてのちんこ、気持ちいい?」
「ん、あ、」
 ちんこ、と言われて、自分と同じものでケツ穴を犯されてると意識したんだろう。中がキュッと締め付けて、俺の形を確かめているようだった。
「はは、相性いいかも」
 このオナホ。

 抜かずに三回、奥に出した。ちんこを可愛がってあげたからイき過ぎて出すものが無くなったオナホくんは空イきして意識を飛ばしてしまう。
 物は大事に扱う方の俺なので、風呂場に連れて行き中を綺麗にして、それから再びベッドで二人横になる。
 うーん、オナホなんて適当な事言って行きずりの男をレイプしたわけだけど。まあクリなんちゃらとかいうハッピーな日なんだし、気にすんのも野暮か。

終わり


2017/12/23 20:09


▽にょ。
『お前ってなに考えてるかわかんなくてこえーよ』
 と仲間内で言われたかわいそうな一進(イッシン)くんは今、俺のベッドの上で涙を流している。
「俺にはわかるよ、一進くんの気持ち」
 茶色に染められた、少し傷んだ髪を撫でる。左耳のピアスがカチャリと揺れて鳴った。
「ちんこの穴、気持ちいいんだよな、一進くん」
 一進くんは俺のベッドの上で涙を流している。腕は後ろ手に縛り、足はそれぞれ膝で曲げた状態にして縛ってあり、はだけさせたワイシャツから覗く胸は呼吸で大きく上下している。
 前を寛げたズボン、その下のパンツ穴から露出させた性器の小さな穴には、禍々しいステンレス製の棒が突き刺さっていた。その直径は20mmにまで及び、散々時間をかけて慣らしたお陰で痛みよりも快楽が勝っているようだ。
「ああああっあっんあっ」
 ズルリと引き抜くと、一進くんは目を細めて声を上げた。上擦って掠れた、甘く切ない声に俺の下半身もズクンと疼く。
「前立腺グリグリしような」
「うっんっんああああっ」
 棒をまた奥まで突き立ててあげれば、一進くんは仰け反り喘いだ。
「ひいっい、あーーっ、あーーーっっ」
 腰を浮かして強烈な快感に咽び泣いている。突き出した胸の飾りがいやらしく主張するから、俺はぺろりと舐め上げた。
「ひいいっあっあっあっあ」
 胸の刺激にビクンと身体を跳ねさせると、腰を振って痙攣した。どうやら出さないでイったらしく、よだれと涙で濡れた一進くんは身体を弛緩させた。
「気持ち良かった? 一進くん。俺がもっと気持ち良くしてあげる」
 少し縮こまってしまった一進くんの性器を撫でながら、俺はベッド横の引き出しに入れていた器具を取り出した。コンセントに電源を刺す時に目に入ったのだろう。一進くんは目を見開いて、口をパクパクとさせる。
「何度イってもいいからね」
「や……まっ、て……」
 カチン、ビイイイイイン。
「ああっおあああああっあひいいっひいいっ」
 電気マッサージ器のスイッチを入れて、一進くんの性器からはみ出した棒に横から押し当てる。手では決して作れない高速振動が、一進くんの中を責め立てる。
「ああああっああああっ」
 腰を突き上げて仰け反り、弛緩して、また喘ぐ。時折性器や陰嚢をマッサージ器で撫でてやると、それも気持ちよさそうに喘いだ。
 けれど、一番好きなのはやはり尿道を責められる事らしい。棒にマッサージ器を押し当てながら、性器をぎゅっと握ってあげた。より強く尿道内を振動が襲う。
「ああああ……ああ……」
 視線が俺に飛んでくる。子供みたいに泣きじゃくって、一進くんが俺を求めていた。
「可愛いよ、一進くん」
 キスすると、ちょっとだけ安心した顔で意識を飛ばした。

「おしっこしていいよ」
「あ、ん、ん、」
 ずるり、と棒を引き抜くと、じょろじょろと音を立てて便器におしっこが打ち付けられた。便器の前に立つ一進くんの、後ろに俺が立った。一進くんの性器を握る手を強めると、一進くんは、くう、と小さく呻く。狭まった尿道から必死におしっこを出そうといきんでいる一進くんは、気持ちよさそうな吐息を零した。
「穴、広がったな」
「んあ……」
 おしっこが終わったばかりの先端を指の腹で撫でると、一進くんの腰が震える。おしっこ穴、本当に大好きなんだろうな。
「舐めて、一進くん」
「んう……」
 指先におしっこが着いて、それを一進くんの口元に持っていくと舐めてくれる。舌が丁寧に指を這っていくのは、いやらしくて可愛らしく思えた。
「な、あ……」
「うん?」
 一進くんから声を掛けてくるのは珍しい。俺が耳を済ますと、一進くんは深呼吸してからまた声を出す。
「ケツ……ケツから、前立腺、押して、ちんこ、の、前立腺グリグリ、すると……気持ちんだ、って」
 言い切った後、真っ赤になる一進くんの耳が見えた。
「へえ、じゃあ今度アナル用のディルドとかバイブ買っとく」
 一進くんの後ろには今まで手を出してこなかったから、アナル用のおもちゃもないし。でも、一進くんからおねだりだなんて可愛いらしい。
「オレは、これでも、いいけど……」
「んっ」
 一進くんが後ろ手に俺の股間を掴んだ。親指が下からラインを舐めるようになぞる。
 どこでそんないやらしい誘い方覚えたんだか。
「一進くんがそう言うなら」
 震える手とか、首まで赤くなってる一進くんの気持ち、俺にはわかるよ。
 一進くんも俺のこと、大好きなんでしょう。

終わり


2017/12/09 07:20


▽当て逃げ
ツイッターで140字連載していたものをまとめたやつです。
のちほど完全版を上げる予定ですみませんんんん

 息も詰まる満員電車の中。目下の悩みと言えば、イケメンがちんこを押し当ててくる事だった。
 始まりはふた月前。その日もいつもの如く人混みに肺を潰され、呼吸もままならない時だった。不意に現れたイケメンが人肌の壁となり、俺はようやく呼吸を許された。その時。
 左足に熱を感じた。けれど、それを確認するだけの余裕もない。もちろん、逃げる事だって。結局その日は、そのイケメンが電車を降りるまで左足に熱を感じて過ごすのだった。いや、イケメンが降りた後だって俺は熱の名残を感じていた。
 それからと言うもの、イケメンの姿をした変態紳士は毎朝同じ時間、同じ車両、同じドアから現れ、ひたりとちんこを押し当ててくるようになった。
 最初こそ、偶然だとか満員電車だし仕方ない、そう思っていた。けれども、俺がどこにいても必ず傍にいるのだからこれはもう間違いないだろうという確信を持っていた。
 左足に、腰に、尻に、俺は布越しにその熱を感じた。電車の揺れに合わせて身体が動く。強くもなく弱くもなく、付かず離れずでその存在だけを俺に知らしめる。
 ちんこを押し当ててくる。たったそれだけの事だった。それ以外には、指一本たりとも触れてこない。でも、ちんこだけは必ず触れてくる。
 いつしか朝が来るたび、俺は思うようになっていた。今日はどこに、押し当ててくるのだろう。まるで朝のニュースの占いのように、ほんの少しだけその熱を期待している俺がいた。
 彼が来る瞬間というのはいつもすぐに分かった。電車のアナウンスが駅名を告げるからだけではない。
 右手の節だった指をシックに飾る、中指にはめられたシルバーの指輪。どこか甘い匂い。息を飲むイケメンの登場には周りの誰もが一瞬目を奪われ空気が変わる。
 そして俺の横という定位置へ迷いなく進む。
 なぜ俺なのか。どうしてちんこを押し当ててくるのか。疑問は尽きないが、女は振り向き、男でさえ見惚れるようなイケメンに選ばれたと思えば悪い気はしなかった。むしろ優越感すらあって、ただしイケメンに限るという言葉の力を大いに感じた。
 そうして今日も、彼の訪れを待っていた。

 その日の朝はいつもの三割り増しで混んでいた。と言っても、いつもが既にキャパシティ120%の混雑状態で、それの三割り増しなのだから多分内蔵が押しつぶされて死ぬ奴も出るだろう。そのくらいの異様な混みようだった。
 それでもなんとかいつもの時間、いつもの車両、いつものドアで俺は外を見つめた。彼を待った。
「次は○○ーー」
 プシュー。ドアが開くと、出て行く人が数名、その遥かに多い人が入ってくる。もう十分に押し込められてこれ以上無理だ、という中にさらに圧がかけられ、痛いとか無理だとか言う悲鳴が上がる。俺はそんな声も上げられない。
 プシュー。そうこうしている間に扉は閉まり発車する。これじゃあ例のイケメンも乗り込めたかどうだか……そう思って顔を上げると、バチリと目が合う。間に一人挟んで、件のイケメンがそこにいた。
 こんなぎゅうぎゅうに押しつぶされた人の中だというのに、彼だけは、彼の周りにだけは何故か爽やかな空気が流れている気がした。イケメン効果は絶大だった。
 流石に身動きが取れないのか、今日ばかりはイケメンのちんこが押し付けられる事もない。そもそもこの圧で、隣の加齢臭おじさんの鞄が脇をぐりぐり抉ってくるし、前のスーツの女性に触れないよう俺はギリギリを保っていてそれどころではない。
 結局イケメンは駅で降りて、俺はそれを静かに見送った。

