会長


同時刻

月代高校体育館では始業式が行われていた。

在校生約500名と言う大規模な学校のため、体育館やその他の施設も大きい。

しかし、普段なら広々しているはずの体育館も、式に集められた全校の人数で圧倒され、狭く感じるものもいるであろう。

こんなに人が居れば大半はすぐに口を開いてざわめきが絶えないだろうが、月代高校の生徒会システムのお陰で口を開く

ものは一人も居ない。

「――次に、生徒会長のお話です」

学校の代表兼、不良のトップに立つ人物。

もしかするとこの学校で一番偉い位に立っているかも知れない人物が自席を立つ。

背はそれほど高くなく、平均的身長。

癖毛のかかった茶髪で、前髪が長いのか赤い飴玉のような珠が2つ付いたゴムで前髪を結っている。

一見普通の、いや、ちょっとチャラけた普通の男子だが、威圧感は半端ないほどあり、その証拠にその場にいる生徒会以外

の全員が表情を強張らせる。

彼は指示されるがままに壇上へ登壇し、固定してあったマイクを手に取る。

そして、肺いっぱいに息を吸い込んで生徒会長――徳永千鳥は口を開く。

「やっほー!!元気だったか?」

間の抜けた声。

これが全国の不良の頂点に君臨する男の第一声であった。

その声のトーンから持たれる印象は、親しみやすそう、明るいなど、本来ならば不良に必要ないものが多い。

だが、徳永千鳥は生徒会長。

その肩書きだけで全ての人間を恐怖に陥れる事ができる。

「折角久しぶりの学校でワクワクドキドキしているであろうお前らに、残念なお知らせが2つある!!」

一気に体育館がざわめきで満たされる。

先ほどまで千鳥の威圧感に気圧される事もなく平然としていた生徒会役員も、戸惑いを隠せずにいる。

そんな生徒達を一瞥し千鳥は悪戯を思いついた子どものように笑い、人差し指を立て言葉を告げる。

「1つは、明日は入学式だ。有望株が沢山入ってくる、覚悟しとけよ?で、もう1つは――」

体育館一帯に緊張の空気が張り詰める。

生徒会長の話はいつも生徒会役員どころか、教師にも知らされてないことばかりだ。

そのため生徒、教師一同冷や汗を掻き、次の言葉を待つ。

千鳥が重大発表をしようと威勢よく口を開くと同時に体育館の校庭側の扉が勢いよく開いた。

その場に居た全員が、一瞬にして千鳥から扉へと視線を移した。

千鳥自信も予測していなかった事で、驚きつつも扉に視線を向ける。

すると、そこには一人の男子生徒の姿があった。

「ふ、風紀、委員長・・・っ」

生徒は力なく告げるとその場に倒れこんでしまった。

生徒が呼んだ風紀委員長に該当するらしい長身の生徒は倒れた男子生徒に歩み寄り言葉を紡ぐ。

「・・・はぁ、負けてしまいましたか。風紀委員NO2が情けないですね」

その言葉に労わりの感情は一切なく、風紀委員長は僅かな嘲笑を浮かべる。

風紀委員長は長身で顔も整っていて、柔らかそうな白髪の上にメガネを乗せている。

笑顔はこの世のものとは思えないほど美しく、白い肌がより一層美しさを引き立てている。

しかし、金色に輝く目は獲物を狙う蛇のように鋭く棘があり、寒気さえ覚えるほどだ。

風紀委員長は生徒会長の方を向き、現状報告をする。

「・・・こうなるとトップ5も全滅ですね」

千鳥の目に輝きの色が含まれる。

風紀委員会と言えば、生徒の取り締まり役の一環を担う委員会だ。

指導する際、暴力に身を委ね暴れ出す生徒も大勢居る、そのため取り締まり役を勤める委員会には幹部でもトップクラス

の不良を就かせる。

しかし、トップクラスの幹部はそこに倒れていて、尚且つ残り4人の姿はない。

千鳥は興奮を抑えきれずマイクに向かって大声を上げた

「てめぇら!!式は終わりだ!!さっさと教室に帰りやがれ!!かなちゃん、後は頼んだ!!」

千鳥は真相を確かめざる負えなかった。

一体どんなやつらが、何人で、どんな手を使って、それを考えるだけで胸がどんどん熱くなってくる。

背後で聞こえる動揺の声を無視して千鳥はいつの間にか感情に任せて走っていた。


数秒後、千鳥が見た現実は驚きしか表せなかった。

力なく倒れている大柄な男子生徒4人の怪我は重傷で、医術知識がない一般人が一目見ただけでも全治三ヶ月は伊達

じゃないとわかる怪我だ。

怪我にも驚きを隠せないが、もっと驚くべき事なのは

「・・・これ全部、お前がやったのか・・・?」

信じられなかった。

いや、千鳥には信じたくない現実だった。

そう、4人の男子生徒が倒れている中央に立っていたのは――


漆黒の毛を持つ犬だった。


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