onelog
ちょっと吐き出す物語


▽ゲーノージン
 まじかよ。第一線で活躍する先輩アイドル達が未成年との不祥事で取り沙汰されているのをテレビの報道で知り絶望した。
 もうあれだな、ほんと、良く知らないやつと酒は飲むべきじゃあないな。

「ショウ、お酒溢れてるよ」
「んんん……ふあ、ん、」
 世界がぐるぐるして楽しい。
 小学生の時からの友達、陽太と酒を飲んでへろへろになる。
 陽太がオレの唇を指で拭った。溢れたって言われたそばからまた酒を煽り、ぼたぼたと垂れ落ちていくのを感じた。
「ん、あちゅ、あちゅい……」
 顎から喉を滴り落ちる酒の跡を指でなぞる。なんだかそこが熱くて痒く感じた。アルコールのせいで体温も高い。身体がぶよぶよの膜に覆われたみたいで掻き毟ると、陽太がオレの手を掴む。
「ダメだろ、アイドルなのに傷がつくぞ」
「んん、やあ……」
 腕が頭の後ろに一纏めに拘束され、ソファーに押し倒される。酔っ払っているから、振り払おうとしたって右手一本で制されてしまう。
 陽太の空いた方の手が首筋を撫でた。冷たくて気持ちよくてぶるりと震えた。陽太はそのままぺろぺろと首筋を舐め始める。
「んん、あっ、あ、や、やら」
 くすぐったくてもどかしい。跡が付かない程度に吸い付かれ、優しすぎる刺激に首を振った。
「はは、かわいそ、酒飲みすぎて勃起も出来ない?」
「あっん、」
 ズボンの上から股間を優しく握られる。思わずびくんと身体が跳ねた。半勃ちのそこは確かに、それ以上硬くなりそうにもない。
「よ、た、よーた、ちんぽやだあ、おねがい」
「おねがいってなに? もっとしてほしいの?」
「ちがう、あっ、あっあ」
 ズボンとパンツが適当に下され、半勃ちの性器が露わになる。外気に晒されてキュンと縮こまると、陽太はそこにもキスをした。
「やだ、あっ、もれ、ちゃうっんんん」
「小便? 漏れちゃうの? いいよ、ちょっと待って」
 ひんひん声を上げて訴えると、陽太はオレの上から退いた。トイレに行かせてもらえるのかと思ったら、そうじゃなかった。
「いいよ、小便そこでして」
「やだ、しない、なんで、なんで」
 うろたえて首を振り、ソファーから降りようとすると、陽太の手が首元を掴んで抑えた。ヒッ、と息が詰まる。
 陽太はハンディーカメラを手に持って、オレを撮影していた。
「可愛いファンに囲まれて、歌って踊れるアイドル様のショウくんが、今からお漏らしします。ね? ほら、していいよ」
「やだっ、やめろ、止めて」
「ショウ、キスしてあげる。酔っ払うと甘えたで泣き虫になるショウくんはキスされんの好きだもんな」
「知らな、う、んん」
 陽太が覆いかぶさってキスされる。陽太の舌が舌の付け根を撫でて、絡んで、噛まれて、頭はぼーっとしてしまう。
「ショウ? 俺のキス気持ちいい?」
「ん、あ、あ」
 唇が離れると、とろりと唾液が糸を引いた。もう熱が名残惜しくなる。
「ちょっと待って。うん、いいよ」
 陽太はカメラをソファーの肘掛に置き、オレの後ろに回った。身体を起こしたオレの顔を横に向けさせ、またキスしてくる。
 ちゅくちゅくと音を立ててキスする一方で、股間を撫でられた。敏感な先端を指の腹でこすられ、びくびくと身体が跳ねる。
「ひぎっ」
 小さな穴に爪を立てられ、痛みに小便をちびる。
 そこからはなし崩しに、放尿してしまう。酒をたくさん飲んだのもあって、長く長く続いた。
 半分泣きながらキスしているから、すごくしょっぱかった。


 ガンガンと痛む頭に、目覚めは最悪だった。柔らかいベッドに窓から陽光が差し込む。二日酔いさえしていなければ、小鳥がさえずるさわやかな目覚めだったのに。
 いつのまに着替えたのか、陽太の家に置いてあるオレのシャツとトランクスをはいていた。オレが持ち寄ったものではなく、頻繁に泊まるオレのために陽太が用意したものだけれど。
「あたまいたい……」
 こんな朝は、陽太がシジミの味噌汁を作っていた。絶妙な塩加減と、味噌の匂いがちょうど良い味噌汁だ。
 オレはそれを期待してリビングの扉を開けて、息を飲んだ。
 部屋が薄暗いのはカーテンを閉めて電気を消しているからだ。
 部屋中に響く音は音質が悪く、最初はよくわからなかった。
 顔が引きつったのは、壁一面に映し出された映像のせい。
 ソファーの上で大股を開いて陽太とキスをしながら、とめどなく放尿している自分の姿。
 それを、該当のソファーに座って眺める陽太の後ろ姿が目に入る。
 気づかれないようそっと近付き覗き込むと、右手でソファーを撫で、左手でシコシコと忙しそうにしている。
 なんと言葉をかけたらいいのか、言葉を失ったオレは呆然と立ち尽くした。
 気付いていない陽太は上ずった声を上げた。
「ショウ……ショウ……っく、」
 バコンッ!
「いいってえ?!!」
 何故だか凄く腹が立って、そこにあった煎餅の入っていた銀の缶で陽太の頭をぶん殴る。
「この……くそ変態野郎! ばか! 馬鹿!!!」
 ばこばこと叩くと、缶がひしゃげていった。痛い痛いと言う陽太がしばらくしてようやくオレの手を掴んだ頃には、缶の蓋が凹んで外れて閉まらなくなっていた。
「なんでっなんでこんなもん……おまえ、これどうするつもりだよ!?」
 まさか週刊誌にこのデータ送るとか脅すつもりなのか?せっかく最近ようやく軌道に乗ってきて、ツアーだってこの夏に始まるっていうのに。それなのに!
「安心しろって、大丈夫だから」
「うあっ」
 無理やり引っ張られてソファーに座らされる。なにが大丈夫なのか知らないが、壁の中のオレはようやく放尿を終え、意識を失うように眠っていて、動画はそこで止まっていた。
「消せよ、こんなもん、今すぐ」
「落ち着けって、どこにも出すつもりないし。いいだろ、恋人にしてくれとか言うわけじゃないし」
「じゃあいいよ、とか言うわけないだろ……?」
 話の通じなさに頭を抱えていると、陽太は脇に置いてあったカメラを手に取り操作しだした。消してくれるのか?なんて一瞬期待したオレはとんだノーテンキ野郎だ。
「それにいいだろ、今更、これくらい」
「これくらいって……え……」
 再び壁に映像が映し出される。さっきとはどこか違うけど、オレは酔っ払っていて、ズボンとパンツを半分下ろし、性器を握っている。
『あ、あー、あー、きもちい、きもちいよ』
『ショウ、これ使いなよ』
『なあに?』
『オナホ。新品だから』
『ん、ん、』
 全く記憶にない映像だった。しかも、着ている服が違うから明らかに違う日に撮ったのが伺える。
「なん……だよ、これ……」
 映像の中で気持ちよく喘いでるオレは早送りされ、また違う服装になっていた。今度は、陽太が後ろからオレを抱きしめ、性器の先端に棒を差し込もうとしている。
「毎回全然覚えてないんだよな。でも、だから証明になるだろ、俺がこれを他の誰にも見せるつもり無いって」
「……い、いつから、いつからこんなの」
「いつからって、そんなの。成人式の時に一緒に初めて酒飲んだろ? あの時から毎回、飲むたびに」
「……」
 オレは絶望した。陽太の変態趣味にじゃない。
 毎回こんな目にあっても記憶を失っている、自分の酒癖の悪さに。
 こんな事実目の当たりにしたら誰だって言うだろう。
「……だめだこりゃ」