 何故か混み合う電車は、それから五日続いた。気が付けば金曜が訪れ、土日になれば俺は休みで出社しない。
 イケメンと視線は合うものの、その距離は初日に一人挟んだのが一番近くて、それ以降は二人三人挟んだり、反対側同士のドアとドアほど距離があったりした。
 だからだろうか。
 そんなこと、と。イケメンからの熱が恋しいだなんて、そんなことを思うだなんて。けれど、俺は欲しかった。あの、誰もが振り返るイケメンの、スーツの下に隠された俺にだけ与えられる熱が。
 どうしようもない滾りが、恋しくて仕方なかった。
 今日の俺の位置はドアからそう遠くない。もう、今週はこれがラストチャンスだった。
「次はー」
 プシュー。ドアが開き、そして間も無く閉まる。物理的な圧で息も出来ない。それでも人混みに逆らい舌打ちされながら踏みとどまった俺とイケメンとの距離は、人一人挟んだ先。
 熱は遠く、身動きは許されない。
 そこにいるのに、イケメンはこちらを見ているのに。手を伸ばせば、届くのに。
 ハッ、と気付いた俺は、そっと左手を動かした。この人混みの中で、俺はその熱を求めた。電車の揺れに合わせて、目の前の人や横の人と間違えないように。まっすぐにイケメンを見ながら。
 するっ、と触れる。いい生地のスーツは肌触りが心地良い。間違いなく、彼だろう。確信した俺は指を這わせた。
 するりと生地をなぞって下へ向かう。辛うじて彼に届いた人差し指と中指が、そこに辿り着く。恋い焦がれてたまらなかった、イケメンの熱を孕む股間へ。スーツ越しに触れるちんこへ。
 柔らかく膨らんだそこを上下になぞると、そこは硬さを増した。
「は……」
 車内で微かに空気を震わせた喘ぎ。
顔を上げるとイケメンが熱っぽい視線で俺を見る。
 感動すら覚えた。あのイケメンが俺の手によって高められている。人差し指の背が押し上げると、イケメンは目を瞑って堪えるように息を呑んだ。
 どうしようもない。指に触れる熱が、俺の手に踊らされるイケメンが、どうしようもなく愛おしい。
「次はー」
 車内に流れるアナウンスで我に返る。いつも彼の降りる駅だった。反射的に手を引くと、その手を強く掴まれた。熱と力のこもった彼の指が、手首を締め付け離さない。
 どうして、そう思った時には扉が開いて、出ていく流れに巻き込まれる。引っ張られる無理な体勢で、俺も電車を降りた。
 ズボンの前をカバンで押し隠し、俺の手を引くイケメンはホームの端に設置されたトイレに駆け込む。小便用の便器の前に、ヘッドホンをした若いスーツの男が立っていたが、イケメンに引っぱられるまま俺は個室に押し込まれた。
 ガタガタ、がちゃん。ガタッ。
「いっ」
 壁に押し付けられた衝撃で頭を打つ。
生理的な痛みに涙が滲んだが、それを拭う暇もなく次の衝撃が俺を襲った。
「んっふ」
 イケメンの手が俺の顎を掴み、口が塞がれる。驚いて開いた口内を舌が舐めて、そこからは彼にされるがままだった。海外の映画で見たような、痺れるキス。息も出来ない。脳が犯される。生まれて初めての体験だった。
 その間にも、イケメンはちんこを俺の足へ押し付けていた。犬みたいに腰振って、イケメンも台無しと思いきや、ちょっと必死な姿に俺の身体の奥の方がキュンとした。
 俺の指で、キスで、身体で、興奮しているイケメンが可愛い。辛うじて余裕を持つ脳の片隅がそんな事を思うが、やがて思考は停止する。
 カチャカチャと音がして、未だに口腔を舌でまさぐられている俺は目線だけでそれを確認した。少し焦りを見せるイケメンの手が、それでも慣れた手つきで自身のベルトを外していた。
 俺はその指先の動きに夢中になる。何度布越しに触れたかわからないけれど、遂に、直に、あの熱が、ちんこが露わになる。
 押し上げていたパンツがずるりと降ろされると、ぶるんと揺れるイケメンのちんこは俺の想像以上だった。
 いや、想像なんてしてないけど。イケメンがどんなちんこかとかいくら相手がイケメンでも想像しないけど。
 でも、熱気を放つそれがいざ目の前に出されると、俺は思わずゴクリと喉を鳴らした。
 ちゅ、と音を立てて唇が離れる。今一瞬前まで口内を貪られ、いっそ酸欠で苦しくて息も絶え絶えだというのにもう唇が恋しい。口が寂しい。
 そんな事を思った頃には、イケメンは俺の側頭部に顔を近づけていた。吐息が耳にかかり、びくりと身体が跳ねる。
 瞬間は目まぐるしく変わる。俺はされるがまま。
 俺の手がイケメンに握られ、導かれる。突然触れた指先の熱に、手のひらの肉に、俺は驚いてつい強く握ってしまった。
 耳元で低く呻いた声にキュンとする。ああ、そうかこれは、これはつまりイケメンのちんこなんだ。そう理解すると、手の中が益々熱くなるようだった。
 俺、イケメンのちんこ握ってる。
 いつのまにつけていたのか、ちんこには薄い膜がついていた。つまりはコンドーム。薄さ0.01ミリの壁はイケメンの熱をありありと伝えてくる。手の中でドクドクと息衝き、主張している。
 俺はおもむろに手を動かした。
「ん……」
 イケメンの喘ぎが小さく溢れる。なんだか、これは相当、悪くない。
 そのまま手を動かし続けた。イケメンの息が上がる。
「あっ……ああ……」
 微かに上ずった声が、思わず溢れたという風に耳をくすぐった。イケメンが俺の手の中で可愛い声を上げている。
 楽しい、興奮する。手を動かすと身体が震え、背中に回された手が強くしがみついた。可愛い、楽しい、もっともっと。
「ああ……」
 震える声はどこか切ない。もうイくんだろう。イケメンが俺の手で高められて果てる。
「イく……」
 甘く掠れた喘ぎとほぼ同時に、ゴムの中に放たれた性は熱く掌を焦がしそうだった。
 イケメンはしばらく俺にしがみついて動かない。俺も今目の前で起きた事を飲み込めきれず、放心していた。
「次は君の番」
「えっま、まっ」
 リハーサル的に指が撫でて、それからズボンのチャックが降ろされる。抗議する前にイケメンの口が俺の口を塞ぎ、舌が宥めるように俺の口腔を舐める。
 それ弱いんだよ、腰砕けそうになるのを必死で堪える間に、イケメンの指が俺のちんこを直に握った。
 するっと伸ばされたゴム。変態紳士の嗜みなのか、イケメンはまたコンドームを取り出し装着した。それから手のひらが優しく握り込む。ゆるゆると動き出して扱き始める。
「んっんんっ」
 口とちんこから逃れられない快感を与えられ、膝が笑った。こんなの耐えられない。俺はイケメンにしがみつく。
 熱い手のひらに扱かれる。自分でするよりも気持ちいいのは、自分でするよりも快感に容赦ないからだろうか。良いところだけを狙って、どんどん高められていく。
 大きく育った俺のちんこを、イケメンが丁寧に撫でる。先端ばかりを擦られ、強い刺激に腰が引けた。
「ここ、好きなんだろ? さっきここばかり触ってた」
 そんな恥ずかしい指摘に耳が燃える。
「う、う、だめ、イく……」
「いいよ、いっぱい出して」
「イくっう……」
 自分の声とは思えない位酷く甘えた声に思えた。恥ずかしい程感じて、頭が弾けたみたいに真っ白になる。いっぱい出るようにイケメンの手が絞るみたくしごいた。
 全部出し尽くして崩れ落ちる俺を支える、彼は矢張りイケメンで。
 イケメンはちゅ、ちゅ、と耳元にキスを落としながら俺のちんこを綺麗にしていった。ゴムを外してトイレットペーパーで拭う。ついでとでも言うようにひとなでされて、思わず甲高い声が出た。
ジャー、トイレットペーパーが流れていく。それを見守っていると、イケメンが俺の胸ポケットに紙を差し込む。
「仕事終わったら連絡して」
 それはイケメンの名刺だった。この駅から見えてる大きなビルの営業マンらしい。出来る男は違うと言うか。
「お前っていつもこんな事してるのか? 電車でちんこ押し当てて、トイレでやって……すげえ手慣れてる感じ」
「手慣れてないって。こんなアプローチ、初めてしたよ」
「アプローチって……」
 なんだか言い方までイケメンというのは格が違うのか。しかし、やってきた事といえば完全にただの痴漢なんだよなあ……よく考えたら今日のは俺が先に手を出してしまったのだけれど。
「あっていうか会社」
「タクシー代出すよ」
「電車のが早いからいいよ」
 身支度を整えて個室を二人で出ると、流石にさっきまでいた若いスーツの男はいなくなっていた。というかアレ、イケメンと同じ会社の可能性もあるのでは。
そんなことを思いつつ俺はホームへ、イケメンは改札へと向かった。口パクと手の仕草で電話して、と合図されたから、適当に手を振った。
 振り返す様もイケメン。

