甘かった。
「…………はい?」
罰ゲームは次の日曜まで。
あと数回で終わってしまうという事実はちょっぴり寂しくもあり、勿論嬉しくもある訳だけれど。今日は火曜、あと6回なんだな……と感慨に耽りながら本日の罰ゲームを実行中に、とんでもない話を聞かされたのである。
「だからね、それ終わったらすぐ第2弾するからね〜罰ゲーム」
「勿論、ボクたちと。だよ?……ん、山川さんもうちょっと強く」
不二君にマッサージしている途中そんなことを言われ、つい手を止めてしまいそうになった。
「英二がトランプ持ってるから、ポーカーかババ抜きでもする?大富豪でもいいけど……あー、そこそこ」
「そこってどこだよ〜、不二」
いや、どこでもいいんだけど……そんな話はどうでもいいんですよ2人とも。
あの……え、なんだって?どういうこと?
罰ゲーム付きゲーム大会を?
もっかいやる……?
「いやだってさあ、あと1週間もないんだよん?もっといっぱいやりたいじゃん?」
「今日から毎日ツーラウンドでいくから、覚悟しておくんだよ山川さん」
「………………」
ニコニコと悪気の欠片も見当たらない笑顔を浮かべるのは、私の罰ゲームを何故だか毎回楽しみにしているクラスメート、不二君と菊丸君で間違いない。
そんな2人に、私は心中で叫んだ。
…………私の意思はーーーー!!?
………………
そんなワケで、本日2度目のゲーム大会である。
……泣いても、いいかな。
私の机と菊丸君の机を合体させて作ったテーブルに、菊丸君愛用のトランプが3人分配られてゆく。
「今朝は何して遊んだのー?」
「えと、ジェンガ……」
「へえ、トランプじゃなかったんだね」
私たちは毎日のようにゲームをしているが、流石に毎日トランプをしているワケではない。
総当たりオセロ対決の時もあれば百人一首大会の時もあるし、五目並べトーナメントの時だってある。
ちなみに、トーナメントの時は1回戦負けの人の中から抽選で罰ゲームやる人が選ばれる。なんて嬉しくない抽選なんだろう。
その抽選に毎回当たる私の運も、どうなってんのって感じだけど……。
「……ていうか、あのさ、2回やるのは……うーん、いいとして、なんで2人となの……?」
そんな私の疑問に、あっけらかんと答えたのは菊丸君。
「山川ちゃんとさ、やってみたかったんだよねん。にゃは」
……そういえば前に、この3人でゲームしようよ的なことを言っていた気がする……この人。
具体的にどんなゲームをしたいのか分からないまま配られたトランプで、私たちがすることになったのはトランプゲーム定番のババ抜きだった。
私の手札に、ババは入っていない……ってことは、どっちかが持ってるんだな。
菊丸君が不二君のを、不二君が私のを取って、私が菊丸君のを取る順番。
何周かして揃ったカードが真ん中に沢山溜まってきた頃、取ろうとした菊丸君の手札の中で1枚だけ、カードが飛び出ていた。
……流石に、いくらなんでもそれは引っ掛からないよ菊丸君?
「えーと……」
じっくりとカードを見て、これだ!と思った右端のカードを引き抜く。ハートの5。よし、揃った揃った。
2枚のカードを捨てる私に、ぶーぶーと口を尖らせる菊丸君。
彼は、私をなんだと思っているのだろうか。
そんな感じのことが4、5回繰り返され、残りの手札がそれぞれ3枚になったゲーム終盤。
とうとう、ヤツが姿を現した。
「……うあ」
「へへーん、やりぃ!」
またしても飛び出ている菊丸君のカードの右隣にあるやつを取ったら、ポーカーの時は嬉しいけれどババ抜きの時にはお目にかかりたくない道化師が、嘲笑うかのような顔で私の手札に舞い込んだ。
「山川ちゃんってばさっきからさあ、こっち側のしか取ってないんだもーん」
そう言って手持ちの左側(私から見たら右側)をトントン指で叩く菊丸君……え、そうだっけ?
菊丸君は、残り2枚の手札の中に不二君のから引いたカードを足し、揃ったらしく嬉しそうに2枚捨てた。
……あ、あれ?
「英二、あと1枚だね」
「うん、次山川ちゃんが引いたら終わり〜!にひひっ」
「………………」
……いち抜け確定ですか菊丸君!ヒドい、人にババ押しつけといて!
ということは要するに、私と不二君の一騎打ちになるっていう…………うう、勝てる気がしない……。
「頑張ってねん、山川ちゃーん」
要らないエールを受け取って、私は落胆の溜め息をついた。
………………
結果発表、じゃじゃーん。
……いや、じゃじゃーんなんて言うまでもないじゃん。私だよちくしょう。
そこ、笑ってる場合じゃない。
「はい、クジクジ〜!」
菊丸君が私の目の前に置いたクジBOX。箱が2個あるのは気のせいかな……。
「いっこは人で、もいっこが罰ゲームね!」
「……え?」
菊丸君の大雑把にも程がある説明を補足した不二によると、クジを2つ引いて、罰ゲームターゲットと内容を決める、という方式らしい。
“誰に”“何をする”っていうやつかあ。うわあ、緊張する〜……。
「1枚目はーっと……おー、乾かあ」
「2枚目……“飲み物に乾汁を混ぜる”」
「………………」
えーっと……ホントにするの、それ……?
「乾汁はここにあるから。じゃ、いってらっしゃい」
「頑張ってねーん!」
不二君に何故か用意してあった液体を持たされ、菊丸君に物理的に背中を押されて、私は明るくない顔つきでトボトボ3−11へと歩いた。
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