自分の優柔不断っぷりにはもう、自分自身呆れるというか情けないというか……。
とにかく私は、男の子に告白されてもきっと、答えあぐねてしどろもどろになってしまっている内に相手に痺れを切らされ飽きられるんだろうなあ、と思った。
「えっと……あの、その……」
「………………」
みんなが私を注目している保健室、私が言い放った決断は、
「ほ、保留で……」
だった。
……いや、決断でもなんでもないんだけどね。何ひとつ決まってないんだけどね。
あ、いや、でもでも一応私だって考えたのだ。
確かに罰ゲームはすっごいイヤだし、さっさとやめたい。
やめたいけれど、もしやめたとしたら……どうなるだろう?
罰ゲームを通して、テニス部のメンバーと沢山知り合った。
女子にモテモテで、スポーツ万能で成績も全体的に良い方で、性格だって全く悪いところのない、あのレギュラーメンバーだ。
そりゃあ、私だって一般的な女子生徒なのだし、なんていうかその、テニス部の人たちにさ。憧れてたりもしてたよ。
そんな人たちと、私はいま関わっているのだ。
いや、まあ……すごい、彼らのオーラに気圧されてる感があるし罰ゲーム内容も何なのコレ、みたいな時も多々あるけれど。
それでも、彼らと知り合ったのは罰ゲームがあってこそな訳で、つまりそれを止めたら彼らとの繋がりはなくなる訳で、不二君や菊丸君はただのクラスメートに戻り、手塚君は到底手の届かない生徒会長&テニス部部長、モモシロ君や海堂君から「山川先輩」と呼ばれることもなくなり、その他のテニス部のメンバーと話す機会もなくなるのだ。
それを考えるとやっぱり……。
…………うん、止めた方がいいかもしれないし、止めたくない気もしないでもない。
要するに、判断に困るのであった。
「えっと……山川ちゃん?それは、罰ゲーム続けていいってことでイイの?」
「えと……どうだろう……?」
「山川……はっきり言え」
困惑顔の菊丸君と、険しい顔の手塚君。
呆れてるのかな、呆れてるんだろうな……あはは。
でも一応、シリアスムードではなくなったみたいで。
「止めたいんだろう山川?」
そう言う手塚君に、手を挙げ言うのは菊丸君。
「ハイ!俺は続けたいです!」
「お前の話は聞いていない」
菊丸君の要望をバッサリ斬る手塚君に、今度は不二君が。
「ボクももう少しやってたいな」
「お前の話も聞いていない!」
眉間のシワを深め、手塚君は強い口調で一刀両断した。
しかし。
それでもめげない、バンソーコーネコとサボテン王子。
「分かった、手塚も混ざろう!」
「もう既に混ざっている」
「いやそっちの話じゃなくって!」
「どっちの話だ!」
「でも手塚だって、罰ゲーム止めたくないでしょう?」
「馬鹿言え」
「ていうか手塚、なんでそんなに反対するのさ〜?」
「お前らは山川が心配ではないのか?」
「あ、なら多数決で決める?」
「どう考えても賛成派が多いだろう、却下だ」
「じゃあじゃあ、今後の罰ゲームターゲットを全部手塚だけにしちゃう!」
「もっと却下だ!」
「次の罰ゲーム、山川さんとデート」
「!……お前らグラウンド10周してこい!」
「えー?」
「………………」
……ものすんごい言葉の応酬を、テニス部の彼らは繰り広げた。
普段からは想像出来ない漫才じみたこのイケメンたちの掛け合いを、私や私の友達はポカンとして見ている。
「……とにかく、罰ゲームはもうこれきりにしろ!いいな?」
「えー、いくない!」
「いいな?」
「手塚の堅物」
「い、い、な?」
そんなやり取り(説教)の後、3−6コンビは「はーい」と言いながら保健室から出て行った。
グラウンドに行ったらしい。えっと……本当に走るんだ。
「全く……」
言いながら、手塚君は深く溜め息をついた。部長って、大変なんだな……。
マイフレンズは、味方の2人がいなくなったことでかなり居心地悪そうにしている。
手塚君が、彼女たちを見やった。びくりと肩を揺らすマイフレンズ。
「……お前たちは放課後、テニス部部室へ来るように。以上」
友達たちの返事も待たずに、手塚君はさっさと出て行ってしまった。
青ざめてガタガタ震えている我が友に、さあなんと声をかければいいのやら。
考えながら私は、ベッドの上小さく溜め息をついた。
………………
んで、翌日。
「昨日さあ、部活の前に手塚と話し合ったんだけどさあ」
教室へ入るなり私の席にズンズンと近寄って話し始めるのは、勿論あの2人である。
嬉しさ半分、残念そうな気持ち半分というような表情……ってことは、つまり?
「続けてもいいことになったよん!」
「ただし期限付きで、ね」
「そーそー、今度の日曜までだってさ」
……だそうである。
つまり、今日が火曜なので1日1回罰ゲームをやるとして、あと6回やるのだ。
喜んでいいのか、それとも悲しむところなのか。
「ま、手塚にしては譲歩した方かにゃ〜」
「手塚って、厳しいは厳しいんだけど、なんだかんだ言って甘いところあるよね」
「ね〜」
どうつっこんでいいか分からない会話を繰り広げる2人を、私はただただ口を閉ざし見つめるだけだった。
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