 その日は、遅刻こそしなかったものの、集中力は途切れがちだった。そもそもイケメンからちんこ押し付けられるようになって最初の頃もその事を思い出しては戸惑っていた。最近ようやく慣れてきたというのに。
 色々すっ飛んで、ちんこ押し付けられました、からちんこ擦り合いましたになったんだから。
「……」
 いやいや、何思い出してんだ、という話で。手のひらを見つめて、なんとなく変な気持ちになる。手の中の熱とか、大きさとか、耳元の吐息とか、思い出して顔がブワッと熱くなった。
「ッ、きゅ、きゅいってきま
 落ち着かねえ。俺は席を立って、休憩スペースに移動した。
「はあ……」
 カップタイプの自販機で買ったコーヒーを飲みながら、イケメンからもらった名刺を眺めた。肩書きに役職はついてないから入って二年かそこら、多分俺とそう年は違わないのだろう。
 表には会社電話番号や携帯の番号、いわゆる一般的な名刺だった。ところが裏には、わざわざ書いたのだろう手書きの個人のメールアドレスがあった。
 それから、表に書いてあるのとは別の携帯の番号。会社とプライベートで分けているのだろう。
 とはいえだった。相手は痴漢を働いたきた男にすぎない。連絡をしろと言われたって、なんと連絡をすれば?「どうも、毎朝痴漢されてる者ですが」とか、「今朝擦りあった者です」とか?なんて馬鹿げている。
 だいたい、連絡を取ってなにをすると言うのか……つまりは、ナニをもっとこう、直接的に……?
「はあ……」
 俺はため息を1つ吐いて紙コップを潰した。やめだやめだ。
 冷静に考えろ。どんなにイケメンだろうと相手はちんこを擦り付ける変態だぞ、と。普通コンドーム二個用意しておくか?最初からそのつもりだったのか?
「はああ無理」
「雨雨(ウサメ)、度重なるため息が重いけどどうかした?」
「うっわ」
 ぺろんとケツを撫でられ、思わず情けない声を上げてしまった。当の本人はケラケラ笑っている。
 同期の森雲(モリクモ)で、部署は違うが飯を食いに行くくらいの仲だった。
「今日反応いいな? どうした」
 どうしたもこうしたも。森雲はこれまでに散々俺のケツを撫でてきてその度に俺はやめろと手を叩いてきた。ある程度経つと感情は無くなり、無視するに至ったのだが。
 今朝はイケメンとシてきたわけで、快感に敏感になっていたのかもしれない。いや、どちらかと言えば今日のケツ撫では嫌悪でしかない。
「お前な、まじでケツ触んのやめろ。男だからってセクハラ扱いされないと思うなよ。だいたいどんな気持ちで男のケツ触るんだよ」
「だって雨雨のケツ触り心地いいし」
「気持ち悪い」
 肩に手を回してきたのでそれも払いのける。こいつ、チャラチャラしてるんだよな。そのくせ時々妙に紳士だったりするが。
「それで、今日、本当にどうした?」
 同僚はカップのコーヒーを買い、横に座った。もう立ち去るつもりだったのに、森雲は俺の分のコーヒーまで買い、身体をこちらに向け、話なんでも聞きますよ、という雰囲気を醸し出してきた。
「……お前、ナンパとかした事あるか?」
「雨雨ナンパされたの?」
「なんでそうなる」
 いや、間違っちゃいないんだけども。
「ナンパした側がそんなに悩まないだろ、普通」
 それもそうか、という推測に、変なところは察しがいいんだから、と呆れる。
「……いや、連絡くれって名刺貰って」
「わーお、積極的じゃん」
「でもそいつっていうのが、痴漢というか」
「ふーん? で、雨雨はなにを悩んでいるんだよ」
「なにを、って、だって相手は痴漢だぞ……普通、無いだろ」
「普通無いな。でも雨雨は名刺、受け取ったんだろ。本当に嫌だったらその場で破り捨てるなりするんじゃないのか? そうしなかった、ってのがもう、お前の答えだろう」
「……」
「ま、後はプライドの話?」
 ペチンッ。
「うわあ」
 ケツをペチンと叩いただけじゃ飽き足らず、舐めるように手が撫でていった。ゾワゾワと背筋を駆け上がる嫌悪感に情けない声が出る。
「お前……ほんとやめろ」
「相談料」
 じゃあな、と俺の肩を叩き、休憩室を出ていった。俺も戻ろう。
 イケメンの名刺の事は、まあ後で考えるとして。

 結局連絡なんて面倒くさい、しなくていいや。と名刺の事を無視した。土日に入るとイケメン痴漢野郎の事なんかすっかり忘れて、俺は趣味のゲームの攻略に没頭する。
 そうして迎えた月曜日、あの駅に着くアナウンスでようやく気付くのだ。
「ドア開きますーー」
 プシュッー、と音がしてドアが開く。出て行く人が終わると、出て行った人より多い人数が乗り込んできた。先週の混みようと比べたら大分マシだったが、それでもひしめき合う満員電車となる。
 そこで人の波に強く押され、反対側のドアに押し潰された。否、故意にドアに押し付けられた。
 ガタガタと扉が揺れて、一瞬視線が集まるが直ぐに皆無関心となる。今だ心臓がバクバクしているのは、目の前のイケメンが何か言いたげに睨んできている俺だけだろう。
 狭いからもっと寄れとかじゃないよな、当たり前だ。混み合ってるのは織込み済み、むしろそれを利用して壁に追い込んで来たのだから。
「俺、言ったよね。連絡してって」
 無表情というのが、こんなに怖いものだと初めて思った。何より黙っていてもサマになるイケメンが全くの真顔で、声は少し低いトーン。いっそ怒って般若みたいな顔をしてくれたらいいのに、まるで血の通わない彫刻だ。感情を表さないのが余計に怖い。
「……痴漢相手に、連絡なんかするかよ。それに連絡しなくたって、会ってる」
 引けなくなって強気で言うと、イケメンは口元を歪めて笑った。ぞくりと背筋が冷たいものをなぞるよう。
「こないだ手を出したのは貴方だけどね」
 ねえ?と耳元で囁き、あの日を思い出させるように指が撫でた。
「ずっと待ってたんだよ。金曜日は仕事終わってからも会社に居残って。土日も、貴方から連絡来るのを」
「く……」
 思わず声を上げたのは、イケメンの手のひらに股間を掴まれたからだ。痛くない程度に、それでも優しくない動きで揉みしだかれる。
「俺はまだ貴方の名前だって知らない」
 ケツやちんこについてはお互い良く知ってしまっているのにな。何でこうなったのか?それはお前が痴漢だからだよ!
 というツッコミはさておき、イケメンはシリアスな雰囲気を纏わせながら、俺の内股を撫でた。慣れない刺激に身体が震えて、ドアが不自然にガタガタと鳴る。
「出会い方なんて今更だと思わない? つまらないプライドなんて脱ぎ去ってさ」
「やめ……」
 イケメンは囁くと俺の首筋に舌を這わせ、チャックに指をかけた。こんなところで、これまで以上に過激になっている。押し退けようにも、イケメンの後ろに立つおっさんが倍以上の力で押し返して来る。ここは戦場、敵はイケメンだけではないのだ。
「お前、なにがしたいんだよ……」
 チャックは降ろされた。けれど、フロントに穴のないパンツがイケメンの指を阻む。それ以上先には進まれないようイケメンの手首を掴んで言うと、予想もしない真剣な目が俺を見た。
「もっと知り合いたいんだよ。貴方のこと、俺のこと、ここ以外でのこと」
 しつこいけど、どんなに真面目な顔したってお前痴漢だかんな、そこんとこ忘れんなよ今だって人のチャック全開にして布越しに撫でるなっ!
「っ、わかった、わかったよ」
 出会いこそ変態的だけど、俺だってこのイケメンに惹かれていたのは間違いない。
 だからきっと知るべきなのだ。知り合うべきなのだ。

 その日の昼にメールを送ると約束して、公衆の面前でちんこを晒すのは避けられた。
 約束通り昼休みにメールをしたのは、そうしないと明日は公衆の面前で犯すと言われたのだけが理由じゃない。俺だってあいつのことを、知りたかったんだ。
 けれども、内容なんて思いつかないから件名に名前を、本文に番号だけ書いて送った。即行で電話がかかってきたのには引いたが(電話には出なかったけど)。
 気負った割には、なんて事なかった。そんなもんだ。
 連絡を取り合ったからと言って劇的に世界が変わるなんて事はなかった。相変わらず満員電車で、イケメンは俺にちんこを押し付けてくる朝。
 知り合うべきだなんて思ったけれど、結局あれから知った事なんて、こいつ俺の事大好きなのか、なんて事くらいだ。
それが少し可愛く思えるのは愛着が湧いたから?
 今日の夜、飲みに行きませんか?と誘いのメールが来たのは金曜の昼休み。
 月曜にメールして以来、昼休みに今日の昼飯をメールするのが定例になっていて、今日もいつもの様にコンビニ弁当を写メしたその返事だった。いーよ、店任せていい?
 そう返信すると、もちろん、仕事終わったら連絡ください、と。
 朝会った時に言えばいいのに、まああいつちんこ押し付けるのに必死だからな、あいつ電車降りたあといつも抜いてんのかな、なんて考えながら、昼休みは終わった。
 昼は何食ったんだろう、あいつ自分で弁当を作ってるらしく、何気に美味そうでいつも見るのが楽しみだったのに。
 とか。
「乾杯」
 カチン、グラスのビールで乾杯をする。イケメン御用達の居酒屋は客が多かったが、落ち着いた雰囲気の店だった。
「へー、こんな店あったんだ」
「ええ、ご飯も美味しくてオススメですよ」
 メニューを覗いて見ると、通常の居酒屋と変わらなさそうだ。二人で適当に選んでお通しで食いつなぐ。
「やっぱ狙ってる女の子とか連れてくるの?」
「え? いや、女の子は連れて来ませんけど……狙ってる子なら、連れて来ました」
「ふーん」
 やっぱイケメンは違うなあなんて思っていると、俺をじっと見つめてくる。なんだこいつ。あ、ああ!そうか。
「あーそれ俺のこと? ハハハまじか」
「笑うの、それ」
「鈍感な主人公とか、ラブコメで見るけど実際俺がそうなのかと思うと……ふはっ……くくく……マジかあってなるな」
 こんなこと実際にあるんだな、しかもこんなにイケメンが、俺を。悪い気しないし、酒はうまい。
「雨雨さんはラブコメ向いてないね」
「あー、ほんとな。モテた試しがねえよ。お前はイケメンだしモテんだろ。引く手数多。取っ替え引っ替え」
「君の中の俺ってどんだけクズなの」
イケメンが表情を崩してクスクス笑いながら言う。
「そりゃ、変態なイケメンだろ。最初の頃は但しイケメンは許されて得だなとか思ってた」
「こないだ手を出して来たのは雨雨さんだけどね」
「うっ」
「なあ、なんで俺? そんなに魅惑のケツしてた? ちんこ当てやすかった?」
「雨雨さん、貴方結構酔ってるでしょう。声でかい」
 イケメンの手が俺の唇に触れた。それを舐めるて、不敵に微笑んでやる。
「酔ってる。なあ、いつも電車降りたら抜いてんの?」
 そんな質問に、イケメンは微笑む。
「もっと酔ったら教えてあげる」
 頬杖ついて俺を見つめる。ああやっぱりイケメンて得だよ。そんな仕草だけでキスしたいとか思えてくる。柔らかそうな唇を重ねて、もう一度腰砕けのキスがしたい。
 身体の芯が火照って、喉が渇いた。あれが欲しくてたまらない。だめだ俺、酔ってる。今日は酔いの回りが早い。
 終電の時間が迫り、「そろそろ出ますか」と切り出したのはイケメンの方だった。
 奢りたがるのを無理やり押しのけ、きちんと割り勘で払う。ただでさえ色々勝組のイケメンなのに金まで払われては立つ瀬がない。
 店から駅に向かう道すがら、涼しい風に吹かれて酔いは覚めたが、身体の奥が熱いような気分は抜けなかった。
 乗り換えの大きい駅に向かう最終の電車は、朝ほどとまではいかないもののそれなりに混み合っていた。
 二人で電車に乗り込み、なんとなくテンションが上がる。電車内という密室の中で数分一緒にいただけの俺たちが、どうしてこんな事に。
「雨雨さん、こうしてると思い出さない?」
 イケメンが不意に言った。
「思い出すって」
 何を、と聞こうとした時に、足の間をイケメンの足が撫でた。膝使いが上手くて腰が引けそうになるのを、腕に抱かれる。
「近い」
「うるさくすると見られちゃう」
 小声でヒソヒソ言い合いながら、電車に揺られた。少し眠くなって来たのと揺れで、イケメンの肩に頭を預ける形になった。
 目を瞑るといい匂いがした。香水だろうか、嫌味じゃないくらいの仄かに香る感じ。きっと体臭に混ざって、こいつだけの匂い。
「あ……」
 頭の奥でズクンと記憶が揺れる。なんだっけこれ。前にもたしかに、嗅いだことがある。
「思い出した?」
 朝の気が狂うラッシュ時ではない。今みたいに、こうして……。