終わり


2018/06/11 06:05


▽あなるせっくす
「や、やめろ、やめろ園生、無理だ、無理だから」
 友原(ともはら)の声が震えていて、怯えているのがわかった。それでもおれは止められなくて、壊してしまうとしても、どうしても友原を犯したかった。
「だから、ゆっくり慣らすから、友原、やめられないよ……ごめん、ごめんね」
「っ……わけわかんね、うっあ、やめろ、そこ、変っ……」
 ベッドにうつ伏せに押し付けて、両腕を背中で束ねて掴む。友原の腕が細いのか、おれの手が大きいのかわからないけど。
 ズボンを脱がせて柔らかいケツを割り、ローションまみれの指を穴に入れた。どこか触れちゃいけないとこに触れたんだろう。友原の声が上擦って、甘く溶けたからおれはそこを執拗に撫でた。
「あっ、あっ、やめろ、やめろっあっああっあああっ」
 指をぎゅっと締め付けて、友原は背中をのけぞらせる。中が蠢いて、中イキしてるんだと理解した。
「友原、気持ちいい?」
「は、あっ、やだ、やだっ」
 指を増やしてずぷずぷと抜き差しする。嫌がる友原が何を嫌がっているのか、それは与えられる快感が怖いからだ。
「友原、指増やすたびに一回イかせてあげる。四本入ったらおれのちんこ入れよう。大丈夫だよ、友原。友原だって気持ち良くしたいから」
「はっ、あ、園生……園生っ……や、あ、あ」
 二本の指で前立腺を挟み、ごりごり擦ると腰を振って喘いだ。可愛い友原が可愛くて、イってるのにやめてあげられない。
「は、あ、友原、早く入れたい……可愛いよ、友原」
「うっ、あ、きつい、きつ……いっ」
 三本目の指は友原の穴には確かにきつかった。ギリギリの穴が切れそうに引き伸ばされている。
「んっあ……」
 一旦引き抜くと甘く喘いだ。おれはローションを中に注ぎ込み、再び指をあてがう。
「おれのちんこでかくてごめんね。でも友原の大好きなおれのちんこだよ。早く入れてあげるから」
「はっあ、っあ、」
 掴んでいる腕がビクビクと痙攣している。またイったらしい。いや、ずっとイきっぱなしなのか。
「友原、あと一本入れたら、もう、おれの入れていいよね」
「ひゅっ……いよ、も、いれて……」
 友原のちんこからカウパーをびゅるびゅる溢れさせた。ベッドがぬるぬるになって、そこにちんこを擦り付けてる。
 いやらしく腰を振る処女の友原を、童貞のおれが犯すんだから、興奮もひとしおだった。
「うっ……くあっ、きつ、いっい、あっ」
 穴に親指をねじ込ませると友原が呻いた。
「友原、おれのちんこ、そこまで大きくないかも」
 指で無理やり穴を開いて、そこに亀頭をあてがう。尿道が人より少し開き気味の、友原が大好きなおれのちんこ。
「ごめんね」
 でも大好きでしょう、友原。
 おれも大好きだよ、友原。
「あっっ……くうっあっ……」
 ズブズブと奥まで入っていく。柔らかくて熱い内壁が隙間なくおれを抱きしめる。
「はっあ、あ、友原、友原ぁっ」
「うあっあっ深いっあああっだめっあああ」
 深いとこまで友原を犯す。ズブズブ入り込んで、でもまだ、まだ奥まで。つかえたら少し下がって押し上げて。
「ひうっ、あっ、はっ、はっ……あっあっっ」
「友原、もうすこし……奥」
「ひっっっ……」
 奥に壁があって、亀頭がこつんと当たる。二、三度ノックして突き上げると、狭くて小さい穴が亀頭を飲み込んだ。
「友原?」
「あっ……あ……」
 友原の身体から力が抜けていくのがわかった。手を離してもぴくりとも動かない。
「友原」
 すごく可愛い友原のうなじにキスをする。
 狭い穴に亀頭を擦り付けるみたいに何度も何度も動かした。友原も気持ちいいらしくて、その度にちんこからびゅるびゅるとこぼしている。
 気持ちいいんだ、良かった。おれは安心して腰を振り、友原の一番深いところに射精した。
 びゅるびゅると友原を満たしているのが感じられて、幸福感に包まれる。
「友原、もう一回」
 繋がったまま友原をひっくり返すと、声になっていない声を上げた。
 友原のみっともない顔ったらない。よだれを垂らして半目になって、舌も出てる。
 射精してるのかと思ったら、友原が出してたのはおしっこだった。びゅるびゅると繰り返し零している。
 尿道を指の腹でぐりぐりすると、小さく喘いだ。友原も尿道好きなんじゃない?おれに使ったビーズ、入れてあげようか。
「友原、もう一回」
「しんじゃ……」
「大丈夫だよ、友原、おれのこと可愛いでしょ? だからもう一回、ね、友原」
 大好きな友原、おかわりで。

終わり


2018/05/06 10:29


▽にょうどうびーず
「ああああっ無理だからっむりだからっあ」
「いやいや、いけるでしょ」
 つぷん、つぷんとひとつずつ、愛を込めて丁寧に、小さな穴に入れていく。
 園生(そのお)の尿道はいま、小さくて丸いビーズが詰められていた。
「ひいっひいいっ」
「大丈夫だって、小ちゃいやつだから痛くないだろ? ほら、な?」
「くううっん、ん、」
 痛みはないだろうに、パニックを起こして泣きじゃくる園生の亀頭を指で撫でてやれば、くうんくうんと犬みたいに鳴いた。
 俺の手の中で震えるのは、極悪な程強大なちんこ。それに見合った園生の身体も180を優に超え、タッパもある。
 でかくて硬くてイケメンの、園生が小さくなって咽び泣いているのが可愛くてたまらない。
「な、園生。全部入ったよ」
「ううう、うそ、うそだ……」
「ほんとだって。ほら、自分で触ってみろよ」
 園生は俺にしがみついているから、自分のちんこがどんなことになっているのか見えていない。
 園生の左手をちんこに導いてやれば、耳元でアンと喘いだ。
「んー? 園生くんちんちん勃起してて痛いのかな? 一回抜いてあげようか」
「ん、ん、お願い、抜いて……」
 結構馬鹿にした言い方したと思うけど、ちんこの事で必死な園生は気付かないどころか甘えてきた。
「いいよ、抜いたげるね。ほら、園生も手、重ねて」
「え、あ、うっん、あっ、ああっ、ん、ちが、ちがうっ」
 俺は園生の手ごとちんこを握って上下に擦った。気持ちよさそうに喘ぐ園生は、首を振って違うと訴えた。
「ちがうっ、ああっ、ちがうっん、ひっ、あーっ」
「え? なに、どういうこと?」
 素で理解出来ない俺の手首を、園生が痛いくらいの力で握って扱くのを止める。
「ちがう、ビーズ、ビーズ抜いて……」
 涙ながらに訴える園生に興奮増し増しだ。やばい、可愛い、俺よりもよっぽど雄なのに、めちゃくちゃにメスみたいな顔してる。
「ああ、そっち? いいよ、園生抜いて。ほら」
 先端を指で舐めるようになぞって、穴からはみ出る輪のついた紐を指に引っ掛ける。それをそのまま園生の指に引っ掛けた。
「これね、入れるより抜く方がよっぽど辛いと思うから。園生、頑張れ」
 ちゅ、とキスすると、何が何だか理解出来ていない園生は不安そうにした。
「ほら園生、園生のおちんちん抜いてあげるから、園生は尿道ビーズ頑張って抜きなさい」
「んっ、あ、や、動かさな……ひ、あっ、あっ」
「早く抜いて、園生」
「ひ……っく、あっあああああっ」
 覚悟を決めた園生が一気にビーズを抜く。そんな激しく抜いちゃって。
 仰け反り喘いだ園生のちんこからは、ビーズを追うように小便が吹きこぼれた。
「あー、園生めっちゃ可愛い。もっかいやろ、もう一回」
「や、だ、ちんこ、むり、しんじゃ……」
「大丈夫、園生なら」
 つぷんつぷん、一つ二つ。小さな穴にビーズを詰める。
 本当に嫌だったら俺なんか張っ倒して逃げられるもの。
 嫌だって言いながら、目の奥はキラキラ輝いているし。
 園生のちんこ、中から擦られるのが堪らないみたいだから。
「園生、頑張れ」
 二回目のビーズを抜くのに少し躊躇う園生。そりゃそうだ、今さっき感じた快楽、絶頂は怖いもんな。
「怖い? 園生。それじゃあ俺が抜いてあげる」
 ほら園生、そんな期待した顔で見るなよって。
 見開いた目からぼたぼた涙を零し、喘ぐ口からよだれを零し、尿道からは白濁流し。
「ああ、最高に可愛い。園生、もう一回しよ」
 可愛い園生、おかわりで。

