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ちょっと吐き出す物語


▽リア爆
「おれさ、いつもここから、窓から外見て、手繋いで帰ってるカップルども見て腹たってたんだけど、なんでかなって今気付いた」
 午前中、滝のように降っていた雨が上がって、今はすっかり日が差して暑すぎるくらいだった。
 窓枠に腕枕して外を眺めて、ぼんやり、ぽつりと思いついた事を少しずつ口にしていく。
 俺はそれを横で、静かに聞いた。
「おれはさ、きっと一生誰にも愛されないんだって思ってさ。誰とも手を繋げないし、キスもできないし、好きだって言ってもらえない。愛してもらえない」
 こんな悲しいことってない。
 消え入りそうな声が、微かに耳に届く。
「俺はお前となら、地獄の底にだってついて行くよ」
 ジリジリと照りつける日差しで、もともと白い肌が眩しくて消えてしまいそう。
「それは愛とは言えない?」
「どうだろ……愛なんてよくわかんないよ」
 腕に顔を埋めて、少し赤い耳は日焼けした、なんてオチではなさそう。
 夏も目前の、ある晴れの日に。

終わり


2017/06/22 02:10


▽死んだら。
「死んだら終わりだってみんな言う。しばらく覚えてたっていつか忘れるし、もうそこから先はないって。でも君だけは、俺が死んでも愛してくれるって言う。死んだ後も変わらず愛してくれる。だから俺は時々、ああ、早く死にたいなって思う。そうしたら、君だけが俺を愛してくれる。君の愛だけに包まれるんだ」
 うっとりとして夢物語のように語る彼に、僕はほほえんだ。
 この、ドロドロに溶けた蝋のような感情を「愛」と呼んでくれるのは彼だけだ。
 この「愛」が彼を雁字搦めにする事を望むと言うのなら、僕は喜んでそうする。
 僕たちの「愛」は、死んでから始まるって、そう思わない?


2017/06/08 00:55


▽お前が死んだら
「お前が死んだら、俺はどこで生きてきゃいいの」
 ベッドの上で色んな線に繋がれて、定期的な電子音と水滴の落ちる音の中、人工呼吸のマスクは微かな命を紡ぐ。
 施設育ちの俺を拾って、過ぎるほどの愛を注いでくれた。
 俺の感情はザルみたいで、その愛情の殆どを受け取りもせず無駄にしてきた。
 今になってそれをかき集めようとしたって、覆水盆に返らずだ。
「稲瀬(イナセ)……」
 初めて会った時から呼び捨てて、生意気だと笑われた。でも、呼ぶたびにくすぐったい視線を向けてくるのが嫌いじゃない。
 喧嘩をした時もあった。俺が馬鹿なばっかりに、一人で怒って喚いただけだ。そんな時でも名前を呼ぶと、変わらず優しく見つめてくる。それが苦しくて、嬉しかった。
「目を開けろよ……」
 まだ生きてる、死んだわけじゃない。でも二度と目覚めないかもしれないと言われた。
「置いてくなよ……」
 酷い。こんな酷い話はない。
 稲瀬が俺にくれたものは、稲瀬しか俺に与えられないものばかりだ。稲瀬なしじゃ生きられなくなったのに、もういなくなってしまうかもしれない。
 安らかな寝顔が腹立たしい。頭の中で、夢の中で、幸せに生きているのかもしれない。
 だったら俺もその夢の中に連れて行ってほしい。俺はお前の中で生きていたい。
 そこにしか、居場所なんてない。
「稲瀬……」

 定期的な電子音と、水滴の落ちる音が眠気を誘う。ここで眠れば、稲瀬の夢の中にいけるだろうか。
 微睡みの中、頭を優しく誰かが撫でた。これは夢か、それともーー

おわり


2017/05/29 02:07


▽しんぱいしょう
夜が怖かった。
得体の知れない闇が僕を覆い隠すと思った。
それを怖いと口に出すことも怖かった。
人に笑われるだろうと思った。
僕の闇はどんどん深くなるだろうと思った。
君は言った。
「怖くてもいいんだよ。
怖くてたまらないなら、怖くなくなる方法を探そう。」
僕たちは怖くなくなる方法を探した。
扉は閉めておこう、闇が入ってこないように。
布団は綺麗に敷いておこう、朝まで安らかに眠れるように。
明かりは消しても平気かい?
消す瞬間には目を瞑るから、この闇は僕の恐るそれではない。
最後に手だけ繋いで。
もし闇に呑まれても、この手がすくい上げてくれる。
だから僕は夜が怖いけれど、怖くなくなった。