 あれはイケメンからのちんこ押し当てられ事案が発生するより少し前の事だった。上半期を乗り越えた打ち上げという体の飲み会で良い具合に酔った俺は、翌日実家に帰る予定があったため、他より一足先に帰りの電車に乗ったのだった。
 人がまばらな電車で半分眠りながら吊革に掴まる。どこかの駅に到着。
 プシュー、電車が止まり扉が開くと人が乗り込む。
「ん、すません」
 背中を押され、前にいた人に体がぶつかった。酔っぱらった口は呂律が回らず、体にも力が入らない。離れようにも後ろの人はビクともしなかった。
 ドア前に立ったその人を、さらにドアに押し付ける体勢。甘いような匂いに頭がくらくらとする。
「ん……」
 おかしくなりそう。そう思った時には既にだった。
 その人の足に、股間が擦れる。最近忙しくて抜いてなかったのもあって、熱を持つのは一瞬だった。
 こんなの変態だ、でも体は言うことを聞かない。
 ガタン、電車が揺れる。
「は……」
 吐息が漏れる。唇を噛んで声を殺した。でも、もうタガが外れる。ガタン。次の揺れに合わせるように、ちんこを擦り付けた。
 布越しの物足りない刺激、けれど匂いで甘く蕩けた脳には十分だった。
「ふ……」
 ゆっくり、熱を擦り付けていく。やばい、変態すぎて。でも、イきそう。なのが、やばい。
「うっ……」
 じわりと熱が広がり、それが冷めるのと同時に頭も冷えていくようだった。
 次の駅で逃げるように俺は電車を降りて、トイレに駆け込んのだった。
「あ……」
 忘れていた、というより記憶を封印していた。酒に酔っていたし、夢だろうという事にして。
「思い出せたみたいだね」
「ん……」
 イケメンの手が尻を撫でた。自然に始まった痴漢行為に、しかし自分の過ちを思い出して咎めることが出来ない。
 だって、どの口がそんなことを言える。
「……あれ、お前だったんだな」
「そう。すごい衝撃的だったのに、雨雨さん次会った時には俺の事覚えてなかっただろ」
「それは悪い夢だと思って……あの、ケツ揉むのやめて、話に集中出来ない」
「勃っちゃうから?」
「おい」
 今や弱みを握られた俺のちんこはイケメンの膝に押し上げられて声が上擦る。
「だから当てつけに俺も押し当ててみたわけだけど」
「発想が変態」
 仕方ないよ、と微笑む変態のイケメンにどきりとする。
「男に一目惚れするなんて自分でも驚いたけれど。俺はあの日、雨雨さんの熱にあてられたんだよ」
「……当たってる」
「当ててんの」
 あてられたのはどっちだか。

終わり


2017/11/26 23:52


▽中指
 中指突き立てて感じる。あー、やらかいなあ、俺のこと受け入れてるな、って。
 それがなんだかムカついて、優しくしたくなくなる。ああ、違うかも、俺はもっと酷いやつで、酷い事したいだけなのかも。
 従順なお尻にキスだけあげて、今日はお開きだ。ローションぬるぬるでバカになった穴なんて。
 口を噤んで拒むところを無理矢理ぶち犯したい。乱暴にしたい。
 最後まで泣いて、よがらせないで、トラウマになるまで傷付けたい。
 そこまで思ってハッとする。今浮かんだ顔は誰だ。俺が壊したいのは誰。

「保、なんか顔色悪くない?」
「別に」
「そっ。保も彼女作ったら?かーわいくて毎日癒されるから」
 ああそうか。今わかった。
 愛される事がないんなら、ぶち壊したいのは、お前だって。

終わり


2017/10/30 01:37


▽ヒガンバナ
隠し味
彼岸花


 酷く雨の降るその日、僕はとある旧家のお屋敷に足を踏み入れた。庭には赤い彼岸花が咲き乱れ、秋を思わせる。
「突然の雨、不運でしたね」
 彼はタオルを差し出し、微笑んで言った。濡れて張り付いたワイシャツが、外気で冷やされ震える程だったが彼の微笑みにはどこか温かさを感じた。
「ええ、先ほどまでは雲ひとつなかったのに、本当、急でした」
 顔と頭をあらかた拭うと、背中にふわりとした温もりが包んだ。
 彼、この広いお屋敷に一人で住み、今は不在の主人の世話を焼く小間使いの生明(アザミ)が追加のタオルで僕を包み込んだのだ。
 年の頃は17、18くらいだったが180ある僕の身長よりも高い。目の前にある彼の首筋から柑橘の匂いがして、思わぬ五感の刺激にドキっとした。
 ここの主人が、彼をそういう事に使うという、噂が頭の隅にあったからかもしれない。
「今、お風呂を沸かしますから」
「いえ、そこまでしてもらわなくても」
「そうですか」
 彼の申し出に断ると、彼はまた微笑み、僕の手から用済みのタオルを取り去る。
「それでは温かい飲み物を入れましょう。紅茶と珈琲と、どちらにしましょうか」

 窓の外では相変わらず、雨が降り注いでいた。応接室の大きいソファに腰掛け、出された紅茶に口をつける。甘いものが好きな僕は紅茶に砂糖を二つ加えた。
「それで、了太郎(リョウタロウ)さま。こんな天気の中、本日はご足労おかけしました」
「いえ、兼ねてからの約束でしたので。その日にたまたま雨が降っただけですよ」
 かちゃり、カップをソーサーに戻す。僕はこの静かな屋敷を見回した。
「それに、このくらい静かな方がいい」
 僕がそう言うと、彼は相変わらず貼り付けたような微笑みを僕に浮かべた。例えば緊張だとか、そんなものは彼にはないのだろう。
「それでは事の顛末の推理を、僭越ながら披露させていただきましょう」
 僕の言葉に、彼はようやく反応を示したようだった。

 屋敷の主人、岩戸見(イワトミ)とは古くの付き合いだった。僕が探偵の真似事のような事を続けている一方で、彼は輸入業で成功した。明日食うのにも事欠く僕を、度々救ってくれたのは彼だった。
 そんな彼と最後に会った日、街の喫茶店で陽の光を浴びながら僕に言った事を鮮明に覚えている。
『もし私が死んだらその時は、その真相を君に調べて欲しい。そしてうちにいる小間使いに教えてやってはくれないか』
 なんとも奇妙な頼みだった。まだ二十代も半ばというのに、まるで死の宣告を迫られたようだった。
 そんな彼が僕にした唯一の頼みごとを聞かないわけにはいかない。つまりは、そう、彼は死んだのだ。

「この屋敷について調べさせてもらったよ。随分古い建築で、半世紀もの歴史を持っている。持ち主は移り変わり、この屋敷を手に入れたものは皆……亡くなっている」
 一番最初に亡くなったのは、この屋敷を作った最初の主人・火織明治(ヒオリメイジ)だった。火織は地主で、一番眺めの良い場所に一番豪華なこの屋敷を建てた。
 気の良い人間で街の者達から畏れられる事はあっても嫌われる事はなかった。
 そんな火織が死んだのはこの屋敷に住んでから十年が経った頃だった。冬も近いある日の朝、火織はベッドの上で冷たくなって死んでいた。
「火織は独り身だったが死んでもこの屋敷が取り壊される事はなかった。主人が謎の死を遂げたところで……実に魅力的な屋敷を安値で買い叩く新たな主人が現れた」
 次の持ち主となったのは火織の遠い親戚に当たる男だった。火織の屋敷は遺族への遺産となったが、火織の両親を始め遺族の誰もが不気味がって相続を拒否した。売って金にしようという意見が出る前に、したたかなその男が相続したのだった。
「その男は五年……それからも持ち主は変わっていくが、五年以上長く生きた者はおらず、みな眠るようにして息を引き取った」
 悲しい屋敷の物語に、生明は顔色を変える事もせず、僕の話を静かに聞くだけだった。
「そして、最後の主人……岩戸見が死んだのもこの屋敷を手に入れた五年目だった」
 岩戸見がこの屋敷を見つけたのはまさに五年前の、こんな雨の日だった。
『聞いてくれ、街の外れにあるあの屋敷……今誰も主人がいないという。私は、一目見て……気に入ってしまったのだ』
 僕をわざわざ呼びつけてそう言った岩戸見は爛々と輝いた瞳をしていた。
『しかし、あの屋敷は持ち主が何人も死んでいるのだろう』
『当然だからこそ、そこらのボロ貸家よりもよっぽど安い値がつけられている』
『なんだ、結局は金か。金の亡者め』
『いやいや、了太郎よ。あの屋敷にはーー』