終わり
 


2018/05/05 09:17


▽厨二病転生チート魔王
夕方の空

 魔王に転生したらしい。とは言っても、前世の記憶はバリバリある。なんなら、ほんの数分前まで現役DKとして青春をまあまあ謳歌していた。
 いや、青春なんてこのオレには眩しすぎる。いつだって人間共とは関わらないようしてきた。オッドアイの右目に封印された魔力がいつ解き放たれてしまうかわからないからだ。年々魔力は強まる一方。生まれた瞬間に前世の父親であり魔界の覇者である魔王によってなされた封印では抑えが効かなくなってきていた。

 そう、つまるところ厨二病から卒業出来ないまま高二病へと進展したオレは、放課後。夕方の空、暮れなずむ街の中我が城に戻る途中、暴走したトラックに轢かれそうな小学生を助けるため身代わりとなり、気がつけば魔王に転生していた。
 まさか本当に魔王の父親がいるとは……しかも物語冒頭で死ぬとかどこの恨めし幽霊だ。
 しかも、身代わりになって助けたはずの子供は、人の姿に変身していたドラゴンだった。前魔王、つまり父親の従者で、封印されたオレの力を解き放つためにトラックに飛び込ませたという。
 おかげさまでバイバイ現世、こんにちはファンタジーライフ。しかも魔王。オレの想像した通り……いや、全ては真実。誰が信じなくとも、オレはただ真実の物語を語っていただけに過ぎない……。

「ああ、すごい……オッドアイ……」
 左目は普通の茶色だったが、右目は金色に光り輝いていた。ピカピカに磨き上げられた銀の装飾に自分の顔を映しながら呟く。
 オレの封印されし力は素晴らしいものだった。前魔王、つまり父親はオレが転生した一時間後に亡くなったらしい。
 産まれたての赤子でしかないオレに、魔の手が襲いかかる。時期魔王の座を奪いたがった、ドラゴン……つまり、父親の従者であり、オレの命を奪う原因となったあのドラゴンだった。
 産まれたてのオレの命を奪うのは、赤子の手を捻るも同然(いや、まさに文字通りだが)。健気に呼吸をするオレの首に手をかけた瞬間……ドラゴンはその腕を失っていた。
 生命の危機に、無意識に発動された魔法はドラゴンの腕を奪い、命を奪った。
 その日からオレは孤独の魔王。勇者も魔物も一緒になってオレの命を奪いに現れ、それを蹴散らすだけの日々。

 酷く虚しい人生だったが、これはオレが望んだ世界。仕方のない事。何故ならオレは、魔王なのだから。

「なんてあるかーぼけ、なんだよ魔王ってなんだよ孤独の魔王って!!!? いや、もういやぁ!!! なんで現世で厨二病拗らせたこと後悔してたのにここにきてそれ現実になっちゃうし、最強チーレム魔王伝説謳歌できたはずなのに孤独! 転生したって孤独とか!!!」
 悲しい。虚しい。触れるものみな傷つけてしまう自分が憎い。
 強い男が好きよ、なんて色目を使ってくる悪魔(美女)だっていた。しかしかなり早い段階からハニトラを仕掛けられていたオレは女性不信に陥っていたから、どんなに美しい美女の悪魔を前にしたってこれっぽっちも興奮なんか出来なかった。
 オレは今本当に孤独の魔王になっていた。

「魔王! お前を殺しに来た!」
 バァン!威勢良く開かれた扉を死んだ目で振り返る。仲間なんていなくなった魔王城は観覧無料の開放状態にある。勇者ウェルカムのこの城には、勇者一行がよく訪れていた。
 次の勇者はどのくらい強いのだろう?
 オレの魔力は強すぎた。勇者なんて鼻息でやっつけられてしまう。この間現れた歴戦の勇者みたいな一行だって、今夜の夕食を考えているうちにやっつけてしまった。
 ちなみに勇者はやられてもやられても、復活して戦いを挑んで来てくれる。
 オレの命を狙う彼らが、唯一オレを求めてくれているのだ。嗚呼、なんて世界だ。こんなにも虚しい世界で、オレはどうしたら……。
 ハッ、と覚醒したのは、今しがた現れた勇者の顔を見た瞬間だった。
 なんて事だ。忘れもしないあの顔、あの声。あいつ、あいつは……!
「お前……田中、なのか」
 勇者がハッと気付いて呟くように言った。田中とはオレの前世の名前。つまり、奴も前世の記憶を持ち、勇者に転生したという事。
「オレの事覚えていたのか、佐藤」
「田中! やっぱり田中なのか!」
 オレだとわかるやいなや、嬉しそうに表情を綻ばせる佐藤。なんて単純な男だろう。
「いや、まじかよ。お前も転生したの? 俺、放課後歩いてたら猫に突き飛ばされてトラックに轢かれてさ」
 え、待って猫に突き飛ばされたの?そんなに貧弱なのかよ佐藤。あるいは、その猫もこちらの世界の生き物でめちゃくちゃ強い力を持っていたパターン。
「で、その猫っていうのがこの世界の妖精が化けた姿だったらしくて。こっちの世界に転生して早速勇者になれ! だよ。いや、ほんとおどろいたんだけど、俺なんつーかチート? みたいで。初期からめちゃくちゃ強かったんだよね」
 やっぱり猫はこちらの生き物だったらしい。
 そして佐藤は聞いてもいないのに、これまでの武勇伝をペラペラと喋り出した。どうやら主人公補正がかかっているらしく、生まれながらのカリスマ性とチートレベルな力を持っていたらしい。
 でも、だ。勇者佐藤よ。お前のステータス、オレの十分の一にも満たないの分かってるのか?
「いやあ、なんかサクサクほいほい進んじゃって。でもこの魔王城の城下町? にたどり着いた時からどうも調子悪くてさ。仲間も三人いたんだけど、さっき喧嘩別れしちゃったし。でもまー三人のレベル足しても俺のレベルに敵わなかったくらいだし、いっそ一人で行ってみるか、って」
 どうやらオレのチートと佐藤のチートがぶつかり合って、佐藤のチート性能が消えたらしい。
 それでも果敢に挑んでしまった佐藤は勇敢と言うより、無謀だというもの。
「最悪死んでも生き返るし。その矢先に出会ったのが田中、お前だよ」
 よかった、なんて微笑んでいる。佐藤の憎いところは、その人に好かれる顔と性格だった。元の世界ではいつもクラスの中心で、男女から共に人気だった佐藤だ。チート性能を除いてもカリスマ性を持ち合わせていたのだろう。
 仲間と別れたのだって痴情の縺れに違いない。元の世界でだって、刺されただの孕ませただの、そんな噂が飛び交っていた。
「いやあ、よかったよ田中、お前が魔王で」
 屈託のない笑顔で言う佐藤は、背中に背負った大剣を手に取る。平和的解決など最初から選択肢にないのだ。
 きっと彼の頭の中にはこんな選択肢が出ているに違いない。

魔王の田中 が現れた!
どうする?