でも、君の手がいつかなくなったらどうしよう。

新しい「怖い」に、僕は目を瞑って耐える。
左手のぬくもりを忘れないように。


2017/02/06 22:20


▽生まれて来なければ
生まれて来なければよかった。
生きるのがつらい。
無性に苦しい。
心臓がゾワゾワとして、喉が痒くなって、目頭が熱くなる。
生きていたくない。
それなのに生きていたい。
生きるのがつらい。
でも生きていたい。
矛盾が気持ち悪くて吐きそう。
吐いて死んでしまえばいいのに。
死ぬなんて出来ない。
死んだら困る。
生まれて来なければよかったのに。
そうしたらこんな苦しくなかったのに。


2017/01/21 00:28


▽もうこの世界のどこにもいない君へ。
君がここから消えるのを待っている。
夢にも出て来ないでよ。
目が覚めた時に泣きたくなるから。
夢から覚めたくなくなるから。

君がここから消えるのを待っている。
僕の中の君が。
この世界のどこにもいない君が。
ここから消えるのを待っている。


2016/12/08 06:32


▽ことは
かっこいい言葉、素敵。
難しい言葉、頭良さそう。
でも、そんな言葉知らない。
胸に突き刺して、苦しくて、息も出来ない。
そんな言葉を吐きたい。
僕の知っている言葉が、吐いた言葉が、君の心臓を貫いて、殺してしまいますように。
脳に刻んで、忘れないように。
「君には無理だろう。そんな言葉吐けやしないだろう。君の言葉はいつだって優しい。傷つけようと鋭いナイフのように磨いても、ほどけて溶けて広がって、最後は包む愛のよう。君には無理だろう」
僕の胸ぐらを掴んで噛み付くみたいに君が言った。
ああ、僕には無理だ。
君のように心臓を貫く言葉、僕には無理だ。

終わり


2016/12/06 00:16


▽よるひつじ
「最近、よくねむれないんだ。なにかしたいわけでも、読んだり食べたりするわけでもない。ねむくないわけでもない。本当はねむりたい。でも、ねむれないんだ」

夜の帳が下りて、外は真っ暗です。時折輝く星も、僕の目には見えません。

「それで……それで、気付いたんだ。不安なんだよ。ねむってしまったら最後、明日目覚めた時に、誰からも必要とされてなかったらどうしよう?って。君なんかいらないよ、この世界のどこにもいらないよ。そうなっていたらどうしよう?そう思ったら、不安でねむれないんだ」

月も星もまたたいて、ねむたそうにしています。僕だってねむい。だれだってそうです。

「だから、なにかできるんじゃないかとか、こうしたら明日も必要としてもらえるんじゃないかって色々考えて、考えて、考えるんだけれど、結局なにも出来ないで、朝が来てしまうんだ」

だから今日は早くねむりたい、そう思うのに、僕はむだねむれません。

『それならボクが君の不安を食べるから、目をつぶって。大丈夫、ボクがいるから』

そう言って彼は僕の目を閉じさせました。彼は僕のまぶたにひとつずつ、キスを落とします。もこもこの毛糸のように柔らかくて温かくて、僕はいつのまにかねむっていました。
気がついたのは、すっきり目覚めた朝でした。

おはよう、おやすみ。
ひつじと眠ろう。







?( ? )? <なんだこりゃ


2016/11/14 23:12


▽書けども
書けども書けども満たされる事はなかった。
いつまで続くのだろう。
どこまで書けば終わるのだろう。
これは素晴らしい出来だと慢心することもできない。
なんてつまらない話だと嘆いている暇もない。
書けども書けども、心は干からびて枯れてしまうようだった。
この血の一滴まで絞り出してなにもなくなっても、満たされないのだろう。
それを思えば憂鬱で、それでも書くことを辞められない。
もはやこれは依存だ。
治ることのない病だ。
終わりが来るまでに、一つでも多くの話を書いていたいと願う。
眠れない夜にまた一つ、文字を、言葉を書き連ねつつ。


2016/11/03 23:47


▽来来来世
「君が死んだって、世界は何も変わらないよ」
月の下、高いビルの上、吹きつける風に君の髪がなびいた。
「僕が生きてたって、世界は何も変わらないさ」
憂いを帯びた笑みを浮かべる。
影と光のコントラストで、とても絵画的だった。
「それに、世界を変えたいわけじゃない」
君は空の月を見上げた。
「もしも来世で出会えたら」

きっと君と幸せになりたい。

君はそう言って、夜に溶けた。

終わり


2016/10/18 22:20


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