 頭の中でそんな思い出話を蘇らせた。それから、目の前の彼を見る。
「ところで、ここに面白い資料がある」
 僕は胸から封筒を取り出し、中にある写真を一枚ずつ、テーブルに並べていく。
 岩戸見の写真、その前の主人の写真、その前の、そのまた前のーーそして、二代目の主人となった男の写真を置いた。
 それらはみな一様に、隣に同じ男を立たせ、彼は微笑みを浮かべている。
「これはすべて、君だ」
 コンコン、指先で岩戸見の隣にいる男を指差した。君、つまり生明その人だった。
 彼はこの屋敷付きの小間使いだった。が、話はそれでは終わらない。
 そもそも、岩戸見と生明が一緒に写っている写真はおよそ、五年前の写真だった。今の岩戸見よりシュッと痩せている。
 ところが、生明はというと今と変わらず17、18くらいの年齢に見えた。
「例えば君が、世のご婦人が垂涎ものの若さの秘訣を持っていたとして、この写真だけならばそれでもまあ納得はいく」
 実際は、五年前の写真が17、18で現在二十代も半ばの可能性もあるだろう。
「しかし、君は少しも変わっていない。前の主人のときも、その前も、ずっと遡り……二代目の主人の時からも」
 彼は写真の中で変わらない微笑みを浮かべていた。そしてそれは、目の前で相変わらず微笑んでいる。
「さて、さらにここに一枚、写真がある」
 僕は最後の写真を取り出して、机に置いた。
 それは初代の主人である火織と共に写る生明の姿だった。
 けれども、その生明は他のどれよりも実に生き生きとしている。見た目もほんの少し幼く見えた。
「君は……信じ難い事だが、何らかの方法で不老不死となって生きているんだ。そうして、主人となったものを殺し続けている」
 頭の中で岩戸見の言葉を何度も思い返した。
『いやいや、了太郎よ。あの屋敷にはーー』
「かくも儚き少年が主人を求めているのだよーー岩戸見はそう言ったんだ」
 岩戸見が一目惚れしたと言ったのは生明の事だった。そして、幾人もの主人がなくなってもなお屋敷は残り人の手に渡ったのは、間違いなく生明の魅力に引き込まれ、取り殺されたせいなのだ。
「かつての主人が亡くなった時期は一様に今頃……彼岸花が美しく咲く頃。ベッドの上で亡くなった主人達の唇は薄紫に、つまり窒息によるチアノーゼの痕跡が見られた」
 彼岸花は毒を持つ花だ。経口摂取すれば嘔吐や下痢を引き起こし、時には神経を麻痺させ呼吸困難に陥らせるという。
 しかし普通の彼岸花に含まれる毒の量はその致死量の一割にも満たない。
「普通の彼岸花だったら致死量には至らないかもしれない……ところが君はこの半世紀をここで生きていて、彼岸花を育ててきた。この屋敷の彼岸花は特別に……強い毒性を持っている」
 そればかりは科学的に調べて見ないことにはわからない事だった。けれども、殆ど確信に近いものを持っている。
「身の回りの世話をする君は、もちろん食事の世話だってしているのだろう。彼岸花の毒は火に強いから、食事に混ぜるのはそう難しくない事だ」
 最後の晩餐はどんな味がしたのだろう。僕には想像もつかないことだ。
「ところで生明、君の姓は火織。つまり初代の主人、火織明治の血縁者……おそらく君は、息子だろう」
 火織に兄弟がいたと言う記録はない。同時に結婚の記録も無かったが、当時付き合っていた女性の噂が流れていた。そして三十代も半ばの頃、つまりは屋敷を手に入れた頃に、火織が少年を囲っているという噂が流れていた。
 おそらくは女性と関係を持ち、なんらかの理由で子供だけを手に入れた。
 ありとあらゆる記録のない少年、生明についてはそんな推論を立てるしかなかった。

「まるで君はこの屋敷に住む亡霊だ」
「ええ、そうかもしれないですね」
 暴かれた秘密に、彼は驚くでも怒るでもなく、どこか遠い過去に想いを馳せて哀しげに呟いた。
「ぼくは父、火織明治が技師に造らせたアンドロイドです。ぼくのオリジナル、火織生明はこの屋敷が出来る前に死にました。というか、オリジナルが死んで、造られたぼくを囲うためにこの屋敷は造られたのです」
 生明の口から吐かれた事実に、僕は確かめるように呟く。
「君が……アンドロイド……」
「オリジナルをベースに造られたぼくは、極めて幸福な生活を送りました。父はアンドロイドであるぼくを愛してくれました」
 殆ど人間のそれも、記憶を探る時は視線を動かすのだと知った。彼は左下に視線を動かし、記憶の中の父を思い出しているようだった。
 その仕草は人のそれとなんら変わらなかった。
「父と共に暮らして十年が経った頃。ぼくは確かに幸せでしたが、父はやはり時折どこか寂しげな表情を見せました。彼岸花が咲く秋には、死んだオリジナルを思い出すのです」
 だから。と、少し掠れた声だった。まるで、感情を詰まらせたようだった。
「だから、ぼくが人になれないのなら……ぼくが父と同じでないのなら、父がぼくと同じになればいい。そしたらもっと……」

「君がアンドロイドだから、毒入りの食事を共にしても、君に毒は効かなかったんだね」
「ええ」
 僕の確認に、彼はまた微笑みを浮かべた。
 一瞬泣いているようにも見えたのに、今ではまた貼り付けたような表情をしている。
「ここにも、毒を入れたのだろう」
 僕は出された紅茶を指差した。彼岸花の毒は水に溶けるから。
 僕の指摘に、彼の顔が強張る。僕がわかっていて毒入りの紅茶を飲んだのだから。
「僕も死なない。君と同じだから」
「……、ま、待ってください……それはどういう……」
 彼は情報を処理しきれないのか、頭に手をやった。
「僕は猫山(ネコヤマ)了太郎。君を造っただろう博士、猫山犬地(ケンチ)の息子にして初代アンドロイドだ」
「そんな……」
 困惑する彼の目から、ほろりと涙が零れおちるのを見た。

 僕は、僕たちは一様に不安を抱いていたのだろう。
 いつかの死が訪れない僕たちは、世界で一人きりになる日がくる。そんな不安を。
 だから彼は主人を殺し続けた。人でなくなり、自分と同じ者を求めて。
「君のしたことは許されない事だが……君の気持ちを僕は誰よりも理解できると思う」
 岩戸見が彼に一目惚れしたのは、彼の中に僕を見たからだろうか。
 岩戸見は僕がアンドロイドであることを理解していた。その上で親友のように接してくれていた。誰よりも心優しい岩戸見。
 岩戸見が彼に惹かれたように、彼も岩戸見に惹かれたに違いない。それでも殺したのは、悲しい秘密のせい。
「もう、これで終わりにしよう」

 事の顛末はそれで終わりだ。
 僕は甘い紅茶を飲みながらその時のことを思い出す。
 六年目の秋を迎える、彼岸花の見えるこの屋敷にて。

終わり


2017/09/24 22:23


▽止むを得ず体育をゆるい半ズボンにノーパンで受けることになった男子高校生の話verB
 ガムテープよりは粘着の弱い、白いテープが一周巻き付けられる。キツくなく、緩くもないが、場所が場所だけに不安になった。
 シュッ、と二ヶ所にそれが着け終わり、養護教諭の逸見(イツミ)は満足気に俺を見た。
「このまま体育、ちゃんと出ろよ」
「あぐっ……」
 ピシッと先端を指で弾かれ、思わず呻く。
 白いテープで二ヶ所、ローターを巻き止められたのは紛れもない自分の性器で、睾丸の下と竿の裏にそれぞれ。重さで傾ぐ自身がなんとも情けない。ワイヤレスのリモコンは逸見が握っており、今は動いてはいない。下着だって、最初に剥ぎ取られてからは、逸見のズボンのポケットにしまわれた。
「……こんなんじゃ出来ません」
 今は昼休み。それが終われば五限の体育では、マラソンで学校の外周を走らされる予定だった。
 普段から体力に自信がなかったが、こんなものを付けて走れるわけがないし、大体見た目にも目立ってしまう。
「はい、こっちのシャツに着替えて」
 逸見はデスクに置いてあったシャツを押し付けた。言いたい事は色々あるが、何一つ聞き入れられないだろうから、俺は無言でシャツに着替える。
 ほのかにする甘い匂いは、逸見が好んで吸う煙草の匂いだった。これは、逸見の私物のシャツなのだろう。
 スポンと頭を出してシャツを下ろすと、丈が長く腿あたりまであった。養護教諭のくせにソコソコガタイが良く、腹筋もうっすら割れている逸見に比べれば、平均身長そこそこの俺はそれはもう惨めな体格差だ。とはいえ、これではあまりにもぶかぶか過ぎる。
「はは、彼シャツみたい」
「彼氏じゃない」
 俺が否定すると、ニヤッと笑った。それから、おもちゃを取り付けられた性器にシャツの裾を引っ掛ける。
「ん……」
「これなら隠れるだろ。まあ、イったら濡れて漏らしてるみたいになるからそれは気を付けろよ」
「そういう問題じゃ……」
 俺が抗議しようとすると、逸見は俺の肩を掴み、真っ直ぐ射抜くように見てくる。
「出来るか出来ないかじゃない。やれって言ってんだよ、オレは」
「……」
「返事は?」
「はい……」
 ゾクッとするような瞳に、俺は震えながら頷いた。

「はっ……はっ……はあっ……はあっ……」
 シャツのついでにと渡された半ズボンも大きく、紐が抜き取られていて緩い。仕方なしにズボンを掴んで走ったけれど、手が滑って落ちたら一貫の終わりだった。
 取り付けられたローターも動いてはいないが、テープが剥がれて落ちてしまうかもしれない。そんな緊張で身体は無駄に強張り、暑さもあって疲れは早々にピークに達する。
 足が上手く動かない。他のクラスメイトたちは、もう二回も三回も追い越して行った。元々体力がないのは知られていた事だから、元気な運動部なんかは通りすがりに「無理すんなよ」なんて声をかけてくれる。
 それなのに俺は性器におもちゃを付けて、何をしているんだろう一体。