殺す
 殺す

「オレも佐藤が勇者で良かったよ」
 オレは玉座から立ち上がり、左手に力を溜めた。装飾の蝋燭はオレの心を映すように揺れた。
「しばらく退屈しないで済みそうだ」
 キイーーン。通常捉えられないレベルの音波が鳴る。その直後、佐藤の足元に展開した召喚陣が発動。
「うわっ?! なんだ、これっおい、やめったな……!」
 音は佐藤を包む魔物によって空気を震わす事なく消えた。
 佐藤の足元に召喚したのは特大のスライムだった。厄介なことに物理攻撃の一切を受け付けず、口を塞がれては魔法を唱えることも出来ない。
 しかもオレの魔法を特別に注いだ特注のスライムだ。ちょっとやそっとの魔法じゃ倒すことは敵わない。
 勇者佐藤は溺れるように、金色のスライムに包まれた。透明なジェルの中で、頑強な鎧はみるみる溶けてその身体が露わになる。
「へえ? ちゃんと鍛えてるんだ。腹筋割れてるじゃん」
「んんんっんっ」
 スライムはオレの意のままに操ることが出来る。呼吸だけ出来るように鼻の穴は解放してやった。それから鍛えられて割れた腹筋に手を伸ばすと、スライムの身体がそこを避けるように佐藤の腹筋を晒させる。
 指でつつつ、となぞると佐藤が甘く鳴いた。恐らく自分がどんな声を出しているのかもわかっていないだろう。敏感らしい佐藤の腹筋を撫でるたび、佐藤がいやらしく声を上げる。
「凄いじゃないか、佐藤。腹筋を撫でてあげただけで勃起するなんて。さすが佐藤は違うなあ」
 膨らんだ陰茎に手を伸ばすと、スライムがそこを解放して、ぷるんと揺れて現れる。
 見た目にはわからないが、スライムは佐藤の身体中の性感帯を優しく刺激していた。胸の突起は揉み潰され、脇腹はマッサージするように律動しているだろうし、睾丸を包み込んで揉まれるなんて、佐藤には経験ないかな。
 空中でM字開脚して晒された後ろの穴も勝手に拡がっているように見えるが、それはスライムがゆっくり中から押し開いているからだ。
「前立腺マッサージ、気持ちいいだろ? もうイっちゃいそうじゃないか」
 先走りを流している佐藤の陰茎を力強く掴むと、ガクガクと腰を振った。衝撃でイきそうだったんだろう。根元周りのスライムが圧迫して射精を止められ、佐藤は仰け反って喘いだ。声は聞こえないけれど。
「佐藤だけ気持ち良さそうでズルイなあ? オレのも気持ちよくしてよ」
 オレがそう言うと、佐藤の仰け反った頭側がこちらの方に向けられる。そしてスライムが、佐藤の無理やり開かせたまま口の中を晒した。
「いきなりイラマチオ? 気絶しないでよ、佐藤」
「ひっ……ひゃだ……たふけ……」
「えー? なに聞こえないなあ」
「ごおっおごっおっごっふっおっごほっお」
 喉に自身を突き立てる。収縮して締め付けるのが面白い。のどちんこをすり潰しているのか、ぷにぷにした感触も悪くない。睾丸を鼻に押し付けて呼吸できないようにしたり、嘔吐したものが亀頭に当たって逆流していくのがわかった。
「楽しい、佐藤楽しいよ、あははははは」

 スライムがオレの陰茎を模した形で佐藤の口を犯しているのを見ながら、ぽっかり空いた下の穴を眺める。
 卑猥にひくついて、赤い内壁をぬらぬらと晒していた。これで処女穴だなんて信じられない。
「なあ、佐藤。お前が勇者でほんと良かったよ。この世界に退屈してたんだ。孤独だと思ったし、やりたい事もない。でも、佐藤、お前がオレの前に現れてくれた」
 まるで愛の囁きみたいだ。ちゃんと聴こえているだろうか。聴こえてなくてもいい。何度だって言ってやるから。
「オレはお前を殺したいほど憎かったよ、佐藤。死ぬよりずっと辛い思い、させてやるから」
 ずちゅっ、ずる、ぐちゅ。
 スライムが拡げたのは入り口だけ。前立腺だけをピンポイントで責めるようにしたから、中はまだ慣らされていなかったはずだ。
「佐藤? 生ちんこで拡張してもらえて嬉しいだろ」
「んっぐっうっんっん」
 狭い中を何度も突き上げて少しずつ奥に進んでいく。
「ごめんな? オレ初めてだから痛いだろうけど。あ、でも佐藤、よかった。ちんこ勃ってるじゃん」
 スライムが、握りやすいように佐藤の陰茎の竿部分を解放した。尿道から膀胱までは、スライムがミチミチに詰まっている。強く握ると尿道を中から外から潰されて、佐藤は泣いて喜んだ。
「オレの想像出来ることは全部実現可能なんだ。佐藤、お腹の奥にいっぱい注いで上げる」
 ようやくたどり着いたS字結腸。狭い狭い穴をぬぽっと押しひらくと、ぴくんぴくんと痙攣して身体が脱力していった。
「どんな赤ちゃんが産まれるか楽しみだ」

 中二だったオレを嘲笑う佐藤。
 お前はヒエラルキーの頂点に座り、一番下で這い蹲るオレを足蹴にし、オレの人間としての尊厳を奪った。
 遠く離れた高校に入学したって、お前の声も顔も振る舞いも何一つ忘れはしなかった。忘れられはしなかった。
 嗚呼、なんて素晴らしい転生。
 佐藤、オレは魔王様だけど。神様に感謝しよう。

