29th





「誠に申し訳ございませんでした……」


「……いや……」


深々と頭を下げる私と、眉間にシワを寄せつつしきりに顔を背けている手塚君、というこの謎の構図。
全ては、昨日のゲーム最下位の罰ゲームのせいに他ならなかった。

……つまり……ええと、そう、したのだ。手塚君に、罰ゲームのアレを。


「あーっ!なに、もう終わっちゃった!?」


だん!とうるさく音を立てて生徒会室の戸を開くなり大声で言うのは、菊丸君だった。
え、なんですか菊丸君、見たかったんですか、嫌がらせですかそうですか。


「ちぇ〜!折角山川ちゃんにほっぺちゅーされる手塚の反応を楽しみにしてたのにい」


「…………菊丸」


「!……は、走ってきま〜すっ」


まだ何も言っていないのにグラウンドを走りに行った菊丸君。
……テニス部には、手塚君が怒ると走らなければならないという暗黙の了解でもあるのだろうか。何それコワイ。

しかしあの茶化し猫がいなくなったのは正直助かったので、ホッと一息ついて…………いたら、入れ違いに茶化し王子が満面の笑みを携えて現れた。
うわあ、嫌な予感しかしない。


「手塚」


「なんだ」


「ここ、立ち入り禁止にしておいた方がいい?」


「罰ゲームならもう終わった」


「そうじゃなくて、この後困るでしょ?」


「……何がだ?」


「他に誰もいない生徒会室で男女が2人っきりと言ったら、その後の展開は決まってるじゃない。クスクス、やらしいなあ手塚ったら」


「な、にを言っているんだ馬鹿かお前は」


意味の分からない会話を繰り広げる2人は数分の口論ののち、逃げる不二君を手塚君が追いかける形で私を置き去りにして、いずこかへと去って行ってしまった。
…………ちょ、どこいったの!



………………



手塚君と不二君を探して校内をウロウロ歩き回り、校舎裏まで来た。


「………………」


「………………」


帽子をかぶったテニス部の1年の子が、テニスウェア姿で木の下でファンタを飲んでいた。
この学校じゃ結構な有名人なんだけど、名前なんだっけ……とか思っていたら。


「……アンタ、罰ゲームの人?」


向こうから話しかけてきた。
多分この罰ゲーム中!の札を見て判断したんだと思う。そういう意味では私も有名人なのかもしれない(悲しいことに)。


「あ、うん」


「今から罰ゲーム?」


「あー、ううん、さっき終わったとこ…………なんだけどそういえばあと2回あるんだったうわあ嫌だ……」


「……その罰ゲームって、2回とももうアンタがやるって決まってんの?」


「え、ううん。でも大抵私が負けるから……あはは」


「……大変ッスね」


初対面の子にまで同情の眼差しを向けられた私は、一体どうしたらいいのやら。


「で?アンタはここに何の用なんスか?」


「あ、あー……えっと、あの、手塚君と不二君見かけなかった?」


「……不二先輩だったらさっき、ここ通って部室に向かったッスけど。でも部長はここには来てないッスよ」


「あ、そうなんだ。ありがとう、じゃあ部室に行ってみるね」


「あ、」


彼の言葉を頼りに私は、テニス部の部室へと小走り気味に向かった。
何か言いかけていた彼は、私が行ったあとに呆れ顔でこんなことを呟いていた。


「……罰ゲーム終わったんならさっさと逃げちゃえばいいのに。クソ真面目な人」



………………



「はい、山川さん」


「……え、なに、これ?」


テニス部部室にて。
ようやく不二君の姿を発見したがしかし安堵なんてする暇もなく、ゲーム機を手渡された。


「テトリス。スコアで順位決めるからね」


「………………」


そう……次は落ちゲーなんだね。私が格闘ゲームの次に苦手としている落ちゲーなんだね。

……やっぱり私はいつも、罰ゲーム直行便であった。



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