 そもそもこんな事になったのは、中間テストで無理をしたのがきっかけだった。要領が悪く頭は良い方ではないが、他に取り柄もない俺はテストの一週間前から夜半まで勉強をして寝不足になり、結局テスト期間中に熱を出してしまった。
 それでも無理をしてテストを受け、最後の試験の直後に倒れてしまい保健室に担ぎ込まれたのだ。
 目を覚ますと保健室のベッドにいた俺は、布団からする甘い匂いに気付いた。頭の奥が痺れるような、トロンとした気持ちになる。テスト期間中抜かなかった事も作用してか、俺は勃起していた。
 また熱がぶり返したように身体が熱くなって、どうしようもなかった。少しだけ、落ち着くまで……俺は布団の中で静かに自身に触れた。
「ん……ん……」
 久しぶりの感覚に、手は止まらなくなる。どうしよう、こんなとこで、でも。
 シャッ。
「起きたかな。調子どう?」
「っ……は、い……」
 突然背中側からした声に身体がビクッと震えた。返した声は裏返りそうなのを必死にこらえた。人がいたのか、いや、当たり前か。
 果てる寸前だった事と、突然声をかけられた事で心臓が耳にあるみたいに、バクバクと煩く鳴っている。
「あれ?」
 ばさり、と無慈悲に掛け布団は捲られた。
「はは、優等生の空木(ウツギ)くんは保健室のベッドでオナニーしちゃうんだ」
「あ……」
 カシャ、カシャ。
「や、やだ、やめてください」
 その音に気付いた俺は振り返り声を上げた。見れば、白衣の男が携帯を構えて写真を撮っている。
「ん? いいよ、やめなくて。ほら、イっちゃいな」
「んあっあっあっだめぇっイ……イくっ」
 大きな手が包み込んで、搾り取るように扱かれ、俺は呆気なく果てた。
「はあ……はあ……んああっだめっえっイったからっっ」
「まだ元気じゃん」
 今果てたばかりの性器をそのまま扱かれる。男の手に出した精液が潤滑油となって、くちゅくちゅと音がした。連続で高められ、俺はベッドの上でのたうち、仰け反り、果てた。二度、三度と繰り返して。
 ようやく解放された頃には出し尽くして、全身がビリビリ痺れるような快感で指一本すら動かせなくなっていた。
 そこでようやく、男が携帯で撮っていたのは写真でなく動画だった事に気付いた。
「お前の弱み、ゲットだぜ」
 俺の人生終わった。そう理解した時だった。

「んああっ」
 ガクンと膝から崩れ落ちて、地面に転げる。舗装されたランニングコースで、膝は擦り切れるだけだった。
「あうっ……んっ……」
 突然、二つのローターが動き出したのだ。それまで少しも動く気配を見せなかったから油断していた。立ち上がろうにも、腰が抜けて動けない。下手すれば腰を地面に擦り付けてしまいそうなくらい、急な快楽に頭がおかしくなりそうだった。
「ふ……う……」
 クラスメイトに知られまいと声を抑え、必死で立ち上がろうとした。逸見もどこかで無様な俺を嘲笑っているに違いない。
 ローターの振動が弱められた。その隙に立ち上がると、また振動が強くなり、俺は再び地面にキスする。
「あっっあ……うっ……」
 気持ちいい。膝が痛い。なにしてんだこれ。惨め。感情がないまぜになって、目頭が熱くなる。キュウッと胸が痛くなって、俺は泣いていた。
 それでも立ち上がって、ガクガクと震える足を堪えて歩き出す。確か残り一周だったから、このマラソンももう終わる。途中何度か転んで膝を痛めながら校門から中に入る。イきそうになると止まるローターがもどかしいし、不意に強く振動するのが意地悪い。
 快感と痛みとその他よくわからない感情で涙が止まらない。もう高校生にもなって、転んで泣いてるようで恥ずかしかった。
「大丈夫か、随分派手に転んだな。保健室一人で行けるか?」
「大丈夫です……」
「よく頑張ったな」
「ん……」
 ぽん、と肩に触れられ、それだけで上げそうになった歓喜の声を必死で堪えて頷く。膝は血が流れて靴下まで赤くなっているのに、痛みより快楽の方が強かった。

「お疲れ、空木。膝痛そうだね、洗おうか」
「うわあっ」
 トボトボと歩いて保健室に入ると、逸見は俺を抱き上げ、廊下に戻される。そのまま水道まで抱っこされたまま連れていかれた。
「あの、自分で歩けます」
 重かったろうに。恥ずかしさもあってぶっきらぼうに言うと、逸見は横でクスクス笑った。
「テストの時、教室から保健室まで運んだのもオレだけどね」
「え……あの、すみません」
「ん? 謝る事じゃないよ」
 空木は背中をぽんぽんと優しく撫でて、膝を洗うように促した。
 俺は片足を洗い場の淵にかけて、蛇口を捻り膝を洗う。流水が傷口を洗い流すと、ビリビリ痛んだ。
「空木が頑張り屋だって、その時知ったから」
 急だった。急にそんな事を言って、逸見は俺の頭を撫でる。どうして今、こんな時にそんな事を言ってくるんだろう。
 ずるい。そう思った。
 報われなかった俺は、急に欲しかった言葉を投げかけられて、治った涙がまたどこから溢れ出てきた。雫はぽたぽたと洗い場に落ちたが、逸見はなにも言わず俺の頭を撫で続けた。

 ほんの少し前まで、シリアスな雰囲気だったのがどこへやら。再び抱き上げられて保健室に戻ると、俺はベッドの上でズボンと靴と靴下をポイポイ脱がされ、足を大きく開かされた。
 情けなく萎えた性器に、ローターが垂れ下がっててみっともない。テープを剥がすと皮が引っ張られて少し痛かった。それを投げるように転がす。
「消毒しようか」
 逸見はベッドの横に座り、俺に消毒液と脱脂綿の入った入れ物をもたせた。手の支えがない状態でいるのは辛く、次第に腹筋がぷるぷる震えていく。それを見て逸見は笑った。
「いいよ、寝そべっちゃって」
 消毒液零さないでね、と支えられてベッドに寝る。下半身を晒して無防備となった自分に羞恥がこみ上げる。
「しみるよ」
「うっ……あっ……あ……」
 逸見が消毒液の染み込んだ脱脂綿を膝にぽんぽんと当てた。ジンとした痛みで身体が震える。
 こんな大袈裟に転んだのは小学生の頃くらいだろうか。それも両膝だ。
「ん……うぁ……」
「ふふ……」
 慣れない刺激に耐えていると、逸見がニヤっと笑った。そういう笑い方をするのはろくでもない時だ。
「本当は消毒、しない方がいいんだよ。皮膚の細胞が壊れて傷の治りも遅くなるから」
「えっ」
 驚きの事実に目を見開くと、それでも逸見は脱脂綿を換えて傷口を再び刺激してくる。
「んんっあ」
「でも、ふふ、消毒で悶える空木、可愛いから」
「っ可愛いからじゃ、ないっ……んあっ」
 反論すると反対側の膝にも消毒液を付けられ、ジンジンと痛みが襲った。
「こんな悶えてくれるとはね」
「はあっ……ん……」
 中々終わらない消毒に苦しんでいると、逸見の手がシャツの裾を握った。
「あれ、空木」
 逸見の視線で俺も気付いた。嘘だ、そんなまさか。
「空木のおちんちんも腫れてるね」
「っちが、違うこれは……」
 引っ張り上げられたシャツから、ぷるんと揺れて出たのはすっかり固くなった性器だった。ローターも止まって治っていた筈なのに。こんなはずじゃないのに。
「あ……嘘、だめ、それ、は、あ、」
 消毒液に浸された新しい脱脂綿が、性器の先端に真っ直ぐ向かっていく。そんなところに、そんな事したら。想像より先に現実が襲った。
「あ……あああっ」
 ぬるっと撫で付けられ、一瞬間を置いて燃えるように熱くなった。
「ああっあああっ」
「あら凄い」
 ちんちんが、俺のちんちんが。痛いのか熱いのかわからず、でも自分の大切なところがおかしくなってしまう。
「汁でぬるぬる」
「んあああっやめっやめぇっ」
 更に消毒液を足されて、俺は仰け反り腰を高く掲げた。
「ああっあっーー」
 ビュルッビュッ。
 頭が真っ白になって、全身を震わせながら甘い快感が駆け巡る。ドサッとベッドに落ちてから、自分が果てたのだとわかった。

「お疲れ空木。明日もおいで、絆創膏貼り替えてあげるから。傷が治るまで、毎日」
 両膝に貼られた大きな絆創膏は、ガーゼではなくぬるぬるとした不思議な粘液で出来ていた。こっちの方が綺麗に治るよ、逸見はそう言いながら貼った。
 そもそも、逸見がローターなんて物を着けたから足がもつれて転んで膝を怪我したのに。
「返事は?」
「っ……はい」
 ひらひらと手を振って見送る逸見に、心の中で舌打ちをした。
 どうせ行かなければ、これまで取った写真や動画をメッセージで送りつけて脅してくるんだ。今だって、おいで、なんて言っておいて実のところ絶対の命令だった。
 うんざりする、こんな毎日に。変態に囚われて、性的に追い詰められて。
 でも、時折見せる優しさとか、温もりとか、俺を理解してくれている素振りとか。ほんの少しの要素に心は強く惹かれた。
 はあ、とため息を吐きながら、俺は明日の事を考えると憂鬱になった。憂鬱で、でも心の奥がゾワゾワと期待に震えるようだった。

終わり


2017/08/28 07:49


▽止むを得ず体育をゆるい半ズボンにノーパンで受けることになった男子高校生の話
 元茂(モトモ)のケツは、肉が引き締まっていてその癖指で押すと柔らかくぷにっとしていて、実に揉みがいのあるケツだった。
 そのケツを追いかけて早15分、体育のマラソンで俺たちは学校の外周にあるランニングコースを、回し車を回すハムスターのように走らされていた。
 目の前にニンジンよろしく、元茂のケツがあるから少しも疲れなど感じず、むしろ、走るたびにケツの割れ目にシワの寄るズボンにキュンキュンと元気を与えられているわけだが、前を走る元茂はそうもいかないらしい。
 走り始めた時からずっと脇腹を抑えていて、時折股を擦るようにぎこちなく走った。
 そう言えば、今日はケツの張りがいつもの3割増しくらいに見える。なんだろう、男の子の日か?ちんこ勃ってる?
 気になりだした俺は元茂にグッと近付いた。3mの距離を保ってきたが、今や30cmの近さにいる。
「元茂」
「ひやっ」
 いつもの如くケツを撫で上げると、いつもの5倍くらいの反応を示した。それもいやに甲高い声を上げて。なんだ、遂にケツを撫でられるだけで感じるようになったか?
 教室が一緒になってからのこの半年、欠かさずケツを撫で続けた甲斐があった……と言うわけではなさそう。
「え、なに、腹痛いの?」
 二、三歩走ると、元茂はその場に崩れ落ちてしまう。心配で駆け寄ると、ズボンのゴムをぎゅっと掴んで蹲ってる。
「元茂? どうした」
「な、んでもない、から」
 ハアハアと息が荒いのは十中八九走っていたせいだろうけれど、俺の事誘ってると思わなくもない。
「なんでもないって顔してない」
「ナチュラルにケツ揉むな」
「ハッ」
 四つ這いになってなんとか立ち上がろうとしている元茂のケツを揉んで俺は気付いてしまう。むしろなんで今まで気付かなかったんだ。
「元茂お前っ」
「うあっばかっ」
 元茂の前にしゃがみ、ずぼっと口の緩いズボンに手を突っ込み直にそのケツを鷲掴みにする。汗ばんだ肉が手のひらに揉みしだかれ、ぐにぐにと形を変える。
「パンツ穿いてない」
「大声で言うなばか」
「やばいよ元茂っ、ほら、ケツの穴が」
「や、や、やばいのはお前だっ」
 手のひらでケツの肉をそれぞれ掴み、横に開かせると容易くその穴が現れて、俺はそこに両手の人差し指を当てた。
「元茂の生アナルっ」
「意味わかんねえからっあ」
 キュンとすぼまった穴を指で擦ると元茂は背を仰け反り小さく喘いだ。エロい、やばい、可愛い。
「はっ、あ、元茂」
「んっんんん」
 堪らなくなった俺は元茂に口付けた。下のお口を指で左右にパクッと開くと、上のお口が驚いてパクッと開いた。舌を入れて元茂の舌に絡めると、穴がキュンキュンと開いたり閉じたりする。
 すっごい可愛い。すっっごい可愛い。
「もうだめだ、犯す」
「は、あ?!」