終わり


2018/04/22 23:18


▽lovesic症候群の特効薬は猫
lovesick


「lovesick症候群ですね。猫を処方します」
「猫を、ですか……」
「ええ、猫はよく効きますからね。とりあえず二週間様子を見て、なにかあったら来てください」
 お大事にどうぞ、と声をかけられ、診察室から出る。
 lovesick症候群、がなんなのかよく知らないが、最近調子が悪いので近くの評判が良い病院に来て見たらこのザマだ。
 猫を処方ってなんだ。猫ってあの猫か、それともネコと言う名の錠剤か何かなのか。
 ああ、なんか若い子の間で流行りそうな名前だ。ほら、その、テンションがハイになったり超無敵になったりするヤバめのやつとか。
 ねえネコ持ってる?あー、今切らしてるんだよね。ネコ10錠で5千円だよ。
 なんてね。知るか、そんなもの。
 10錠で5千円とかだったら薬買えないなあ、保険効かなそうだし。なんて思いながら隣の薬局へ。処方箋にはやはり「猫 二週間分」なんて書いてあるし。
「あの、すみませんこれお願いします」
「こんにちは、こちら初めての利用ですね? 保険証のご提示と、お薬手帳お持ちですか?」
「あ、いえ」
「では作っておきますね。そちらに座ってお待ちください」
 そちら、と示されたソファに座り、手持ち無沙汰にカウンターを見つめた。
 奥では白衣の人たちがなにやらしている。
 普通だった。極めて普通だ。猫が処方されても、さも当然、いつものことだと言わんばかりに。
「二(ニマス)さま、お待たせいたしました」
 他に客はおらず、すぐに呼ばれる。机の上には銀の紙に透明のカバーが付いている、よくある錠剤のソレが一つ分。随分大きいカプセルが入っていた。
 その横には、液体の入ったケースが置かれていた。以前花粉症の時に処方された、目薬の容器を大きくしたものに似ている。
「こちらが猫になります」
 薬剤師の人が大きいカプセルに手を添えた。飲むにはちょっと大きすぎるかな、なんてサイズだ。多分飲み込んだら喉に詰まって死ぬだろう。
「猫を、ですか……」
「はい。lovesick症候群にはよく効きますので」
 にこにこと答えてくれる薬剤師さん。まるでlovesick症候群も、猫の処方も広く一般に知られてるかのよう。
 うん、俺たしかに健康優良児だし、病院あまり来ないから、ちょっと知らないだけかな。なんて現実から逃避しつつ。
「お家に帰ったらカプセルを左右に引いて開けてください」
「カプセルを開けるんですか」
「はい、ちょっと硬いので気をつけてください」
 よかった、飲まないのか。最悪座薬のパターンも覚悟していたが、どちらでもないようでホッとする。
「それから、こちらが猫に与える保存液です」
「保存液……?」
「はい、朝と晩、一度一滴必ず猫の舌に与えてください。二週間分は持ちますので」
「……はい」
 なんかもう、新手の詐欺かな?なんて思いながらの生返事。
「液は多めなので余るかと思いますが、必要でしたらそのまま使い続けてください。いらなかったら処分して結構ですので」
 ありがとうございましたー。にこにこと案内する薬剤師さんの言葉はちょっと物騒だな、なんて思いながら薬局を後にする。
 普通の薬とさして変わらない料金でちょっと安心する。
 結局猫がなんなのかよくわからないままだが、俺はlovesick症候群で猫が必要だというのだから、多分そうなんだろう。
 病院から五分程度歩いて着いたアパートの二階、扉を開けて中に入る。
 バタンと閉まる扉の音がうるさくて少しイラついた。
 最近はいつもそうだった。小さなことでイラついたり、そんな自分に落ち込んだり。灯りもつけないで暗い部屋の中、自分の気分も落ち込んでいくようだった。
 カチン、カチン。電気の紐を引いて部屋が明るくなる。俺には眩しすぎる気がして、いつも一つ暗い状態にしていた。
「猫ねえ……」
 机の上にカプセルを置いて見つめる。黒と白のカプセル。飲み込むには大きすぎるとは言え、なにか出てくるのには小さすぎる。
 一体なにが出てくるのやら。
 俺は机の上でカプセルを左右に引いた。言われた通り少し硬い。力を入れるとカチンと音がして、すっぽ抜ける。
「うわっ」
 ばしゃっ、中から液体が落ちて机の上に広がり、そしてジェル状にまとまって、それからゼリーのようにぷるんと震えた。
 その大きさは結構なもので、成人男性一人が丸まったくらいの大きさだった。それがあのカプセルに入っていたというのか。
 あるいは、空気と触れることで膨張したのかもしれない。よくわからないけれど怖い。
 これが一体なんなのか、触れることも出来ないまま呆然と見つめた。

 変化はすぐに訪れる。
 ゼリーは表面だけらしく、中で何かがぐねぐねと蠢いている。ただ、ゼリーの部分も中の部分も黒っぽい色をしていて、さらには部屋も暗いからよく見えなかった。
 そうしてドキドキとしながら、その時をただ待った。
 ずるり、とゼリーの頭頂部を割って中から何かが現れる。正直エイリアンの誕生のようで気持ち悪かった。
「うわ……」
 ゼリーで濡れた肌がいやに艶かしい。
 中から現れたのは猫耳をした、黒髪の、二十代くらいの青年だった。
 つまりこれが、猫(仮)なのだろう。
 猫(仮)はゼリーから上半身を出して周りをキョロキョロと見回した。少し眠たげな目は無気力そうだった。
「っ……」
 不意に目が合うと、猫はじっとこちらを見つめた。大きい目を見開き、黒目が大きくなったり小さくなったりしている。キュン、と焦点が合うと、猫(仮)は口を開いた。
「にゃあ」
 ちらりと見えた真っ赤な舌と尖った八重歯に、何故かどきりとする。暗いモノクロの部屋で、それだけが鮮やかに色付いて見えた。
 それから猫(仮)は口を閉じると、四つ這いになって机から降りようとする。なんてこった、この猫(仮)ときたら剥き出しの、生まれたままの猫100%の姿を晒している。
 背後ではゆらゆらと黒いものが揺れた。つまり尻尾だった。比喩ではない。
「んんっ、にゃ、あ」
 咳払いをして、猫(仮)はゆっくりと俺に近付いた。裸なのを差し置いてもなぜかエロいように見えた。舌舐めずりする猫(仮)に、俺はゴクリと喉を鳴らす。
「にゃ、」
「あ、保存液」
 ハッと思い出した俺は保存液を取り出し、偶然口を大きく開けていた猫(仮)の顎を掴み、そして一滴舌の上に垂らす。
「にゃ……」
「えっ」
 カクン、猫(仮)の全身から力が抜けるのがわかった。猫(仮)の目がぐるんと揺れて、そのまま地面にひれ伏す。
 首筋に手を当てると、トクトクと早い鼓動を感じて、ちゃんと生きている事がわかった。
 それにしても一瞬で自由を奪うなんて、どんな危ない薬なんだろう。俺は少し怯えながら、保存液にしっかりと蓋をした。

 昏睡した猫(仮)はしばらく目覚めなかった。医者の与えたものだし、死ぬことはないだろう。
 そうは思いつつ、もしかしてこの猫(仮)を殺して臓物を食うのが正しい使用法……?などと恐ろしすぎる想像をしてゾッとしていると、猫(仮)はとろんとした目をして身体を起こした。
 うん、いい加減猫(仮)は面倒なので名前をつけよう。
「じゃあ、ツキミ。でいいか」
 ツキミの瞳は明るい黄色で、暗い部屋の中でもきらりと光る。まるで満月のよう。
「ツキミ」
 名前を呼ぶと、それが自分だと理解したのか、ツキミは俺の手に頭を擦り付けた。
 猫は飼った事がないが、SNSなんかではよくツンデレとか懐かないイメージがあった。けれどツキミは人懐こい。
 というか、当たり前のように猫として扱いつつあったけど、どう見ても猫耳を生やしただけの人間なんだよな。
 改めて見るとその異常さに戸惑ったが、頭を手に押し付けてくるツキミを見て、そんなのどうでもよくなる。
 撫でて欲しいのかな、と指で頭を撫でると、猫耳の裏に当たるように頭を動かした。
 ここがいいのか?探り探り触れつつも、ツキミはどうやら喜んでいるらしい。
「これは……なんというか……」
 可愛い。そんな趣味はなかったはずなのだが、この愛しい生き物にキュンとしてしまう。
 ひとしきり頭を撫でてた後。ツキミは全裸のままだし、全身がゼリーでべたついている事に気付き、風呂に入れるという事をようやく思い至った。
「猫って風呂嫌いっていうけど、大丈夫かな……」
 でも人だしなあ。人とはいえ猫だけどなあ。いや、こいつまじでなんなの。
 どうやら二足歩行は出来るらしい。手を引いて風呂場に連れて行く。こだわって探したこの物件は、狭いけれど風呂トイレ別、浴槽付きの風呂場だった。
「うーん、ツキミ俺よりでかい」
 暴れられたら抑えられないなあ。
 でも仕方がない。ツキミの人間性に賭けて、風呂に入れるよう祈る。一応俺もシャツだけ脱いで上半身裸で風呂場へ。
「ツキミ、ここ座って」
 風呂椅子をぽんぽん叩くと、ちょこんと椅子に座る。なんて賢い猫なのだろう。いやでもこいつ人間……なのか?尾てい骨から生えた立派な尻尾を見て疑わしくなる。隠語ではない。
「ちょっとずつかければ大丈夫かな」
 ツキミの横にしゃがんでシャワーを手に持ち、蛇口を捻る。お湯になるまで自分の手に当てて待った。
 ちらりと目に入る。あーー〜〜大きいなあ〜〜立派な尻尾だなあーー……。これはまあ、隠喩的な。
 ぽふん。頭に不意に何かが当たる。なんだろう?見れば、ツキミの手が俺の頭を撫でていた。
 どうして俺の頭を撫でたのか、理由なんてわかりはしないけれど。さっきツキミの頭を撫でた時のように、ツキミの指が耳の後ろを触れたり、頭を優しく撫でた。
 どうしてだかほろほろと涙が落ちた。
「あれ……あれ……」
 一度で始めた涙は止まらない。
 そうだ、と思い出した。ツキミの手が俺に思い出させた。
 好きな人に頭を撫でられたことを。
 その好きな人と酷い別れかたをしてしまったことを。

