土曜日の午後。
休日出勤(グラウンド30周)をやり終えたばかりだというのにあまり疲れた様子のない不二君と菊丸君は、次なる試練に挑んだ。
いや、試練っていうかゲームなんだけどね。寧ろゲーム不得手な私に対する試練だけどね。
……しかし、だからといって。
「王様ゲーム!」
ゲームと名の付くものならなんでもいいのか、いや良くないよ菊丸君。
どこからともなく割り箸を取り出して高らかに掲げる菊丸君に、私は待ったをかけた。
「あの……菊丸君、菊丸君」
「ん、にゃに?」
「王様ゲームは、ゲーム……じゃないよね……?」
「え、でも罰ゲーム付きだよん?」
いや、そりゃまあ付いてはいるけども!でもそれはちょっと違くないですか!
なんかもうやる気満々な菊丸君を止めることなど出来そうにない私は一縷の期待をかけて不二君を見た。
不二君は私の視線に気がつくと、クスリと苦笑を漏らして鞄から何やら取り出した。
「英二、実はボクもゲーム持って来てたんだ」
「え、そなの?」
「裕太のを借りてきた」
不二君の手にあるゲームとは、携帯ゲーム機。
ソフトは何が刺さっているのだろうか……と思ったのも一瞬で、私はいま初めて不二君に全力で感謝した。ナイスグッジョブだよ不二君……!
「だからさ。どっちをやるか、山川さんに決めて貰おうよ」
「…………え?」
感謝したのも束の間だった訳で、不二君はあろうことかは私に選択を委ねてきたのだった。
……まあ、勝手にヘンなゲーム決定されるよりは遥かにマシなんだけどね。
………………
そんなこんなで無事に王様ゲームを回避した私は、不二君持参のゲームで遊ぶことになった。
…………が。
「何故に……ゲーム機の中で、ボードゲーム……」
「ん?どうかした、山川さん?」
「う、ううん……」
不二君が持ってきたゲームソフトとは。
“ももてつ”とかいう、サイコロを転がして出た目の数だけ進んで日本全国を周り目的地を目指したり物件を購入したりして総合資産1位を争う、子ども向けな絵柄に似合わずなかなかシュールなボードゲームだった。
「運要素が強いゲームだなあと思って……」
「ああ、まあそうだね。でも、目的地に辿り着けば勝ちってゲームでもないし」
「あ、でも山川ちゃんは運悪いからすぐにキングボンビーになりそう」
「クス、有り得るね」
そんな素人にはよく分からない会話をする2人のターンを見守り、私のターンが回ってくる。
今の資金は、菊丸君が7600万円、不二君が1億2200万円、私が500万円。
「あの、私さっきから赤いマスにばっかり止まるんだけど……お金が減るんだけど……」
「別の道から行ったら?」
「……そっちも赤マスだった」
「ぶっは!どんだけ運ないの山川ちゃん!」
菊丸君……あんまり笑い飛ばさないでください。今更なんで。
とまあ、そんなこんなしているうちに不二君が目的地の稚内に到着、貧乏神は私に憑きまとい、私の資金はとうとうマイナスに突入した。
もう……ここから挽回とか、不可能じゃない?
……だが、そんな風に諦めかけていた私に、どういう訳か神様がお情けをかけてくださった。
「次の目的地、鹿児島?うっわ、結構遠いなあ。不二なんて一番遠いじゃん」
「“ぶっとびカード”でも使おうかな?」
「ぶっとんだ先がすぐそこだったら笑えるけどね〜。あ、山川ちゃんも使ってみたら?さっき黄色マスで拾った“青ぶっとびカード”。絶対青マスに止まれるよん」
「あ、うん。ええと、青ぶっとび……?これかな、えと、いいの?使って大丈夫?」
「大丈夫だって、ほらほらAボタンAボタン」
菊丸君に背中を押され、恐る恐る使ってみた“青ぶっとびカード”。
……で、なんということだろう、私の電車は九州地方の南側へぶっとんだ。
「あの……すぐそこに、鹿児島駅が見える……んですけど」
「うへえっマジで!?うっわ、山川ちゃんがツイてるとか珍しい!」
カードの使用を薦めておいてその言いぐさはどうなんですか菊丸君……。
まあそんなことはさておいて、私は見事に目的地に辿り着き借金もチャラになって物件もいくつか買い、そして私の資金を減らしまくってくれた貧乏神とおさらばしたのだった。
……この時だけは。
………………
はい、結果発表。
1位・不二君・総資産18億6300万円
2位・菊丸君・総資産7億500万円
最下位・私・総資産9100万円
「………………」
……私だけ……億に届かないって、どういうこと……。
「いや〜、山川ちゃんはホント期待を裏切らないにゃあ」
「見事にキングボンビーの餌食になってたね」
「………………」
ああ……いや、うん……分かってはいたよ、分かってはいたけどね……どれだけツイていようと、やっぱりこうなる運命なんだよね。分かってはいたよ、うん。
「さってと!はい、くじ引いて!」
そう言って菊丸君が差し出すのは、さっきの王様ゲームの割り箸。
どうやらこれで罰ゲームを決めるらしい。
「えっと、じゃあこれ…………4番?」
「不二、4番なに?」
菊丸君に言われて4という数字の書かれた紙を開く不二君。
内容を見るや否や、クスッと笑いを零した。
「……本当、山川さんのくじ運は凄いね」
「え、なになに?」
「“手塚のほっぺにキス”」
「……………………………………………………………………………………………………」
どさっ
「わーっ!山川ちゃんが倒れた!」
あまりにもあんまりなソレに、ついつい私は意識を手放してしまった。
気を失う直前、私は「手塚君……もう10周くらい追加してくれないかな……」なんてことを考えたのだった。
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