 初めては夜景の見えるスイートなホテルでロマンチックにって思わないこともないけれど、やりたい時がやる時だと思うし。
 俺は元茂を抱き上げて近くの公衆便所に連れ込んだ。外周ランニング万歳。
 ガタガタ、ガコン。
「おっ、お、落ち着け井崎(イサキ)、お前やばい、顔怖いから」
 トイレの個室に押し込んで、壁に押し付けると怯えた元茂が言った。
「ごめん、俺まじ限界」
「うああ、井崎、ほんと、井崎」
 ゴムが緩いから簡単にズボンを引きずり下ろすと、やっぱりパンツは穿いてなくて、即座にちんこが露わになった。しかも勃ち上がってる。可愛い。愛でたい。愛しい。
「元茂、好きだ」
「……は? ふざけんな、なにいきなり」
「ごめん、ほんと今すぐ犯したいくらい好きだから許して」
「ふざけんなクズ、この強姦魔っア」
 元茂の勃起を握って先っぽを擦ると、腰を引いて声を上げた。
「うん、ごめん、和姦にしよ」
「ならねえよっんああっ」
 元茂のちんこに俺のちんこを重ねて扱く。俺の手大きくてよかった、二本いっぺんに扱けて。このために俺の身体はおっきく育ったんだね、父ちゃん母ちゃんありがと……あ、やべ萎えそ。今は元茂の事だけ考えよう。
「元茂は? 元茂も俺の事好きなら和姦だろ?」
「好きでもこんなん和姦じゃねえよ」
 顔を俯いて俺の身体を押し退けようとする元茂。耳とかこめかみとかにキスをして、なんとか少しでもロマンチックに盛り上げようとした。無理だ、公衆便所の時点で無理だ。よりにもよって和式便所だからロマンスのカケラもない。
「好きなのは否定しないんだな」
「あ……」
 好きでも、って言ったもの。俺が指摘すると、元茂の耳が赤くなっていく。心なしか、手の中のちんこも硬さを増した。あ、俺のもだ。
「元茂、絶対気持ち良くするから。気持ち良くなかったらクーリングオフでいいから」
「も、お前意味わかんねえから」
「じゃあ考えるの止めよう」
「んんっ」

 口を塞いで、深く口付ける。逃げる舌に舌を絡めて、顎を掴んで見つめ合って。とろとろにとろかして、ぬるぬるの汁をこぼしたちんこに指を擦り付ける。カウパーじゃ心許ないけど。
 小さな穴を擦られたのが気持ちよかったのか、目を細めた元茂に愛しさを覚えた。元茂は穴を擦られるのが好きなんだ、きっと。
 尿道はまた今度深くまで擦ってあげよう。今はこっちだ。元茂の後ろの穴に指を這わせると、元茂の身体がびくんと強張る。宥めるように穴をコスコス擦ると、俺の舌をガブリと噛んだ。
「いだっ」
「け、ケツは無理だって」
 怖気付いた元茂が自分のケツを押さえながら後ずさる。
「大丈夫だって、ちゃんと慣らせば」
「無理だって、お前のちんこ、でかい、無理」
 フルボッキした俺のちんこに青ざめる元茂。いや、元茂のよりは大きいけど標準サイズの範疇だし。
「元茂のとそんな変わんないって。ほら、触ってみ」
「いや、お前……っむ、りだ」
「無理無理って、俺のが無理だから」
 ああもうほんと結構辛い。あまりに無理無理言うから、もう我慢も限界に近い。俺は元茂の身体を壁に押し付けて、尻肉を割り開いた。
「っっ井崎だって無理だろ、ケツだぞ、うんこでるとこだぞ、萎えろよっ」
「イケる」
「クソッ」
 淀みない俺の言葉に悪態を吐く元茂。そんな一面もあったんだ。俺は微笑ましさを感じながら、しゃがんで元茂のケツに口付けた。イケる。
「う、あ、ばか、」
 ぬるっとした感触が気持ち悪かったのだろう、震え声で眉間にしわを寄せた。穴に舌をねじ込むと、俺はどちらかといえば興奮した。いや、すごい興奮する。元茂が誰にも触られたことのない穴を舐めてる、エロっまじエロい。
「んあっ、あっ、ああっ」
 たまんねえーー俺は口には出せないがそんな気持ちを伝えたくて、じゅぱじゅぱ音を立てて吸ってみたり、舌を攣りそうになるまでねじ込んでみたりして元茂にアピールした。元茂は膝を震わせて、ばかばかとぼやく。
 ちゅぱっ、と舌を引き抜くと、俺の唾液で濡れた穴が開いている。
「奥までは無理だから、こっからは慣らすより慣れろ、だよ」
「それちが……うあ、あ」
 後ろから抱きしめて、穴にちんこをあてがう。元茂は身体がこわばって穴を締めてしまう。
「元茂、怖くない。ね、怖くない」
「いやお前ぶち犯されてみろよマジでふざけんな」
「大丈夫だって、ちんこなんて骨入ってないんだし入ったところで肉棒だから。つくねと一緒だから。イケるイケる」
「イケるか……ひっい」
 ラチがあかない……そう思った俺は元茂の気をそらす為話しかけながら、穴を両手の親指で無理やり左右に開いた。
「大丈夫、怖くない」
「っそれやめろっおあ」
 ずぬっ、穴に亀頭がめり込む。
「あ……」
 恐怖か驚きか、戸惑っている元茂のケツを犯すのは今しかない。呼吸を合わせて、俺は元茂を貫いた。
「く、う、う、」
「す……ご、元茂、ちんこずっぷり」
「うる、さい」
「穴切れそ」
「さわんな……」
 限界まで広がった穴を指で擦ると、穴がぎゅっとちんこを千切りそうに締まった。
「ああ、もう元茂大好き、一生このままでいる」
「ふざけんな」
 呼吸が落ち着いてきた元茂に、もう大丈夫だろうと思い、俺は腰を動かす。滑りが足りなさすぎて穴が引きつっているから、奥を揺するように。
「んあっ、あっ、あ、」
「元茂のお腹、俺のちんこでいっぱいだ」
 直腸っぽいところを手で撫でる。俺のちんこがお腹かき混ぜてこの上なく苦しそう。ごめん元茂、過去最高に興奮する。
「イくっ」
「早いッ」
 ビュグッ。元茂が叫んだせいで穴が痛いくらい締め付けた。おかげで俺は頭が白くなるくらい、正に果てた。
「はあ……早漏が……早く抜け」
「童貞だから優しくしてよ」
「童貞……」
 心なしか、俺が童貞だったのが嬉しそうな元茂。元茂も童貞だから、童貞仲間が嬉しいんだろう。俺の童貞、元茂に食われたわけだけど。
「俺の精液でなか滑ってるだろ。このままやろ、多分もっと気持ち良くなるはず」
「曖昧すぎ」
 ずるっ、ずぬっ、ずっ、ずぶ。
「んっふ、あ、ああっ」
 ずっ、ぱん、ず、っぱん。
「はあ、やべえっ、俺、元茂犯してる、最高、やばい」
「うるさい、あっあ、おれは、あっ最悪っ」

「ケツ痛い」
「舐めてあげようか」
「きっっっしょ」
 抜かずに4回、5回と繰り返して、鐘の音で我に返りちんこを引き抜いた。開いたままの穴から垂れ落ちる白濁が卑猥。この穴、俺のちんこが犯したんだよな……そう考えるとまた興奮してしまう。
「おいもうやめてくれ」
「我慢します」
 元気になってしまった俺のちんこを見て元茂が嘆いた。俺はドアの鞄かけに掛けておいた元茂のズボンを取り、元茂に穿かせる。
「今日なんでノーパンだったの?」
「……朝穿き忘れて」
 つまるところ、寝るときはノーパソと言うことなの?
「……今度うち泊まる?」
「いや昨日は暑かったから」
 よし、暖房入れて寝よう。
「泊まらないからな、絶対」
「お泊まり会しようよ。夏休み入ったら、二週間くらい」
「……死ぬ」
 いや、俺だって二週間毎日はしない……と思うし。
「お前これ強姦だからな」
「いやいや、和姦でしょ。俺は元茂が好き、元茂も俺が好き」
「どうだか」
「えー」

 そのあと、腰が立たない元茂を背負って戻って、体調が悪い元茂を休ませてたという言い訳で授業をサボったことはお咎めなしとなった。

終わり


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2017/08/28 07:49


▽ee
 思えば最初から、彼女の目は僕を向いていなかった。
 僕が視線で彼女を追いかけるように、彼女もまた、そいつを目で追っていた。
 それに気付きもせず、近付き、仲良くなろうと努力してしまった、悪いのは彼女ではなく彼女に恋してしまった僕だ。
 彼女ははっきりと口に出しては言わないけれど、穴が開くほど見つめてきたのだから、いい加減理解してしまう。
 窓の外に彼女を見つけて、無意識のうちに追いかける。
 セミがうるさい。空気が暑い。彼女が恋している、光月(コウヅキ)が憎い。
『なあ、セックスさせて』
『良いよ』
 きみのことは大嫌いだけれど、彼女をどうやって抱くのか、参考にさせてよ。