 ああ、たしかに、lovesic症候群には猫がよく効くようだ。
 泣いてしまった俺をツキミは撫でて、ちょっと短い舌が頬を舐めた。ザラついた舌が、やっぱり猫なんだと教えてくれる。
 お前一体なんなんだよ。うちペット禁止だけどいいのかな。
 そんな余計なことを考えながら、ツキミに撫でられると癒された。

 ツキミと過ごす二週間はあっという間に過ぎた。ほとんど人らしいツキミは、遂には人の言葉も喋った。
「腹減った」
「いや、めっちゃ流暢」
「あの薬、頭ボーッとする」
 シャツにスウェットのゆるゆるな恰好で、腹をぼりぼり掻きながら言うツキミは、ただただ猫耳尻尾の青年でしかなかった。
「やっぱヤバい薬なのかな……明日医者行くから聞いてみようか」
 カレンダーを見て、胸がツキンと痛くなった。
 ツキミのおかげで最近はだいぶ気分が落ち着いてきた。締めっぱなしだった雨戸も開けたし、陽の光は気持ちいい。窓を開けて風が入り込む。日光の下で、ツキミと昼寝して。
 満たされて幸福な日々。
 猫の処方は二週間分。つまり、ツキミ、君とも今日でお別れなのか。
「夏入(カイリ)、今夜は薬、やめて」
 ごろごろとしていると、ツキミが言った。俺より大きい体格の、胸にぎゅっと抱きしめられる。
「保存液のこと? でも、だってそれ飲まなくて、ツキミ平気なの?」
 ツキミは俺の首に頭をぐりぐり押し付けてくる。可愛くて堪らない。ツキミを手放したら、今度はペットロスでダメ人間になっちゃうよ。
「平気だよ。お願い、頭ボーッとするの、嫌だ」
 たしかに、初めて薬を与えた時に昏睡していたし、それ以降もいつも眠たげにしていた。
 今日がツキミとの最後になるなら、せめて今夜ぐらい……。
「わかった」

「んっ、ん、ん、っまっ、待って、ツキミ、ツキミっ」
 ツキミが俺の首筋をちゅうちゅうと吸った。俺の首はちゅ○るじゃない。
 手は俺の服の中に入り、乳首を優しく摘んでくる。
「夏入」
 月明かりの中、まん丸の黄色い瞳が俺を見つめる。最初に見たような、いやらしくてエロい、雄の顔をしている。
「もう十分待った」
「なに……あっ、あっっ」
 ツキミが俺のズボンとパンツをずるりと引きおろす。そんな、ああっ、そんな!
「猫舌で舐めたらっアアッ」
 猫ほどはザラザラしていないけど、人よりはザラザラした舌が、俺のちんこを舐めた。
 それからそこかしこ舐めてくるツキミに半泣きになって、でも最後には気持ち良くなってしまう。
「好き、夏入……夏入」
「あーー……あーー……」
 深く腹の奥を突いてくる。苦しくて切なくて堪らない。ベッドの上で四つ這いになって、後ろからツキミに穿たれる。猫のセックスみたい。俺がネコだ。
「夏入、好きって言って」
「好き……っあ、ツキミっっ」
 ドクドクと奥に注がれる。俺もイって、そのまま力尽きた。

「やだなあ二さん、あなたふつうの人間だったならそう言ってくれないと」
「と言いますと、先生はふつうの人間じゃないんですか」
 二週間ぶりの診察室で、猫を処方してくれた医師がにこにこと笑いながら言った。
「ええ、まあうちはちょっと特殊な病院でして」
「……まあ、はい、そうですよね」
 そりゃあ、そうだろう。ふつう、カプセル入りの猫耳男なんて処方されるわけがない。
「つまり医療ミス」
「いやいやいやいやいや! そんなことないです。どうです、効いたでしょう、猫」
 顔面青ざめているけれど、どうやらちょっと特殊な病院でも医療ミスはヤバいと言うことらしい。
「……あ、あの猫ってもう、処方してもらえないんですか」
「二つ目の猫ですか?」
「えっ違います。あの、あのー、前回処方してもらった時に、二週間分って」
「ああ、そのまま使っていただいて結構ですよ。大抵の方はそうします。だって猫、可愛いですものね」

 あれ?病院間違えた?なんて今更。
 そのあと薬局に行って保存液を買い足そうとした時に、保存液が強力な性欲抑制剤と知り、色々察した俺だった。

終わり


2018/03/18 23:29


▽おじいと言う猫
いってらっしゃい
花びら
モノクローム

 うちには「おじい」と言う名の猫がいた。なぜおじいなのかと言うと、本当におじいだからだ。
 猫として老齢だから、というだけが理由ではない。おじいは自分で言ったのだ。
「わしも歳をとったものだ」
 と。
 おじいは人の言葉を喋った。けれど、人の言葉を喋るのはオレの前でだけだった。
「お前にもあるんじゃろうにゃ、素質が」
 そう言うおじいの言葉に時々猫っぽさが出るのは、人前でにゃーと鳴いている時のくせらしい。
 本能でにゃーと鳴いているのではなく、つまりは、人が猫の鳴き真似をするように、おじいも猫の鳴き真似をしているだけなのだ。
 そんな話を誰も信じてはくれないし、しまいには病院に連れて行かれそうになったから、これはオレとおじいだけの秘密だった。

 おじいの話は面白かった。かつては、魔法やモンスターが存在する世界にいたと言う。おじいは魔法使いで、国でも一二を争う腕前だったと言う。
「え、じゃあさ、ドラゴンとかとも戦ったの?」
「ああ、一度な」
「たったの一度だけ?」
「ああ、止むを得ずな。しかしじゃよ、彼らはとても知性に溢れ、気品すら纏う、それは気高い生き物なのじゃ」
 言いながらどこか遠くを見つめるおじいの瞳は、どこか寂しげにキラキラと輝いて見えた。

 おじいは数枚の絵を持っていた。絵というよりは写真なのだけれど、この世界の写真とはどこか違っていて、漫画のワンシーンみたいに見えた。だから、絵という事にしていた。
「ねえ、おじい、これなんだけど……あれ、おじい?」
 おじいの物入れにしていた引き出しから絵を取り出し、ふと気付いた事があった。それをおじいに聞こうとしたけれど、おじいは部屋に見当たらなかった。
「おじい?」
 古い作りの家で、板張りの床や壁を、おじいは懐かしいと言った。きっと、おじいの世界でも木で作られた家に住んでいたんじゃないかと思う。
 いつも猫らしく縁側で寝たり、畳に丸まったり、オレの布団に乗ったり。
 けれどおじいは見当たらなかった。
「ねえ、おじい知らない?」
「さあ、今日は見てないねえ」
 居間でテレビを見ていた親に聞いてもそんな答えだった。
 まあ、そのうち出て来るだろう。
 オレは部屋に戻り、絵を見つめた。
 おじいの絵はどれもモノクロだった。その中でも、白い斑点の中にいる男の人の絵。男の人は眩しそうに微笑んでいた。
「これ、多分おじいだよなあ」
 おじいと呼ぶには随分若い見た目のその男の人は、こちらを見て微笑んでいる。
 おじいの目線は少し上、つまりはこの絵を描いた人(写真見たいに撮ったのなら、撮った人)はおじいよりも背が高い人なんだろう。
 こんな嬉しそうな顔するなんて、相手はどんな人なんだろう。

