「あーあ……」
本日二度目のアレのため、今日も重たい溜め息をつきながら、私は2年のクラスへ足を運んだ。
「ごめんなさいあの、海堂君はいますか……」
その辺にいた子に呼んでもらって登場した彼は、私を見るなり「あ……」と怪訝な顔をした。
この反応をされるのは、予想は出来ても慣れないのであまり気持ちいいものじゃあない。いや、慣れたくもないけれど。
「……ど、どうも」
「ども……ッス」
「………………」
「……罰ゲームッスか」
「罰ゲームです……」
本格的に嫌そうに顔を歪める彼には、なんか……ごめんよ、としか言いようがない。
でもそういえば、彼が単体でターゲットになったのは初めてな気がする。
「ええと、コレなんだけど……」
私がそう言って罰ゲーム内容が書かれた紙を渡すと、目を通した途端に海堂君は「は?」と言って眉間にシワを寄せた。
「……アンタ……運動部でしたっけ」
「ううん……帰宅部」
「…………死ぬッスよ?多分」
「私もそう思う……」
ここまで体力的にキツい罰ゲームは、私の中で史上初だろう。
一応OKは貰えたが、明日の事を思い、私はガックリうなだれた。
………………
さて、朝がやってきた訳だが、私は上下体操服姿で外にいた。
手持ち無沙汰に手をぶらぶらさせながら待つこと数分。
やがてタッタッタと走る音が近づいてきて、海堂君がやってきた。
「おはよう海堂君」
「……おはようございます。本当に……やるんすか」
「う、うん……うん」
「……一応、ゆっくりで行くんで」
「うん……ごめんね、ロードワークの邪魔しちゃって」
「いえ……」
とまあここまででもうお気づきの人もいるかもだけど、罰ゲームはコレだ。
一緒にジョギング。
……ああ、私そろそろ本気で死ぬんじゃなかろうか。
簡単な体操を済ませて、早速走りに行く私と海堂君。
しかしまあ……予想通りというか、数百メートル近く走ったところで私は息切れした。
まず、海堂君が速い。
これでも手加減しているというので驚きなのだが、私からしたら全力疾走だ。流石テニス部のレギュラーだけはある。
んで、私は運動不足過ぎる。
帰宅部だし休日は家で読書かネットサーフィンかゴロゴロだし、友達と遊ぶ場所は図書館とか友達の家とかだし、本当に体育の授業以外では運動していない。
日頃の運動不足を今になって体感しつつ、心配する海堂君に休憩まで付き合って貰いながら、なんとか走り終えたのだった。
……海堂君的ウォーミングアップな距離を。
「はっ、はっ、はあっ、はあっ……」
「………………」
公園のベンチにて。
無言で差し出されたドリンクをゴックンゴックンと流し込む。
深呼吸して、ようやく呼吸も整ってきた。
「………………」
何も発しない隣を見上げると、海堂君はなにやら携帯を片手に難しい顔をしていた。
メール作成画面……かな?
「……?」
「……不二先輩と菊丸先輩に、報告、しろって言われていて……」
私の視線に気がついた彼はそう言うと「フシュウゥゥゥ……」と溜め息?を吐いた。
「どう……報告すりゃいいのか……」
「えー、えーっと…………あー、とりあえず、生きてます……って伝えといてください」
「…………了解ッス」
ぽちぽちと字を打ち込む海堂君。
そんなこんなで、地獄の特訓……もとい、罰ゲームは終了した。
あとで菊丸君たちに聞いたんだけど、海堂君はメールでこう伝えたらしい。
『今、山川先輩と走り終えました。グッタリはしてるけど一応生きてます。あと、これは俺の私見ッスけど、運動系の罰ゲームは控えた方がいいと思います。ついて来れるかすら危うくて、本当に死にそうで、見てられなかったッス』
え、なにコレ、海堂君メチャクチャ優しい。
←前 次→