「ニノ一(ニノイチ)」
 誤算があるとすれば、だ。光月は執拗に僕を呼んだ。もっと、甘くて可愛い声だったらいいのに。光月は熱っぽい声で、吐息混じりに耳元で、何度も僕を呼んだ。
 ガタガタと机が鳴る。狭いそこに僕は押し倒され、足を開かされ、汚い穴を舐められる。足の付け根や玉の裏にキスをされ、彼のフェチズムが窺い知れた。
 こんなにも変態だ。
「悪い、抑えられない」
「う……あ……」
 呻くように言って、熱が僕を貫く。痛みはなかった。苦しくて、口から何か出て行きそうだ。
「ニノ一」
 あるいは縋り付くように、彼は僕を抱き、獣のように腰を振った。内臓が押し潰されて目眩がしそうだった。彼は何度も僕を呼んだ。
 『好き』の一言もない。僕の名前だけをひたすらに、思い乗せ名前呼び風セックスとでもいうように、何度も、何度も。
「ニノ一」
 ぽたぽたと垂れ落ちるものが、一瞬涙に思えた。僕のか、光月のか。それは上がりすぎた体温のせいで光月が垂れ流した汗にすぎない。
 光月は目に入る汗を何度も拭う。泣いてるみたい。必死になって。僕がそんなに好きか。
 僕の事が好きか。


 この世界に目眩がする。頭が重くずしりと痛い。
 僕は光月に敵いはしないと絶望した。僕を愛する光月に、僕は敵いはしない。
 今でも名前を呼ばれているようだった。深くまで突き立てられた穴がジリジリと疼く。手の触れたところ、指の撫でたところ、吐息が、汗が、匂いが、頭から離れてくれない。
「やめてくれ……」
 目を瞑ると浮かぶ光月に文句を垂れる。僕の気持ちなんか御構い無しに、僕を愛した。
「やめてくれ」
 手で目を覆っても、顔を洗っても、何度寝返りを打ち、枕に八つ当たりをして、何事かを呻いたって、僕の頭の中に居座る光月は消えてくれなかった。
 僕はその日から光月を避けるようになった。幸いな事に夏休みが始まり、家から一歩も出なければ彼に会う事もない。
 学校が始まってからも、高三の僕たちに残された時間は残りわずかだった。何度も視線を感じたが、確かめる事もしなかった。
 やがて、その刺さるような視線もなくなる。僕はそれが少し寂しくなる。


 何事もなかったかのように日々は過ぎ去る。
 メールで、高校の同窓会の連絡が来た。ずいぶんお手軽な世の中になったものだ。事務連絡のような文面に日時と会費、参加の出欠を答える締切日。
 メールをくれた相手が誰だったのか、顔も思い出せない。
 僕がまともに思い出せるのは一人の事だけだった。思い出すどころか、忘れられなかった。
 耳の奥に残る声が今でも繰り返し響いた。時が経てば経つほど、それは強くなっていく。これじゃあ心を病んだ妄想だ。それでも君は、僕を愛するのをやめない。
 いないはずの彼の指が僕をなぞり、あるはずのない熱が僕を抱きしめる。おかしくなる。それを振りほどいてハッと目が覚めて、ベッドの上の僕はさめざめと泣いた。
 僕は同窓会に欠の返事を送り、携帯の電源を落とす。
 彼は今、どんな事を思い、過ごしているのだろう。
 僕は彼の中で、どんな記憶だっただろうか。たった一度だけの美しい記憶か。それとも二度と思い出したくもない、嫌な記憶か。
 僕は忘れられるものなら忘れたかった。でも、一度も忘れられない。

「なあ、セックスさせて」
 どこが会場かなんて知らなかった。地元から出ていない僕が、地元で同窓会をする彼らに出会ってしまうのは十分あり得ることだったのだろう。
 それでも、強い力が僕の腕を掴み、何度も頭の中で繰り返された言葉がまた、僕の鼓膜を震わせた。それを運命だと思っても、仕方のないことじゃないか。
「良いよ」
 これが僕らの符合なら、ロマンスのかけらもない。笑ってしまうくらい直球こ言葉が、僕は嬉しい。

 頭の中で僕を抱く姿からは、逞しく大人になった彼が僕を包み込む。
 表情や声だけはそのまま、僕を呼んだ。泣いてしまいそうだ。僕はずっとこの時を望んでいたのだ。
「なあ、俺たち……」
 光月がこれからどんな言葉を言おうと、僕はきっと、良いよと答えるのだろう。
 僕を見つめる光月が、幸せそうな表情をした。僕は、そんな君が好きだから。

終わり


追記
2017/08/19 00:12


▽e
「なんで、良いなんて言ったの」
 馬鹿だなあ、という言葉は口にしなかったけれど、伝わったらしい。横たわるニノ一(ニノイチ)は、泣くような、笑うような顔をした。

『なあ、セックスさせて』
 後付けの、理由にもならない理由はたくさんあった。クーラーが地味に効いてなくて暑いとか、窓の外でセミが鳴いてやかましいとか、もう明日から夏休みが始まって、コレが過ちだったとしても九月まで顔を合わせることがないとか。
 でも、そんな全ての理由じゃ説明できない「ニノ一とセックスしたい」と言う感情は、出会った時から俺の頭の中を支配していた。
 きっとこれが一目惚れと言うやつで、ニノ一のケツの穴に惚れた、いや、掘りたいとか、笑えない冗談を誰にも言わずにずっとずっと、心の中で噛み潰してきた。
『良いよ』
 グラウンドからの照り返した陽射しでだろうか。窓際でぼんやりと外を眺めるニノ一は通常の三割り増しで眩しく輝きながら呟くみたいに答えた。セミがセックスしたいと叫ぶ声で掻き消されてしまいそうなほど、小さな声で。
 だから俺は最初理解できなかった。冗談に取られても良いように、頭の中で沢山会話のイメトレをしたというのに、どうだろう。俺は、ニノ一が頷くパターンの会話なんて微塵も想定していなかった。夢の中でさえ、俺が言って、ニノ一が嫌悪の表情を浮かべる。そんな悪夢から汗だくで目が覚める。それほどに、予想だにしなかった。
『……やった』
 良いの?という言葉を飲み込んで素直に気持ちを吐いた。良いの?なんて確認を取って、やっぱり、だなんて冗談にされたらたまらないから。
 理解してからの俺は早かった。逃さないようにニノ一を抱きしめて、キスして、服を脱がせて、穴を舐めて、それからセックス。机に押し倒してセックス。ぎこちない動きを笑う暇もないくらい、夢中で犯した。眉間に少ししわを寄せて、痛みではないなにか違和感や嫌悪感だろうか、そんな表情も悪くないと思えた。
 ポタポタと汗が垂れ落ちる。グラウンドにいる野球部には負けるだろうけれど、激しい運動に汗が止まらない。目に入って見えなくなるのが嫌で、顔を何度か擦った。そんな俺をニノ一は笑った。俺もつられて笑い、ニノ一の中で果てた。

「僕の好きな子がね」
 五年という歳月は俺たちを大人にした。セックスはたった一度きりで、夏休み中も、夏休みが終わってからも、会話どころか、顔を合わせる事もなくなった。俺は視線でニノ一を追ったが、目が合うこともない。過ちだったとしても無かったことにできる計画は大成功だったようだ。けれど、俺にはとても無かったことにはできない。いつまでもわだかまり、つかえてギリギリと痛む。
 これが恋だとか愛だとか、どうして誰も教えてくれないんだろう。知っていたら俺は、もっと大切に出来たはずなのに。
「光月(コウヅキ)のこと、好きだったんだよ」
 何も無かった俺たちは何事もなく卒業し、別々の大学へ進み、バラバラの将来を生きた。俺は時折、ニノ一の事を思い出したけれど、ニノ一は俺のことを思い出してくれただろうか。
 きっと無いんだらう、そう思うとツキンと胸が痛む。
「だからセックスしてみたかった」
 再会は突然だった。大学を卒業した頃、高校の同窓会に呼ばれた。何かを期待して出席したのに目当てのニノ一はいなかった。
 いたところでどうだろう、なにを話せただろうか。頭の中で様々なパターンを思い浮かべたところで、目も合わさず会話も出来ず、ちらりともこちらを見ないニノ一の背中を見つめるだけの俺が、想定のオチとなっていた。
 だから、ニノ一の背中を見つけた時は混乱した。妄想が形になってしまったのだから。これは本当の事なのか、それともとても人様には言えない悲しい妄想に過ぎないのか。
 雑多なビルの群れの中、少し成長したスーツの、肩幅のたくましいあの背中がニノ一だと気付いた瞬間肩を掴んで声をかけていた。
『なあ、セックスさせて』

「じゃあどうして今日も、良いと言ったの」
 あの夏の日が当てつけだと言うのなら、今日のこの日はなんなのだろう。
 街の喧騒の中、掻き消されてしまいそうなニノ一の言葉が吐き出されたその時だけ、他の音なんて一切聞こえなくなった。それがどういう意味なのかはわからないけれど、その事がなんとなく俺は嬉しかった。
「どうしようもなかったんだ」
 泣きそうな、嬉しそうなニノ一は、ひとしずくの涙を零した。ニノ一の手が俺の頭を撫でる。髪の毛伸びたね、と口にするのは、あの日の俺を思い出したからだろう。
「僕を抱く君のどうしようもなく幸せそうな顔が、忘れられなかった。その光月が、あの時と同じ顔で、言葉で、また僕を求めたんだ」
 他に言葉なんて思いつくもんか。冗談みたいに笑った。それから泣き出した。
「やった」
 素直に気持ちを吐き出すと、ニノ一は微笑む。俺もつられて笑った。きっとこれが恋だとか愛だとかに違いない。
 もう手放すものかと、俺はニノ一を抱きしめる。もう夏休みを理由に、無かった事になどしないから。
「なあ、俺たち付き合おう」
 俺の言葉にニノ一は、いつものように答えた。
「良いよ」

終わり


2017/07/28 07:22


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