ーーーー
「ーーイル、カイル」
 少し高い位置から呼ぶ声がした。
「やあ、クィレ」
 彼は竜族のクィレだった。竜族では禁忌とされる、人と竜の合いの子で、人の2倍近くの身体に爬虫類の目、大きすぎる羽根に人よりも弱い魔力の歪な生き物だった。
「どうした、こんな時間に」
 今はまだ日も高い。普段は夜中の闇に紛れて訪れるのに、珍しいので、何か嫌な事でも起きたのかと不安になる。
「君に見せたいものがあって」
「見せたいもの?」
「うん、乗って」
 彼はそういうと、しゃがんで背中を向ける。
 本当は僕自身も箒に乗って飛ぶ事が出来た。けれど彼の大きな背中に乗って風を切り、力強く飛ぶのは箒なんかとは比べものにもならないくらい気持ちよかった。
 僕は彼の背中に飛び乗り、首に腕を回す。彼はいっそう低く構えると、地面を蹴って大きく空に飛び出した。
 空高く、雲にも届くくらいまで飛び上がる。魔法を使う事が苦手な彼の、唯一の特技だった。大きな羽根は、箒にも、他の竜族にも負けない速さで空を飛んだ。

「カイル、そこにいて」
 クィレが連れて来たのは、国境の山の麓にある泉の傍だった。草木が生い茂り、隠れている妖精がチラチラと光ってこちらを覗いている。
「あ、目をつぶってて」
「随分注文が多いな?」
 僕は言いながら目をつぶった。
 目をつぶっていても、五感がさまざまな事を教えてくれる。木々が揺れているが、どうやらクィレが飛び回っているようだ。ほのかに香る甘い匂いはなんだったか……。
「カイル、いいよ」
 ザアッーー風が吹いて、甘い匂いが広がった。
 目を開くとそこは、辺り一面が淡いピンクで満ちている。
 思わず息を飲んだ。時が止まって、優しい世界に包まれた。
 なんて美しい世界だろう。
「クィレ」
 僕の少し高いところで花びらを撒き散らす彼を見つめた。
「君は、素晴らしい魔法使いだよ」
 僕がそういうと、彼は微笑んだ。

ーーーー

「おじい? おじいーー……あ、こんなとこに寝てた」
 夕暮れに染まる赤い世界の中、縁側ですやすや眠るおじいを見つけた。
「さっき見たときはいなかったのに、いつここに来たの? ほら、風邪ひいちゃうよ」
 柔らかい背中に触れて、違和感に気付く。
「おじい?」
 首から背中を撫でて、その小さな身体を抱き上げた。
 いつもなら感じる、トクントクンという小さな鼓動がない。触れるだけで安心するような暖かさも徐々になくなっていく。
「おじい……」

 いつだか、おじいは言った。
「大切な友と傷つけ合った魂が、罰としてこちらに来たようだ。いつか罪が許されて、この身体が朽ちる時には魂も向こうに帰るだろうけれど。短い間、よろしく頼むよ」
 そのときはどういう意味なのかよくわからなかったけど。
「……そっか、おじい、向こうに帰るんだね……いってらっしゃい、おやすみ」
 おじいと過ごしたこの10年は、短いと言うにはあまりにも思い出があり過ぎた。
「おじい……」
 罪が許されて向こうに帰ったのなら、傷つけ合った友にもまた会えるのだろうか。そうだといいな。
 夢物語のようなおじいの話の、最後はハッピーエンドでありますように。
 オレはしばらく泣き止めないまま、そんな事を祈った。

終わり


2018/03/17 23:16


▽赤い首輪。

着けているのは犬ではなく、人だった。
その人が人らしからぬ扱いを受けている事柄は、他にもあった。
その首輪には電流が走るようになっていた。
吠えたり、悪さをする時の躾のためではない。
首輪をされたその人が、眠るのを妨害する為であった。
彼はもう、3日まともに眠れていない。
意識は混濁し、頭が働かない。
うとうとと眠りに落ち、目をつぶれば電気が体を走る。
刺さるような痛みに、彼は目を覚ます。
しかし、間もなくまた睡魔に襲われる。
眠ればまた電気を流されるのがわかっていても、どうしようもなかった。
口は半開きに、よだれが落ちる。
糞尿も止められず、床に敷かれたブルーシートに垂れ流しになっている。
服は、首輪を付けられた時から脱がされていた。
後ろ手に拘束された腕は、最初こそ痛かったが今では痺れて麻痺してる。
「○○○ちゃ〜ん。調子はどう?」
首輪を着けた奴が、彼の髪を掴み顔を上げさせる。
目の焦点が合っていない。
目元が赤いのは、寝不足と、初日に泣いたからだ。
泣いて、何も変わらず、3日が経っていた。
「そろそろ限界か?」
男は彼の顔を見ながら呟く。
彼は白目をむく。
バチッ、電流が走るが、彼の身体が震えただけだった。
彼は既に、限界を超えていた。
「○○○〜?おーい」
男は彼の頬を軽く叩く。
しかし、意識を飛ばして反応がない。
「はは、寝ちゃった」
男は嬉しそうに言いながら、彼を抱き上げる。
部屋の隅にシャワーが備え付けられ、男は彼を床に寝かせ、温水で洗い流す。
彼には電流が何度か走っていたが、その度に身体が痙攣するだけで、意識を覚ますことは出来なかった。
「やっぱ、寝顔可愛いな〜」
青ざめた彼の顔を撫でながら、彼は呟いた。
男はシャワーを止め、彼を抱き上げる。
ズボンのフロントチャックをおろし、勃ち上がった自身を、彼の後穴にあてがう。
ゆるゆると擦り付け、一気に奥まで押し込む。
「ぁ…ぅ…」
彼は小さく呻いた。
彼は悪夢にうなされているようだった。
「はっあっ…気持ち…」
尻を鷲掴んで、抜き差しする。
ずるずるの内壁が心地よい。
肩に項垂れた寝顔が愛しい。
揺するとガクガク動く。
「可愛い…」
寝込みを襲うのが男の趣味。
でも途中で起きられるのは、興醒めだった。
だから、無理やり3日徹夜させ、限界に達したところを襲った。
これはただの、趣味。

終わり


10年前くらいに書いた睡眠姦
ずっと探していたんや…!


