木、金、土、日。あと4日。
1日に2回だから、あと8回。
8回罰ゲームを頑張れば、私は解放されるんだ……!
そんなことを考えながらの、今回の罰ゲーム。
「桃と、俺に」
「ハグする」
「………………」
彼らは今度こそ私の心臓を止めたいのかと、本気で思いました。
何故って、要するにこういうことですよ。
ハグする→イコール抱きしめる→誰に?→モモシロ君と菊丸君に→私男子とハグ経験ない→つまり死ぬ
「いやいや、山川ちゃんったら難しく考えすぎだから!ちょーっとギュッてするだけでいいんだってば〜」
「いやいやいや、無理、私無理、死ぬ、心臓飛び出て死ぬ……」
「無理じゃないっ」
「無理っ」
「まったく、照れ屋さんだよね山川さんは」
クスクス笑いながら傍観していた不二君は、すくっと立ち上がると私の背後に移動し、なんということでしょう、背中を押してきたのだ。物理的にドン!と。
「わあっ」
「うおっと」
ハグ受け入れ体勢だった菊丸君の胸に私の身体はいとも簡単に収まり、慌てて離れようとした私を菊丸君って人は、そのままぎゅうってしてきやがったのだ。
「うにゃ〜、やわらかあい」
「は、うあ、い、は、あ、う、え、ちょ、ひう、ふあ、あ、う、え、う、あ、あ、あ……」
「あはは、山川ちゃん面白〜い」
あははじゃない……菊丸君ヒドイ……。
「さて、逃げられなくなったところで山川さん、大人しく桃のところに行こうね?」
不二君は不二君でヒドイ。
菊丸君に密着され不二君に腕を掴まれた状態で、私は2年の教室へと向かった。
視線がかなり痛かったので、それだけで死ねそうだった。
………………
「モモシロ君……今日はね、私の命日になるかもしれないんだ……」
「やってきて早々なに不吉なこと口走ってんスか山川先輩」
クラスでお食事中だったモモシロ君のもとへやってきた、私と菊丸君と不二君。
大体の人々は何事かと思うだろうね……。
「実はさあ、今回はこれなんだけどさあ」
菊丸君は先程私が引いた罰ゲームくじをモモシロ君にピラリと見せた。
「はあ、ハグ?」
「そ、ハグ!」
罰ゲーム内容をまじまじ眺めるモモシロ君に、菊丸君は説明した。
「山川ちゃんってばさ、俺がハグしただけなのに、死ぬって言うんだよん?」
「マジすか」
「うん、マジマジ。そのくらいで死にゃしないってね!だから桃もやっちゃって!」
「あ、いいんスか?」
「あの勝手に話進めないで…………あっうひぇあ!!」
どこから出してんだよと言われそうな謎の奇声を発してしまった理由はただひとつ。モモシロ君がハグってきた。
菊丸君と違って、すぐ離れてくれたけどね。モモシロ君いい子。
「あーなるほど、恥ずかしいんスね要するに」
「恥ずかしがることなんてないのにね〜」
「……菊丸君はもう少し恥じらい持とうね……」
半ば他人事のようにアハハと笑うモモシロ君と完全に面白がっている菊丸君、あとさっきからニヤニヤしている不二君。
ああ……ここに私を庇ってくれる優しい人はいないんだね……泣きたい。
「うう……」
「そんなに落ち込まないで山川さん。もっとスゴイのも用意してあるんだから」
慰めるフリしてさり気に爆弾発言投下しないでください不二君。
「ほう、スゴイのとはどういった内容だ」
「クス、気になる?でも内緒」
「……罰ゲームを今すぐ廃止にされたいのか?」
「もう、横暴だなあ手塚ってば」
……あれ、いまなんか手塚君の声が……いやでもここは2年の教室……あれ、幻聴?
と一瞬思ったのだが、どうやら幻聴じゃあなかったようで。
「大丈夫か、山川」
私の背後に、庇ってくれる優しい手塚君が、心配そうな顔で私を見下ろして立っていた。
「あれっ、手塚部長いつからいたんスか!?」
「俺もいま気づいたよん?」
「英二が桃に罰ゲームくじを見せてた時にはもういたよ」
え、それつまり一部始終じゃないですか手塚君。
「たまたま見かけたんだ」
「それで、気になって後を尾けてきたんだ?」
「違う、たまたま同じ方向に用があっただけだ」
「心配性だね手塚は」
「違うと言っているだろう」
あくまで否定する手塚君だけど、私が罰ゲームで大変な目に遭っていないかと心配だったのは本当みたいで。
その優しさに私は思わず、ほっこりとした笑みを浮かべた。
さあ、罰ゲーム終了まで、あと7回。
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