遅刻
快晴の空に一羽の小鳥が羽ばたく
新たな世界への旅立ち
新たな試練への挑戦
これから先に待ち構える
新たな出会いを求めて
ピピピピ、ピピピピ・・・
生活感溢れる一室に、電子音が響く。
カーテンの隙間から射す日光が夜が明けたと言うことを知らせる。
4月になり温かくなってきたにも関わらず厚着の少年は、当然ながら布団を跳ね、薄っすら汗を掻いている。
ピピピピ、ピピピピ・・・
鳴り響く電子音を気にも留めず熟睡し続ける少年。
ピピピピ、ピピピピ・・・
「う゛ーん・・・」
安眠を遮る電子音に苛立ち軽く唸り声を上げ、音源を手探りに探す。
今まで暗闇の中に居たせいか、明るい日光に目が慣れず聴覚だけを頼りに辺りに触れる。
すると、金属性のひんやりと冷たい物を手が捕らえた。
自分へと引き寄せると、次第に電子音が大きくなり、少年はこれが音源だと確信すると同時に、それ――目覚まし時計を壁
へ思い切り投げつけた。
衝突音と共に電子音が消えていくのを確認して、少年はまだまどろみの中にある体を無理に起こす。
大きく伸びをして、先ほど自分が投げつけ無残にぐちゃぐちゃなってしまった目覚まし時計を見て溜息をついた。
「・・・今度はもっと頑丈なやつを買おう」
今までにも何度も同じ事を繰り返してしまっているため、毎回一番丈夫なやつを買う。
しかし、寝起きは力加減ができないため毎回見事に壊してしまう。
いい加減諦め、一時期は買う事をやめた。
何時であろうと目が覚めた瞬間1日が始まる、遅刻しようが関係なかった。
それが不良人生を歩んできたためできた、生活リズム。
でも、今日からは違う。
新たな学校で、新たな生活が始まる。
銀髪で目立つ髪も黒に染め、不揃いだった後ろ髪も整え、ストレートにした。
見た目だけでも今までの自分とは違い、中身もきちんとできるように真面目に生活する事を決めた。
そのためには遅刻なんてできない、そう思い昨日目覚まし時計を買ってきたが
「やっぱ体までは変えれないか・・・」
少年は脱力したように肩の力を抜き、手元にあったひよこのストラップのついたシルバーの携帯電話を見た。
開くとディスプレイに時刻が表示され、少年は目を見開く。
今日から通う「月代高校」は通常9時から朝のHRが始まる。
そのため、8時45までに登校、それ以降は遅刻とみなされる。
しかし今日は始業式、いつもより早く学校が始まり、8時30分までには学校に到着しなければならない。
只今の時刻8時30分。
「・・・・・・」
衝撃の事実に一瞬思考が止まったが、すぐ現実に引き戻され慌てて布団から身を出す。
ものすごい勢いで服を脱ぎ、新しい学校指定のブレザーに手を掛け、ピタッと手を止める。
少年は今までブレザーと言うものを着た事がなかった。
小学校は自由服、中学校と前の学校では学ランだったため、ブレザーと言うものにすごく憧れていた。
憧れのものに手が届くと言うのは悪い気はしない。
変に緊張しつつも急いで服を身につけ、一通り終えると少年はあることに気がついた。
「ネクタイって、どう締めるの・・・?」
この16年間、ネクタイなど身につける経験がなかったため締め方がわからないのは当然だ。
感覚で締めてみるも上手く行くわけにいかず、何度も苦戦している所でハッと我に返る。
再び携帯電話を開くとそこには8時35分と表示されていた。
「やばっ!!」
確実に遅刻のため、ネクタイを締めるのに時間を割くわけにはいかない。
少年はネクタイを締めるのを諦め、首に提げ家を出る。
少年は携帯電話を開きながら駆ける。
ディスプレイには8時37分と表示され、そして――
似ても似つかない二人の少年の笑顔があった。
「ちー、俺の生き様、見ててくれよ」
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