2018/03/04 18:05


▽白濁に傅く
 二本の指が裏側の筋を撫でる。正確には押し付けて擦り付ける行為。
「あ……あっ……」
 堪えられないと言った声が、閑散とした部屋に響いた。他にするのはヤカンがシューシューと鳴る音ぐらいだ。
「先生」
 そう呼ばれると、先生は目を伏せて唇を噛みしめる。それでも変わらず腰を振り、淫らに快感を貪る。
 膝立ちになり、私の二本の指に繊細なそこを撫で付ける。限界が近いのか、一度の往復に時間がかかった。まるで、果てる事を嫌がるように。
「気持ちいいですか」
 私の肩に額を当て、荒い息をする。畳に滴り落ちる唾液が、今先生がどんな表情をしているのか想像させる。
「先生」
 意外と弱い耳殻を甘く食む。びくりと震えて、腰の動きが止まった。けれど手のひらは未だ綺麗なままで、欲望はまだ吐き出されないようだ。
「貴方はこれで満足ですか」
 ほんの僅かにも指を動かさない私を、先生は恨んでいるかもしれない。
 けれども、欲しいとも言わない先生に、私は少しも動くつもりはなかった。
 この指だけしかいらないというのなら、私はここでその痴態を見つめるだけだ。
「さあ先生、ここに出して」
 動けないでいる先生の背を撫でて促す。
「先生の穢らわしい姿を吐き出して」
 先生はやおらに動き出し、再び私の指にソレを撫で付けた。先端から溢した透明な液が手のひらに溜まっていく。
「あ、あ、」
 着物を自らの手で開き、性器だけを露出させ、私の二本の指だけを使って果てようとしている。
「アアッ」
 びくっ、びくと震えるのと同時くらいに、手のひらを熱が焼いた。それはすぐに温度を下げて冷えてしまうが、私の身体は嫌なくらいに熱を孕んで行く。
「良くできました、先生」

 淫らな遊びをした後の、先生が振るう筆はすこぶる調子が良い。気だるい表情を浮かべながらも、先の情景を彷彿とさせるような描写が白紙を埋めて行く。
 原稿が出来上がる頃には、おそらく先程果てた時と同じような恍惚とした表情をしている。
 残念な事に、先程どんな顔をして果てたのかを、私は知らないのだけれど。
「それでは原稿、いただきますね」
 袋に入れた原稿を手に抱える。
 手に抱いた熱を思い出す。手のひらを汚されたのは私の筈なのに、何故か汚している気分になった。

終わり


2018/01/21 15:43


▽手のひらにイエロー
「先生、」
と、呼ばないで欲しい。
 僕の人としての尊厳や人格など、全て奪い去り、惨めな生き物にしてしまうくせに。
「先生」
 そうやってまた、僕が何者で、君にとって誰なのかを思い出させる。
「俺の手に、してください」
 ストーブの上で水の入ったヤカンがシューシューと音を立てている。温かいと言うには少し足りない部屋で、着物にも関わらず大股を開かされ、外気に触れた内股が鳥肌を立てた。
 下着が少しずらされて、彼の手が僕の萎えたそれをやんわりと握った。彼の手は室温よりも低く冷たいのに、辛うじて血の通った熱があった。僕の身体はその僅かな熱に反応しそうだった。
「先生」
「アッア、やめて、くれ……」
 促すように、彼の指先が先端の穴を詰った。キツい刺激に膀胱から込み上がるものを感じる。
「見せて、」
 彼は耳に甘く歯を立てた。吐息が鼓膜を揺さぶると、本当に自分の声なのかと疑いたくなるような甘えた声が出てしまった。
 恥ずかしい。既にもう、これ以上ない辱めを受けているのに、彼はその上にさらに恥を塗れというのだ。
 彼の指は先端の穴を塞いだり解放したり、軽くトントンと叩くように刺激する。その度に僕は、言い知れぬ不安と甘い快感に声を零した。
「先生」
「ああっく、あ、あ」
 繊細なそこに爪を立てられ、悲鳴を上げた。出たのは声だけでない。
 しょろしょろと、か弱い音を立てながら僕の粗相が彼の手を汚した。
「ああ……ああ……」
 出してしまうのをやめたいのに、止まりそうになると彼の指が先端を撫でる。そのたび、今しがた与えられた強烈な痛みを思い出し、身体が竦んで、従順になった僕は身体を弛緩させる。
 途方も無い放尿は、彼の手のみならず畳も汚していく。それは大きなシミになって、目にするたびに今日のこの瞬間を思い出させるのだろう。
「先生」
 少し興奮した声で彼が僕を呼び、芸を覚えた犬を褒めるみたいに頬を寄せ、軽くキスをする。
 そんな事が嬉しい僕は最後の一息を彼の手に放つ。
「可愛い、良くできました」

「それでは原稿、いただきますね」
 彼はそう言うと、部屋から出ていく。
 先ほどまで僕のはしたないソレを握っていた手に、原稿の入った袋を握っている。それを思うと恥ずかしいやら、なにやらで、僕はまともに彼の顔も見れず、その背中を見送ることすらできない。
 部屋の中央でヤカンがシューシューと鳴いたが、換気のために窓や襖を開け放った部屋は酷く寒い
 それなのに僕は、黄色に染まる彼の手を思い出すと身体の奥が火照るような、そんな熱に襲われた。

終わり


2018/01/19 07:37


▽ど。
 二日(フツカ)は『俺にはわかるよ、一進くんの気持ち』なんて言うけれど、実際のところオレの気持ちなんて、何一つ、これっぽっちだってわかっちゃいないんだ。
「あーーっあああっ、あっはあ、はあはあ、あーーっ」
 尿道とケツから前立腺を挟まれて、泣き叫ぶように声を上げる。金属で出来た無慈悲な棒状の器具と、暖かみのないシリコンで出来たおもちゃで胎内を突き上げられて、違う違うそうじゃないと言いたくなった。
 オレはたしかに前立腺を尿道とケツから虐めて欲しいと願ったよ。だけどもそれは、いつまで経っても尿道ばかりを責め続ける二日に痺れを切らしたからだ。
 つまるところ、オレをこれでもかと尿道責めしてる二日自身がいつだって硬くなってるのに、頑なに使おうとはしないから。
 もういっそ突っ込めよ、だってお前はオレが好きなんだろう。そう言う意味で言ったのに。
 自らの性器を型取りして作ったディルドで前立腺責めってなに?!もう、お前のちんこでよくない?!
 そんなことを伝えようにも、オレの口から漏れるのは強すぎる快感に息も絶え絶えな喘ぎ声だけだった。
 快感で脳が焼き付きそう。助けて欲しい。縋ろうにも、オレの腕は後ろ手に拘束されている。
「ああ……ああ……」
 いつまで経っても終わらない責めに、事切れる、神経がブチ切れて死ぬ、そう思った。身体が弛緩して、喘ぐ声さえ上げられない。
 汗と涙とよだれを零しながら二日を見つめる。
 こんなにも辛いのに、この男は、至極幸せそうに微笑んだ。その顔を見るとオレは全てがどうでも良くなった。

 そもそも、尿道を棒でグズグズに刺激されて喜ぶ奴が普通いるか。
 気持ちよくなるからと、初めて見せつけられてドン引きしたのはいい思い出。怯まずオレの小さな穴を犯す二日の神経は疑ったが。
 本当はオレの事嫌いで、二日からの嫌がらせなんじゃないかとか。どっかの動画でも見て興味を持っただけの実験的試みなんじゃないかとか。そう思った時期もあったけど。
 プジーという器具のサイズが一つ増えるたびに、自分のことのように嬉しそうにする二日を見ても、わかるのは厄介な変態だと言うことくらいだ。
 でも、その事実を知っているのはオレだけだった。教室では優等生で通っている。運動神経も良くて人柄も優れている。整った顔立ち、通る声、きっと生まれ持ったカリスマ性で誰もを惹きつけた。
 そんな二日がクラスの落ちこぼれのちんこの穴を際限無くズブズブに犯すのが最高の愉しみだなんて誰が知る?
 残念な事に、二日が一番良い顔をするのはオレの尿道を責めてる時だなんて、オレだけしか知らない。知らなくて良い。って、朦朧としかかる頭でいつも思う。

 なあ、二日。お前オレの事大好きなんだろ。そんなに愉しそうな顔してさ。
 最近は尿道だけでなくケツ穴まで拡がってきて、こんなガバガバにしてくれて、お前オレの老後どうするんだよ責任取れよって思えてくるけど。
 オレの事そんなに好きだって言うんなら、もう少し付き合ってやっても構わないんだ。
 なんてオレの気持ち、お前はほんとにわかってる?

終わり


2017/12/27 23:39


prev | next

戻る